41章第3話 ヴィテゲがこの世から姿を消すこと

 

イストリアから若武者たちと同行していたイルサンは、ディートリッヒの元に向うと、若武者たちに最期を報告した。
ディートリッヒはイルサンを自らの手で打首にすると、悲劇の行なわれた場所に急ぐ。
そこで若い英雄たちの死体を目にしたディートリッヒは、悲しみのあまり涙を流した。

「あぁ、なんという悲劇か!
私はこれほどの報いを受けるような罪を犯したことがあっただろうか?
私の体は、これ以上戦いの傷に耐えられない。
この戦場では我が軍が勝利したというのに、弟が死に、エッツエル王の子供らも命を落とした。
これほどの失態を犯しては、もうフン族の国に帰ることはできないではないか!」

ディートリッヒがあたりを見渡すと、視界の中にはディートヘアの馬に乗って逃走するヴィテゲの姿が見えた。
ヴィテゲの姿を見つけた彼の心臓は、復讐の炎で包まれた。
ディートリッヒは、素早く乗騎のファルケを疾走させて裏切りの騎士を追いかける。
怒りに狂う彼の口からは炎が吐き出されていた。

ヴィテゲに追いついたディートリッヒは、
「どこに逃げるつもりだ、地獄の猟犬め!
この反逆者の臆病者め、弟を殺した仇討ちだ、私と戦え!」

こう言われてもヴィテゲは馬を止めない。ただ、泣きながら答えた。
「おれは自分の命を守るため、この場から逃げなければならない。
あんたとはどうしても戦いたくはないんだ」

やがて、逃げ続けたヴィテゲは川岸にたどり着いた。
ついにヴィテゲの背中までかなり接近したディートリッヒは槍を握り締め、反逆者目がけて投げつけるも、命中はしなかった。
さらにヴィテゲは馬を止めず川に入り逃げ続ける。これを追跡するディートリッヒはわずか一馬身ほどの距離まで近づいた。

だが、突如として水中から人魚が飛び出してきた。この人魚はワグヒルト(Waghild、発音は適当)と言う名であり、ヴィテゲの曽祖父の母親にあたる人物だ。
彼女はヴィテゲと彼の馬を握り締めると、水中に沈み込み、波の下を進む。
ディートリッヒは馬で進めなくなると、泳いでまでもヴィテゲを追いかけるものの、結局弟の仇に追いつくことはできなかった。
これ以降、ヴィテゲの姿が人間に目撃されたことはない。
彼は水中にある洞窟の中、人魚に守られているのだという。

2010/03/07

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