5章 ヘクトルの武具を巡る争い

 

 

 

追撃をやめ、ルッジェーロはブラダマンテとはぐれたことに気がつくと、すぐに探すために丘や谷をうろついた。この途中、ルッジェーロは2人の騎士に出会った。

騎士たちはルッジェーロとともに彼の仲間を探すことを手伝うと約束をしたので、ルジェーロはブラダマンテの鎧などについて説明をしたが、漠然とした嫉妬のようなものを感じたためにその性別と身分は黙っておいた。

 

騎士らと合流したのは夕方だったので、一緒に夜間を移動した。

それから翌日の夜明けになると、合流した異邦人のうちの1人がルッジェーロの盾に目をやり、何の権利によってその紋章が書かれた盾を装備しているのだ、と質問をした。この異邦人こそ、マンドリカルドである。

ルッジェーロは自分がヘクトルの子孫であることをマンドリカルドに対して宣言した上で、お返しに、彼がヘクトルの武具に対し権利を主張するわけを尋ねた。

マンドリカルドは、ヘクトルの鎧を手に入れた経緯を説明し、2人のうちトロイアの象徴を身につけるに相応しい騎士かを、武力にかけて決めよう、と提案した。

 

ルッジェーロもこの提案に対して異議はなかったのだが、対戦相手が剣を持っていないことに気がつくと、良心に従って反対をした。

だがマンドリカルトは、このことは決闘をするに問題はない、と主張した。その上で、自分はドゥリンダナを奪い取り、ヘクトルの武具をすべて揃えるまでは決して剣を身につけない誓いをしているのだ、とも言った。

 

マンドリカルドが言い終わらないうちに、さらにもう1人の同行者が意義を唱えた。読者諸兄はマンドリカルドと同行している、という点で気がついたかもしれないが、彼こそはグラダッソである。

グラダッソは、ドゥリンダナを手に入れるため、(すでに説明したように)フランスに恐るべき戦争を仕掛けるために出航したのだから、自分の方にこそドゥリンダナを手に入れるための冒険をする優先権がある、と主張した。

こうなると、タタール王マンドリカルドとセリカン王グラダッソとの間で仲たがいが始まった。

マンドリカルドは楡の木を根から引き抜いて剣の変わりにした。一方、グラダッソも武器の点で不公平を避けるため、松の木を武器にした。

互いに敵意を抱きつつ、このような武器による攻撃がされているのを、ルッジェーロが笑いながら観戦した。

 

それでも、一応はルッジェーロも何度か戦いをやめさせようとしたが、結局成功はしなかった。

激しい戦いが繰り広げられていると、乙女を連れた騎士がこの場にやってきた。ルッジェーロは、乙女たちに対してこの戦いの原因と状況を説明した。

この騎士こそフロリマールであり、連れの乙女はフロリドリである。

フロリマールも協力して調停をし、2人の戦士は快く戦いをやめた。

この方法として、フロリマールは、ドゥリンダナの持ち主であるオルランドの居場所まで自分なら案内をすることができる、と言ったのである。

 

「もしも」とフロリマールは言った。

「貴方たちがオルランドに掛けられた魔法を癒してあげることができるなら、剣について権利主張もできるでしょう。

彼は断るようなことはしないでしょうし、貴方たちも剣を得るためにこれ以上よい状況はありませんよ。

さあ、ここから2リーグほど行ったところに『笑いの川』と呼ばれる川があります。ですが、この川は『嘆きの川』と呼んだ方が適切かもしれません。

あるアフリカの魔法使いが以上のことを教えてくれたのですが、オルランドは、この川の魔法にやられたたそうです。

私は彼を助けるか、彼の元に行くまでの間に死ぬ決意をしているのです。ですが、私だけの力だけでは冒険をやり遂げるに不十分でしょう。

天のご意思は、貴方たちの協力を得て彼を助けろ、と言っているのだと思うのですが、どうでしょう?」

 

マンドリカルドとグラダッソは、フロリマールに同行するために即座に休戦した。

ルッジェーロもまた、この場に取り残されたくはない、と考えた。

 

だが、フロリマールが冒険に必要な人数として提示した数と、参加したいと思った人数に差があったため、この話し合いは、深刻な問題をもたらした。必ず1人は参加することができないのである。

参加できない人間は、くじ引きで決められることになったが、偶然によってマンドリカルドが選ばれた。

しぶしぶこの場を立ち去ったマンドリカルドは、しばらくぶらついたあと、最終的にパリの手前に布陣するアグラマンテの野営地にたどり着いた。

 

2010/09/20

 

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