41章第2話 ヴィテゲの凶刃にフン族のベルンの王子が命を落すこと

 

追放されたディートリッヒは、フン族の王・エッツエル(※訳者注 アッティラと同一だと思えば近い。)のもとに庇護を求めた。
彼はフン族らに歓迎されると、充分な名誉を受けた。
そして、エッツエルとともにウィルキナ・ランド(※訳者注 ノルウェー、スゥエーデンのこと)の王と、またロシアやポーランドと戦い、多くの土地を征服に貢献した。
ディートリッヒとその騎士たちの功績に対して、エッツエルは非常に感謝し、待遇は悪くない。
だが、ディートリッヒは失った自分の王国を嘆いてばかりいたのである。

王妃のヘルヒェ(Helche、発音は適当)は悲嘆にくれるディートリッヒを気の毒に思い、自分の姪であるヘラド(Herrad、発音は適当)をディートリッヒの妻として与えたのである。
さらに、ディートリッヒの再婚の直後、エッツエルはディートリッヒのため、春の初め頃にはアメルングに向けて遠征をすることを約束した。
この遠征の目的はエルマナリクと戦って、アメルングをディートリッヒに返すためである。

ディートルマルの息子がベルンを離れてから、年月が経過した。
彼の弟であるディートヘアも少年から成年となり、勇気と豪胆さを備えた騎士に成長していた。
また、彼はエッツエルの息子であるエルプやオルトウィンと友だちになった。
エルマナリクとの戦争のために軍が招集されると、ディートヘアを初めとする3人の若武者たちは、武勇優れた戦士としての名誉を得るために戦場での活躍を望むようになった。

だが、エッツエルの妻は息子たちの出陣を喜ばなかった。
事前に彼女は悪夢を見ていたからだ。その夢の中では龍が城にやってくると、息子たちを強制連行し、彼女の前でむさぼるのである。
しかし、若武者たちはエッツエルに向かって是非とも軍に入れてくれるように嘆願し、これは結局許された。
ディートリッヒも若武者たちを危険から庇護することを誓い、エッツエルはラディーガー辺境伯をはじめとする勇猛な騎士らとともに若武者たちを軍隊に編入させた。
ディートリッヒとディートヘア、さらに王とともにフン族の国に亡命していた英雄たち、すなわちヒルデブラント、ウォルフハルト、デーン人のディートライプ、その他の騎士たちもこれに従軍した。

ジフカは病に倒れたエルマナリクに代って軍を指揮し、アメルングの王国の国境付近であるラヴェンナの川岸の南側でフン族の侵略軍を待ち伏せた。
ベルンに向かうディートリッヒであるが、イストリアの都市(※訳者注 現在のイタリアとかクロアチアのあたり)に到着した際、弟のディートヘアやエッツエルの息子であるエルプとオルトウィンを危険から遠ざけるため、老イルサンを世話役につけて待機させることにした。
ディートリッヒは、英雄たちが過酷な戦いが繰り広げられる戦場に送り込むにはまだ若すぎる、と考えたからである。
だが、若武者たちはこの処置に対して不満げであった。
3人はこっそりと遠征軍に付いていくことを決意した。そこで、イルサンをうまく騙すと、こっそり街を抜け出し、馬を駆って軍に合流した。
このことが、若武者たちは破滅への道を選択したのである。

戦闘開始の前夜のこと、ディートリッヒ軍は川の北側に布陣し、老ヒルデブラントは偵察に出かけた。
すると、敵軍から同じく偵察の騎士が1人やって来るではないか。
敵の密偵と顔を合わせたヒルデブラントであったが、その騎士がレイナルドであったために戦うことはしなかった。
彼らは友人同士であるが、戦争のために敵味方に別れたことを互いに悲しんでいたのだ。
そのため2人は抱擁し合い、口付けを交わして別れたのであった。

翌朝のこと、ディートリッヒは騎士たちを率い、事前にヒルデブラントが発見した浅瀬を遠って川を越える。
そして、川越えをしたディートリッヒ軍はジフカ軍を分断させると、ジフカ軍の兵士は逃亡を始める。
だが、ジフカとともに従軍していたヴィテゲは逃げようとせず、むしろ馬に乗って戦い続けた。
そんなヴィテゲが孤立していることに気づいたのは、ディートリッヒ軍の旗手を殺した時点であった。

そのときである。ディートへアとエッツエルの息子たちが前線にやってきた。
3人はヴィテゲに気づくと、彼を反逆者と罵った(※訳者注 ヴィテゲは41章第1話以降、エルマナリク側。すでにディートリッヒの部下ではない)。
オルトウィンはヴィテゲに挑戦するが、たちまち斬り殺されてしまった。
エルプも兄弟の復讐のため、ヴィテゲ目がけて突撃する。

ヴィテゲは、
「やめておけ。お前の兄弟と同じ運命をたどることになるぞ」
と忠告をするものの、エルプはこれを無視した。

エルプが恐れ知らずの勇者でなければ、命を落とさなかったかもしれない。
短い戦いの後、ヴィテゲの持つミーミングの剣は彼の首を胴から切り離してしまったのだ。

ディートヘアは友人たちの死に悲しみ、また憤激する。
馬上で剣を抜いてヴィテゲに挑戦するディートヘアであるが、ヴィーラントの息子は自分に近づいてくる彼に向かって、

「お前はディートリッヒの弟、ディートヘアだな?
ここを立ち去るがいい」

ディートヘアはこう言い返した。
「たしかに、私はディートリッヒの弟だ。
貴様の知っての通りのことだろう」

「他の騎士を相手にしろ、それでも名誉は得られる。
だけど、おれはお前と戦わない。
ディートリッヒの弟を殺したくはないからな」

「貴様はエルプとオルトウィンを殺した!」ディートヘアは叫んだ。
「絶対に逃がしはしないぞ、犬畜生の反逆者め。
たとえ死ぬことがあろうとも、お前を殺してやる!」

言い終えた瞬間、激しい攻撃が繰り出されたがヴィテゲはこの攻撃を恐れることなく、うまく攻撃を受け流す。
だが、ディートヘアは第2撃でヴィテゲの馬の首を切り落とし、これによって必然的にヴィテゲは馬を降りざるを得なくなった。

「イルミン族(Irmin、ウィキによると、ゲルマンの部族らしい。発音は適当)の神よ、御覧下さい」と、ヴィテゲは叫んだ。
「おれは身を守るために戦うのだ、この男を殺したくて戦うわけではない」

こう言うと、ヴィテゲはミーミングの剣を一閃し、若き英雄の体を一刀両断した。
戦いに勝ったものの、ヴィテゲは涙を流した。
前途あるディートヘアを殺したこと、そしてディートリッヒの激しい怒りを思うと、悲しみで心が満たされたからだ。

2010/03/07

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