2章 マンドリカルドがヘクトルの武具を手に入れること

 

 

 

1マイルほど馬を進めると、乙女はマンドリカルドに対してこの先のたびの危険さを説明した。

この先、第一の試練としてグラダッソと戦わなければならないというのだ。グラダッソはグリフォンを打ち負かしたほどの剛の者である。

 

このようにお喋りをしていると、彼らは雪花石膏(アラバスター)で作られ、黄金で覆われた城にたどり着いた。

城の前には銀梅花(ギンバイカ)の垣根で囲まれた芝生があり、そこには鎧に身を包んだ騎士が馬の上に座っていた。この男こそ、かのグラダッソに他ならない。

マンドリカルドは彼に気がつくと、兜のバイザー(※注 該当する日本語が思いつかないので画像参照。兜の目を守ってる開閉式の部分)を降ろして槍を構えた。

 

 

 

城を守る戦士も準備を済ませると、互いの敵めがけて馬の拍車を入れて走らせた。

互いの力によって槍は砕けてしまい、次は剣を抜いてから馬を駆けさせた。

戦いは長く続き、一進一退であった。マンドリカルドは決着を付けようと考えるとグラダッソめがけて剣を投げつけた。そらから2人の騎士は取っ組み合いをすると、ともに馬から地面に落ちてしまった。

この戦いでマンドリカルドは馬乗りの状態で地面に落ちたのであるが、この有利な体制を維持してグラダッソを捕虜にした。

乙女は侵入者側の勝利を宣言すると、2人の仲裁に入り、困惑する敗者をできる限りの方法で慰めた。

 

戦いの終わりとともに日が沈んでしまい、マンドリカルドが魔法の城に侵入するには遅い時間となってしまった。というのも、乙女の説明によれば城に入ることができるのは日の出の後だけだと言うのである。

乙女はエナメルのように輝く草と花の咲く場所に彼を案内し、護衛をするから寝るように言った。だがマンドリカルドは近くに宿泊所に使える城があるのだが、危険に身をさらすことでのみこの城で休むことができるのだ、とも説明した。

彼女が言うには、その宿泊可能な城は優しくて礼儀正しい淑女が住んでいるのだが、彼女はたびたび客人をもてなそうとするときにマラプレサ(※注 Malapresa、発音は適当)という名の巨人が邪魔をしに来ると言うのである。そのため、もてなしを受けるには危険と労苦を乗り越えて、巨人の妨害をうまくやり過ごさなければならないのだ。

 

マンドリカルドは穏やかな忠告を拒んで野宿をせず、淑女の住む城に行くと主張した。

彼と乙女とはその方向に進むと、すぐに千の松明が輝く淑女の住む城にたどり着いた。

まるで明りは友のため、あるいは敵のために輝いているように見えた。そして出入り口の廊下では、来客に対して注意を与えるべく小人が姿を現した。

小人は角笛を吹いて警報を出すと、飛び道具で武装した家臣たちがバスコにーに姿を現した。だが、もし遍歴の騎士がもてなしを求めて来るのなら、乙女たちはその騎士を歓待し、城に宿泊させるだろう。

 

マンドリカルドはこのやり方を受け入れ、その後には邸宅の女主人から充分なもてなしを受けた。

だが、この祝宴は警告を告げる小人の角笛によって中断された。

角笛の合図はマラプレサが城門の前まで来ていることを知らせるものであり、巨大な鎚矛を手にした巨人が客のもてない中にやってきた。

巨人とタタール王との間で凄まじい戦いが始まったが、巨人は殺され、死体は城の水路に投げ込まれた。

祝宴の中断はほんの短時間にすぎず、晩餐会は深夜まで続けられた。

ようやく酔っ払いたちが退散し、女主人から食事の世話を受けたマンドリカルドは立派な城に宿泊した。

 

太陽が昇ると、彼は長椅子から起き上がり、城の庭に下りると自分の体を泉で清めた。それから鎧を身につけ、先日からの乙女の案内を受けて冒険の続きに出発した。

 

城門の外から魔法の城の東門に回ったが、門は外ほど立派でなく、またマンドリカルドは出入り口に守備兵がいないことに気がついた。

ここで彼は、黄金の付け柱から吊り下げられている盾に触れながら、出入り口に向けてある誓いをしなければならない、という説明を受けた。

それは空を飛ぶ白鷲があしらわれているのだが、これは鳥に姿を変えたゼウスがフリギアの花とでも言うべきガニメデを連れ去ったことにちなむものである。

また、その下にはこのように文字が彫られていた。

 

――ただ、ヘクトルの如き武勇を持つ者のみは例外として、

――誰であっても、わが防具に触れて汚すことは許さない。

 

乙女はすぐに夫人用の小馬から下りると、地面にはいつくばった。一方、タタールの王も同じ程度の敬意を込めてお辞儀をしてから、なんらの障害もなく入り口を通過した。

 

東門から城の中に入り込んで盾のある方に進むと、マンドリカルドは自分の剣でその盾に触れてみた。

たちまち地震があたりを揺らがせ、マンドリカルドが入ってきた門が閉じられてしまった。

ただ、むこう側の門は開けられており、その向こうには黄金色の穀類でいっぱいの畑が広がっている。

乙女が言うには、彼がここを出るためには、目の前の穀類を刈り倒し、畑の中にある1本の木を根っ子から引き抜く以外の方法はない、とのことである。

戦士は何の返答もせずに準備をすませると、すぐに剣を使って刈り入れを始めた。

すると、奇妙な出来事が起きた。刈り取った穀物が貪欲な獣、すなわち獅子、豹、一角獣などに姿を変え、刈入れ人を殺そうと襲い掛かった。

 

襲撃を受けたマンドリカルドは、どうなるか分からなかったものの、乙女の指示で獣の群れの中に石を投げ込んだ。

この石は、緑、緋色、白、空色、金色に色を変化させる。

不思議なことがこれに続いて生じた。獣たちの中で輝きが起こるや否や、獣たちは互いに攻撃し合い、怪我をした獣らは全滅したのである。

マンドリカルドは奇跡に驚嘆して足を止めたりはせず、試練をやり遂げようと足を進め、木を引っこ抜こうとした。

大きく、大量の葉を付けてる木に抱きつくと、渾身の力を使って根っ子を引き裂こうとした。

そのたびごとに葉が雨のように降りそそいだが、さきほどの獣と同様に葉は猛禽に姿を変えて騎士に襲い掛かった。

新たな妨害にへこたれず、彼は努力が報いられるときまで根を引き抜き続けた。

ついに木が抜けると、続いて突風と雷が落ち、鷹とハゲワシは散り散りになった。

 

だが、これらの現象は新たな敵を登場させるだけに過ぎなかった。木を引き抜いたあとに開いた穴から、たくさんの尻尾をもつ恐ろしい蛇が1匹這い出てきたのである。蛇はマンドリカルドに飛びかかると、彼の四肢を締め上げたため、彼の体はもう少しで押しつぶされるところだった。

だが、幸運は再び彼に味方した。なんとか自由を取り戻そうと、怪物を体に巻きつかせたままもだえ苦しんでいたところ、彼は後ろの穴に落ちてしまったのである。その結果、下敷きになった蛇は彼の体重で押しつぶされてしまったのである。

 

マンドリカルドはいくらか回復すると、大蛇が死んだことを確認した。それから自分が落ちた穴の中を調べてみたところ、そこは高価な金属で覆われ、石炭が燃えている宝蔵のような場所にいることに気がついた。

そこの中心には象牙のような物でできた棺が安置されていて、その上には鎧を着た騎士らしきものが寝転がっている。だが、実際に鎧の中身は空っぽであり、マンドリカルドの戦利品となるべきものであった。

かつてはヘクトルの所持品だったものを綺麗に並べてあるのだが、剣だけはこの場になかった。

マンドリカルドがこの戦利品を眺めて立っていると、背後の扉が開き、美しい乙女の集団が踊りながら中に入ってきた。乙女たちは彼を盾が吊るされていた場所まで連れて行ったのだが、そこには城の主人たる妖精が威厳ある様子で座っていた。

彼は妖精から勝ち取った武具を与えられたが、そのためにはドゥリンダナ以外の剣は決して身につけない、という誓いを立てさせられた。ドゥリンダナをオルランドから奪い取ることによって、初めてヘクトルの武具すべてを手に入れることになるのである。

 

このようにして冒険をやり遂げると、戦士は重大な目的を果たすためにかつて立ち去ったタタールの王国を目指して出発した。

このとき、マンドリカルドとともに多くの著名な騎士たちが妖精の牢獄から解放された。彼の成功によって自由を取り戻した囚人たちは、いずれも自分の冒険の途中に不覚を取った者である。

その中にはグラダッソ、イソリエル、サクリパン、グリフォン、アクィラント、その他大勢の騎士が含まれていた。

 

2010/09/20

 

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