38章第2話 巨人ファゾルトがディートリッヒに復讐を挑むこと


ディートリッヒが森を進んで行くと、美しい乙女が彼の方をめがけて走ってきた。
彼女は全力で走っていたため、顔は青白く、恐怖で覆われている。
というのも、彼女はエッケの兄弟であるファゾルトと、彼の猟犬に追われていたからである。

ディートリッヒは猟犬から乙女を保護し、さらに彼女を追いかけてきた巨人にも立ち向かう。
ファゾルトは王子がエッケの鎧を身につけている姿を見ると、

「そこの馬に乗っている奴、もしやおれの兄弟、エッケなのか?」

ディートリッヒは答えた。
「違う。私はエッケを殺した者だ」

「この犬野郎め」とファゾルトは怒鳴った。
「貴様はエッケの寝込みでも襲ったに違いない。
でなきゃ、貴様がエッケを殺せるはずがないからだ」


(※訳者注 ファゾルトは確信をついているけれど、どうも慣用句かなんかで、「寝込みを襲ったに違いない、でなければ〜」という表現があったみたい。この後、龍退治のエピソードでも似た発言が見られる。)

「それはデタラメだ」とディートリッヒ。
「お前の兄弟は真っ暗な森の中、シブルク王女のために私に挑戦してきた。
そして、エッケは強かった。
もう、彼ほどの強敵と再び剣を交えることはできないだろう」

ファゾルトは激怒すると、ディートリッヒに襲いかかってきた。
じっさい、ファゾルトはエッケよりも手ごわかった。
ファゾルトは戦いにおいて1度以上の攻撃を仕掛けるのを恥としていた。しかも、実際に一撃で勝負をつけるので、決して2度以上の攻撃をする必要がなかったのである。
その凄まじい一撃はディートリッヒに命中し、たちまちに失神したディートリッヒは落馬した。
巨人は、ディートリッヒが死んだものと考えて、トドメを刺さず城に帰っていった。

だが、ディートリッヒはそう長い間地面に倒れていたわけではない。
意識を取り戻すと、立ち上がり、すぐに馬に飛び乗った。
そして、復讐のために大急ぎで巨人を追いかける。

ファゾルトは、自分の第一撃を受けても死ななかった相手とは決して戦わないとの誓いを立てていたのであるが、ディートリッヒはこう言ってファゾルトを挑発した。

「お前は私が怖いのか。
臆病者のファゾルトめ、そうでなければ兄弟を殺した奴と戦うはずだからな」

王子の言葉に我慢できなくなった巨人は、激怒して振り返った。
互いの剣が素早く抜かれ、熱く、長い戦いが始まった。
ディートリッヒは敵の攻撃で3ヶ所の負傷をしたけれど、エッケザックスを使って王子は巨人・ファゾルトに5ヶ所の傷をつけた。
ついに巨人は降参して叫んだ。

「殺さないでくれ。
そうしたら、俺はお前に仕えよう。忠実な部下になるから」

「私は、お前の兄弟を殺してはいない」と、ディートリッヒは答えた(※ 明らかに事実と異なるけど、原文がこうなってる)。
「喜んで、お前を私の騎士にしよう。
だが、私との間で過ちを犯した者を親類とするような男は私に仕えるにふさわしくないのだ。
さぁ、私たちはこれからは全ての人の前で、兄弟のようにして助け合うということを誓おうではないか」

こうして、彼らは義兄弟の契りを交わし、一緒にジョックリムの山に向けて出発した。
 


2010/02/18

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