30章 アーサー王の判決


決闘を終えた、ガウェインは、叔父であるアーサー王に対して言った。

「陛下、おれは名前を聞くまで、対戦相手がイヴァンだと知りませんでした。
名乗り合い、互いの素性を知った以上、もう戦うことはできません。」

イヴァンもまた、

「私も同じ気持です。
さぁ、陛下。この勝負は、私の負けです。
ガウェインの勝ちを宣言してください!」

「いや、イヴァン。それは違う。負けたのはおれだ!」

「いや、私だ!」

と、またも2人で激しい口論が繰り広げられた。
互いに、弁舌の限りを尽くし、いかに自分が劣勢であり、対戦相手が優勢であったかを王や観客に対して説明する。
アーサー王は、しばらくの間、嬉しそうな様子で2人の主張に耳を傾けた。
――いかにも牧歌的な気がするし、互いの友情を感じさせるシーンであるが、こやつら、自分が負けると、必然的に自分を代理人に選んだ乙女が敗訴するということを忘れていないか、と訳者は思う。

「ふむ、君たちの深い愛情の気持ちは理解した。
そして、君たちは互いに自分の負けを譲らない。
だが、、私はこの決闘裁判について判決を下そう。
…そもそもの原因となった姉姫と妹姫はどこにいるかね?」

そう言って、アーサー王は姉姫と妹姫を呼び寄せた。

「私は、姉姫が妹姫の相続権を奪っていると判断する。
これは否定することができない事実だ。
さぁ、姉姫はここで真実を告げなさい。」

「あぁ、陛下。それは違います!」

しばし姉姫は抵抗したものの、アーサー王は事前に姉姫たちの父親の家来だったものから、いかにして姉姫が遺産を独り占めしたのかを知らされていたのである。
ていうか、そんな姉姫の不正は結構有名だったそうな。
――え、じゃぁ初めから決闘裁判する必要はなかったのでは、と訳者は思うけれど、この時代の常識というものが分からない。

とにかく、アーサー王はこう言った事情を説明し、

「どうしても、君が和解しないのならば仕方がない。
私は、甥のガウェインがこの決闘裁判で負けを認定しよう。
私の方だって、こんな甥の敗北を宣言したくはないのだけれどね。」

――冷静に考えれば、これは最後通牒だ。
和解に応じれば、姉姫は自分の相続分は獲得できるが、和解を拒否すれば1文だって手に入らない。
こうとなれば、和解に応じざるを得ない。
嫌々ながら、姉姫は和解を受け入れ、遺産は姉妹で半分づつとなった。
もちろん、妹姫の方はこれに対してなんの不満もない。

決闘裁判が終わると、どこからかライオンがイヴァンに向かって駆け寄ってきた。
この恐ろしい出来事を目にして、観客たちは当然に混乱に陥いり、逃げ出そうとする。
もちろん、すぐさまイヴァンはこのライオンが自分の友だちであり、決して人を襲ったりしないということを説明した。
言われてみれば、『獅子を連れた騎士』の評判は宮廷にまで届いている。

「あぁ、イヴァン!
ちょうど、おれが王妃の捜索に行っている間、おれの甥と姪を守るため、『獅子を連れた騎士』が巨人と戦ったと聞いていたけれど、あれは君だったのか!
君には、返し切れないほどの恩ができてしまったよ!」

ガウェインは嬉しそうに言った。
それから、2人は鎧を脱ぎ、治療のため医者が呼ばれた。
しだいに、2人の怪我は治っていったのだが、イヴァンには心残りがあった。
どのみち、体の傷は治っても、イヴァンの心の傷はローディーヌの許しをえない限り、決して癒えることはないのだ。

(…ローディヌ、君に会いたい。
ずいぶんと、寄り道をしてしまったけれど、体が治ったらまたあの泉に行こう。)

2009/12/27

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