4章 ルッジェーロとブラダマンテの出会い
この物語の主たる題材であるキリスト教徒と異教徒の間の戦いが置き去りにされていたが、ここで語ることにしよう。戦局は一進一退でどちら有利ともいえない。
フェッラウは前線を引くと、近くの森に入った。森の中でしゃがみこんで水を飲もうとしたところ、兜を川の中に落としてしまっていた。そのため、ちょうどこのとき、兜を釣り上げようとしていた。
このとき、幸運は異教徒の側に味方した。ルッジェーロとリナルドが徒歩で一対一の戦いをしていると、シャルルマーニュ軍は全戦局で劣勢になり、混乱に陥った。
2人の戦士の決戦は、逃亡しようとする兵やこれを追いかける兵らのために中断を強いられた。
そうすると、リナルドは戦場で見失ったバヤールを探し、またこの馬を取り戻そうとしていた。
だが、この馬を得ることができず、リナルドは木の茂る森にないって言った。
彼についてはここまでにして、著者はルッジェーロについて語らねばならない。
ルッジェーロも自分の愛馬・フロンティノを見失ったことを嘆いており、徒歩だったのだが、歩いているうちに再び馬を見るけることができた。
やがて、彼はブラダマンテ(※注 リナルドの妹。続編の『狂えるオルランド』ではメインヒロイン)とロドモンが戦っている現場にやってきた。
ルッジェーロには、一方が異教徒でもう片方がキリスト教徒であることは見分けられたが、それぞれが誰であるかは分からなかった。それでも、彼らに近づくと、丁寧に戦いの中に割って入ると、こう言った。
「そこの御二方のうち、キリストを崇拝するものよ、戦いをやめて私の話を聞きなさい。
キリスト教徒軍は敗れ、撤退しています。もし指揮官に従って撤退するのなら、もう時間はありませんよ」
(※注 日本語の上で表現できなかったけど、ルッジェーロの表現を見ると、ブラダマンテに対し男性形を使って話しているので、彼女を男性であると誤解しているのが分かる)
この言葉に仰天したブラダマンテは、すぐに戦場を離れたいと考えたが、敵対するロドモンがこれを拒んだ。
ロドモンの非礼に憤慨したルッジェーロは、自分がロドモンと戦っているうちに、この場を立ち去るように言った。
それから2人とも長く、互角に戦ったが、この決戦はもはや逃走したキリスト教軍に追いつけないと判断したブラダマンテが帰ってきたために中断した。
ブラダマンテが戻ってきたのは、自分はシャルルマーニュ側に所属していていること、および異邦の騎士が自分に対し礼儀正しく振舞ったことなどによって、そのままにしておくことができないと考えたからである。
ルッジェーロの援護がやってきたころ、ついに強烈な一撃によって、戦いは決した。
彼女が到着したものの、ルッジェーロにとってもはや援護は不要であった。というのも、ルッジェーロの一撃を受けた敵は、剣と手綱を取り落としてしまったからである。
だが、ルッジェーロは無防備な状態の相手を攻撃するようなことはせずに距離をとった。一方で頭部への打撃に朦朧とし、意識が飛びそうなロドモンを乗せた馬は、戦場をうろうろとした。
ブラダマンテは、ルッジェーロの武勇と慎み深い行為に気高さを感じつつも、彼の方に近寄った。
彼女はルッジェーロに声をかけ、本来自分に向かってきていた敵による危害にさらしたまま置き去りにしたことを詫び、これは自分の主君に対する忠義のためと弁解をした。
このような会話をしているうちに、ロドモンが意識を回復した。
だが、ロドモンは先刻とは態度を変え、「礼儀正しさによって自分を負かした男」とこれ以上の戦いをする意思はない、と述べた。
こういうと、ロドモンは敵対することをやめ、剣を拾って馬に拍車を入れて立ち去った。
ブラダマンテは再度、戦場を徹底することを望んだところ、ルッジェーロは彼女の性別を知らないまま、彼女に同行すると主張した。
彼らが一緒に道を進んでいくうちに、ブラダマンテは新しい仲間の名前と身分について質問した。
これに対し、ルッジェーロは自分の所属する国と家柄についてこう語った。
「アステュアナクス(※注 トロイアの王子、ヘクトルの息子。ネオプトレモスに殺されたとするのが一般的)はギリシア人の策略によってトロイアが陥落したあと、シチリアでメッシーナ王国を建国した。だが、この国はエイストス(※注 (Egystus、発音は適当)の裏切りによって崩壊した。
アステュアナクスの未亡人はこのとき妊娠していたが、敵から逃れるためにレッジョ(※注 Rheggio。もしかしたら、Reggioのことかもしれない。イタリアの都市)に逃げ込んだ。
彼女はここでポリドールという名の息子を洗礼させ、育て上げた。
このポリドールの子孫からポリダンテが生まれ、彼は2つの偉大な家系の起源となった。
1つはピピンやシャルルマーニュといった王家の起源となった。もう1つからはさらに2つの英雄が生まれたが、それはリサとも呼ばれるレッジョの子孫であり、アンコーネではまた別の英雄が生まれた」
「私は、そのレッジョの子孫なのだ」とルッジェーロは言った。
「私の父もルッジェーロという名であり、父はアゴラント(※注 Agolant)とガリセラ(※注 Gallicella、発音は適当)の息子に当たる。
母であるガリセラは、戦争のために父が不在の間に、母に対してなされた迫害に耐えかねて、私を妊娠中に逃亡したのです。
そして外国で私を出産し、私の命と引き換えに亡くなりました。
この外国ではある魔法使いが私を養育し、砂漠の真ん中で武器の使い方や馬の乗り方を指導してくれたのです」
ルッジェーロの説明が終わると、彼も礼儀正しいやり方で仲間に対して同じ質問をした。
彼女は偽りなく、自分がクレルモン家の生まれであり、おそらくはルッジェーロも知っているであろう、リナルドの妹にあたることを説明した。
ブラダマンテのことを男だと思っていたルッジェーロはこの説明に驚き、彼女に対して兜を取ってくれるように頼んだ。
こうして彼女の素顔が明らかになると、ルッジェーロは喜びにうっとりとした。
有頂天で彼女を眺めていたが、思いもかけない危険が後の恋人同士に迫ってきていた。
2人がいた森には、撤退するキリスト教軍を迎撃するための兵が待ち伏せしており、これが襲い掛かってきたのである。これにより、兜をかぶっていなかったブラダマンテは頭に怪我をした。
ルッジェーロはこの攻撃に激怒し、またブラダマンテも再び兜をかぶると、彼とともに速やかな報復攻撃にでた。
あたりの敵を倒しつくすと、後追い攻撃をしていると、2人は分かれてしまった。
著者は2人のうち、さきにルッジェーロについて語るとしよう。
2010/09/20
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