19章 オルランドは女に騙されやすい

 

 

 ふたたび場面を変え、オルランドのことを語ろう。

 彼は、アンジェリカが危険と考えた冒険に出発し、オルガーニャへの道を進んだ。

 橋にたどり着いたオルランドは、全身武装した1人の騎士が馬に乗って、橋を防衛している様子に気がついた。

 その近くには、松の木から髪で吊り下げられた美しい乙女が、つらそうに泣いている。

 オルランドは、すぐさま乙女の元に向かい、彼女を解き放とうとした。

 だが、武装した騎士はオルランドに対し、彼女は犯した罪の報いを受けているのだから、そのままにしておくように言ってやめさせた。

 そうして、彼は乙女の犯した罪を証明するために、以下のように語り始めた。

 

「我が名はウルダーノ(Uldano、発音は適当)。そして彼女はオリジッレ(Origilla、発音はたぶんイタリア風)。

 我らはバクトリアのある都市で生まれ、私は幼いころから彼女に対し恋情を抱いていた。成長するごとに、私は彼女の移り気な様子から力を引き出したものだ。

 また、ルクリーノ(Lucrino、発音は適当)という別の若者も、私と同じように彼女を愛していた。

 私たちは2人とも、彼女の駆け引きにもてあそばれ、自分が愛されていると思い込んだのです。

 

「じらされていることに耐え切れなくなったため、私は彼女の足元に平伏して、私の苦しみを哀れんでくれるように懇願しました。

 彼女は私の情熱の半分ほどを理解してくれたように見えました。

 ですが、彼女は、彼女の名誉を犠牲にすることなく私の恋情を満たす方法は1つしかないことを告げ、そのための戦略として以下の方法を提案しました。

 

 『知っているでしょう』と彼女は言いました。

 『私の弟のコーブリノ(Corbirio、発音は適当)は、ようやく成人になろうかということ、すでに大人であり、また武器の扱いに長けたオリンゴ(Oringo、発音は適当)と決闘し、殺されました。

 この背信に対する復讐のため、私の父はこの殺人者を捕らえたものに莫大な賞金を掛けました。すぐに弟の復讐を請け負ってくれる人が見つかるでしょう。

 貴方がオリジッレの身代わりとして、囚われの苦しみを受けるならば、私の父の家に入る許可が得られるでしょう。

 さすれば貴方の忠誠は報いを受けるでしょう、私が後から貴方を救出いたします』

 

「私は愚かにも罠にかかり、計画を請負うため、彼女の示した武器をもち、ろくな準備もせずに出発しました。

 一方、裏切り女はわが恋敵のルクリーノをも呼びつけると、彼に対して弟を殺した者を殺すか、捕虜にすべきときが来たことを説明しました。

 彼女はルクリーノの恋情を知っていたので、彼に対してオリジッレの軍服を借り受けた私を送り出した場所を指示し、そこに行かせました。

 

「作戦をより実効的なものにするために、彼女はルクリーノに対し、第三の恋人であるアリアンテ(Ariantes、発音は適当)の軍服を身につけさせました。

 というのも、彼女の父親は、アリアンテがオリンゴに復讐をやり遂げた場合、彼女と結婚させる約束をしていたからです。

 

「同じころ、私とアリアンテは出会ってしまい、私をオリンゴと誤解したアリアンテの攻撃を受けた私は少しの間抵抗しましたが、彼に降伏して捕虜になりました。

 アリアンテはオリジッレと結婚できるという希望を胸に戦っていました。

 

「一方、彼女の命令で私を追跡してきたルクアーノは、本物のオリンゴと出会ってしまいました。

 2人は戦いの末、お互いに重傷を負いました。

 ルクリーノはまだオリンゴを攻める余力を残していましたが、捕虜となって連れられていました。

 オリジッレの父親は、最初に彼を目にしたとき、彼のことをアリアンテだと誤解しました。

 近づいて間違いを知った父親でしたが、先だってアリアンテに約束したのと同じ条件で、捕虜を引き渡すことを条件としてルクリーノと娘の結婚を許可しました。

 

「ですが、この申し出がなされてすぐ、オリンゴの鎧で返送した私を連行するアリアンテがやってきました。

 こうして、彼女の計画は明らかになってしまい、失敗したのです。

 

「事態が明らかになると、新たな争いが起こりました。

 アリアンテはルクリーノの振る舞いを非難し、オリンゴは私が不正をしたことで彼女と結婚する機会を奪われたと考えました。

 

「私たちの国で他人の軍服などを身につけたものは、勝手にこれを使われたものが許さない限り、死刑となります。

 事件は王の判決を受け、我らはみな有罪ということになりました。

 すでに話したように、オリンゴは若くて充分に訓練を受けていないコーブリノを殺害しています。

 アリアンテは他人の命をたやすく売り払いました。

 ルクリーノと私は鎧と軍服を奪い、これらを着用する権利がないのに勝手に身につけました。

 

「オリジッレは特に重い刑罰を受けることになりました。すなわち、死ぬまでの間、髪でもって吊るされることになったのです。

 そして判決によって、我らは彼女に対する刑の執行を助けるため、ここから彼女が風で揺れるところを監視し、警護しているのです。

 我らはくじ引き決めた順に従い、交代制で彼女を監視していますが、私はその第一番目ですが、彼女の助け出そうとする騎士をすでに7人も殺しました。

 その騎士たちの武器などが、あの木にくくりつけられているのが見えるだろう」

 

 騎士が喋り終わると、すぐさま弱りきった乙女が、この騎士は嘘を吐いていること、助けに来た騎士たちをひどいやり方で殺したことは許されざることであり、彼らの武器などを積み上げてトロフィーを作ったのは、自分を助け出そうとするものたちを怯えさせるためである、と主張した。

 

 

 オルランドは淑女の言葉を信じ、ウルダーノに挑戦し、彼を馬から突き落とした。

 だが、彼は敗北を認めず、すぐさま角笛を吹き鳴らした。ドワーフが塔の上から音色を聞きつけると、ウルダーノの仲間の騎士たちが戦おうと駆けつけてきた。

 4名の騎士が次々と姿を現すが、全員がオルランドによって馬から突き落とされてしまう。

 オルランドは乙女のいましめを解くと、自分の馬の鞍に彼女を乗せてその場を立ち去った。

 

 

 彼らは道中で愉快なお喋りをしながら進み、草原の真ん中で馬を下りた。

 そこには巨大な大理石があったのだが、その石はくぼみが切り込みが入れられており、また黄金の文字が彫り付けられていた。

 乙女は、ここにはオルランドの能力を試すに相応しい不思議なことがあると教えた。つまり、もし苦労してこの大理石のくぼみに手足を突っ込んで頂上にまで昇ることができるなら、天国と楽園が視界に開けている様子を見ることができるのだ、と。

 オルランドはこの話を信じると、大理石の段を上り始めた。

 ブリリアドロの背からこれを目にしたオリジッレは彼の愚かな振る舞いを嘲笑し、その場を立ち去ってしまった。

 

 オルランドはちょうと掘り込まれた文字を調べていたのだが、これがニネヴェ(※注 メソポタミア北部)から運び込まれたものであり、ニヌス(※注 古代アッシリアの王。実在が疑問視され、架空の人物という説もある)の墓石であることが分かった。

 これしきの発見で心を満たされなかった彼は、魂のそこから乙女を罵った。

そして彼は冒険を続けるため、徒歩で出発した。

 

 だが、著者はここで第1巻を終わらせなければならない。

 次の巻では、これまで以上に不思議な題材を取り扱うことを約束しよう。

 

2010/07/23

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