17章 魔の泉に飛び込むオルランド

 

 

ドゥトンを捕虜として残し、かつ自分が不在の間のビゼルタを総督に委ねると、アグラマンテは侵攻作戦について考えながら船に乗り込んだ。

スペインで船を下りると、シャルルマーニュとマルシウス王の軍が残っていたアルバーノ山(※注 アルバーノはイタリアの都市。同名がいくつもあるので管理人に特定は無理です。たぶん、アルバーノ山は今ではカーヴォ山と名前を変えたとかネット上で見つけました)にたどり着いた。

 

いまだ、変わらぬ激情を持って戦いは続けられており、リナルドはフェッラウと、グランドニオ王はオリヴィエ侯爵と、サーペンティンはデーン人のオジェと、そしてマルシウス自身はシャルルマーニュと対戦していた。

 

これらの決戦は、ロドモンとフロリマールとの戦いに比べればさほど重要なものではなかった。

オルランドはこの大決戦を観戦していたが、フロリマールがこの強敵と手合わせしている間は、決してロドモンに武器を向けようとはしなかった。

 

このようにオルランドが見物人としての立場にいたところ、彼は敵軍が接近して来る音を耳にして驚いた。音のするほうに目を向けてみれば、大量の槍や軍旗・三角旗が山を降りてくる様子が見えた。

オルランドはすぐさま鞍の上から体を曲げて地面に落ちていた重い槍を拾い上げ、アグラマンテ軍に遭遇すれば戦うための準備をすませた。

 

この間、アフリカの支配者は臣下の王で、ピナドロという者に最低で一人以上の捕虜を取ってくるように命じて戦場に送りこんでいた。また、ピナドロはキリスト教軍の情報をアグラマンテのもとに伝えることも期待されていた。

ピナドロとオルランドは顔を合わせると、この臣下の王は支配者の命令を達成するどころか、逆に伯爵によって生け捕りにされてしまった。

だが、彼は何もせずに自軍に戻るという約束をさせられた上で、すぐに勝者によって解放された。

ピナドロによる失敗の報告は、アグラマンテを驚かせるようなものではなかった。イスラム軍は奔流のように山を下って平地に駆け下りる。

 

新たな敵軍の到着を目にしたシャルルマーニュは、押し寄せるマルシウスをその場に残し、リナルドに対してフェッラウとの戦いを一時中断するように命令した。

それから、シャルルマーニュは向かってくる敵軍に向けて自分の兵を指揮したが、この向かってくる軍の中にオルランドがいることに気がついた。

他の師団たちは互いに助け合って追随したが、血なまぐさい戦場では、成功はおぼつかない。

一方で、オルランドはシャルルマーニュ軍が苦戦し、自分が力を貸さなければならないような状況を待ち望んでいた。これも、褒美としてアンジェリカを手に入れるためである。そのために彼は戦線から引っ込んで、近くの森でキリスト教軍の危機を祈っていたのである。

偶然にも、リナルドとの長い戦いのため、シャルルマーニュの激しい攻撃にさらされたマルシウスと同じくらいに疲れきったフェッラウは、避難所をもとめてこの森にやってきたのである。

川岸で水を飲むためにしゃがんだフェッラウは、兜を川の中に落としてしまった。拾い上げようとしてもうまくいかず、そうしているうちに彼はオルランドによって発見されてしまった。

伯爵は充分に作法を心得ていたため、兜をかぶっていないという不利な相手を攻撃することなどできなかった。さらに、フェッラウは先ほどリナルドと繰り広げた激戦のため、明らかに疲労している様子でもある。

オルランドは少しの間フェッラウと語り合い、戦況を知ると、シャルルマーニュ軍に加勢するために馬に拍車を入れた。

 

戦場においてオルランドは優れた武勇を発揮し、多くの敵兵を殺しまくったあと、ルッジェーロのいる方に進路を取った。

彼の運命に従う若者を止めることができなかったため(※注 ルッジェーロは戦争に参加すれば、裏切りにあって早死にするという運命が予言されていた)、ルッジェーロに同行していたアトランテは、オルランドに勝ち誇る異教徒軍と、個人的に危機に陥ったシャルルマーニュの姿を見せて注意を逸らせた。

この幻影に惑わされ、オルランドはイスラム軍がいると思い込んだアーデンの森の中に入っていった。

すると幻は消えてしまい、無意味な追跡に疲れきったオルランドは、泉の近くでブリリアドロの背から降りた。

水を飲むためにしゃがみこんだオルランドは、泉の底に水晶の宮殿があることに気がついた。

城壁の中で踊る淑女たちを目にした彼は、とうてい冒険の誘惑に耐え切ることはできず、しっかり武装して泉の中に飛び込んだのであった。

 

 

2010/09/08

 

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