29章 獅子の騎士vs太陽の騎士


さて、ガウェインとイヴァンは、1言も会話をすることなく距離をとった。
もし、互いの声を聞いていれば、これからの出来事は大きく変わっただろうに…。
そして、2人は剣を持って激しく打ち合った。
たちまちに、火花が飛び、鋭い刃は潰れて丸くなるほどの斬撃!
しかも、互いに狙うべきは首など太い血管のある場所で、一歩間違えば致命傷になりかねない場所ばかりだ。
やがて、2人の鎖帷子は千切れ、盾は砕け、また兜についている飾りは無残な姿になってしまった。

かなりの長時間、2人は剣で激しく打ち合った。
息は上がり、鎖帷子や兜などはほとんど残骸と化してしまった。
2人は、ひと息つくために一旦は距離をとるものの、また激しく戦った。
彼らの試合ほど勇敢に戦う騎士の姿を見ることは、もうないだろう。

このようにして2人が戦っている間、観客席ではなんとかして和解で決着をつけさせようとする動きがあった。
この勝負、どちらの騎士も非凡な戦いぶりを発揮しており、かつその実力は甲乙つけがたい。
2人とも優れた騎士であるのだから、どちらともに名誉を与えるのがふさわしい。
このまま試合続けさせ、どちらを負けさせ、不名誉を与えるのはなんとも惜しいのである。
アーサー王やグィネヴィア王妃などが姉姫の説得に当たるのだが、姉姫はこの説得を聞き入れなかった。

一方、試合中のガウェインとイヴァンはともに驚愕していた。
自分の全力をもってしても、相手を倒すことができない。
それどころか、ちょっとでも気を抜けば殺されてしまう。
このような強敵と戦うのは、彼らにとって初めての経験であった。

やがて、決着のつかないまま日が暮れてしまった。
決闘裁判が正午過ぎから行なわれたのだから、軽く半日ほど戦い続けたわけである。
互いに無傷とは言えず、千切れた鎖帷子の下では痛みとともにどくどくと出血していた。
試合前には憎しみすら感じていたのだが、今では互いに対する敬意の気持ちが生じていた。
今のようにナイター設備もないし、また互いに疲労困憊していて休みが欲しくてまらない状態となっていた。

そこで、イヴァンの方からガウェインに対して語りかけた。
「…騎士どの、よろしいかな?」
そんなイヴァンの声は、激しい戦いのため弱々しく、またカスれてしまっており、誰の声か分からないものとなっていた。

「もう日が暮れてしまった。
これだけ戦ったのだから、休憩をしても誰も異議を唱えますまい。
ここで休憩を入れませんか?
…あぁ、それにしても貴方ほど強い騎士と対戦するのは初めてです。
貴方の剣術の見事なことと言ったら、私の腕前ではさばききれず、痛い目にあいましたよ。」

すると、ガウェインも答えた。

「いや、おれの方こそ君の強さには驚かされた。
対戦中、おれが何度気を失いかけたか、君は知らないだろう?
おれだって、君に与えたのと同じか、それ以上に痛い目に合わされたよ。
…おれはロット王の子、ガウェインという者だ。
是非、君の名前を教えてはくれないか?」

「なんだって!」

イヴァンはびっくり仰天した。
自己嫌悪と悲しみのあまり、イヴァンは剣と盾を投げ捨て、馬から降りて叫んだ。

「なんてことだ! 知らなかったとはいえ、君と戦っていたとは!
もう戦うことはできない、私は降参する!」

「え、何を言い出すんだ?」

「私だよ、君の最愛の友、イヴァンだ!」

「なんだって!」
と、今度はガウェインが叫んだ。

「おれだって君を倒して得られる名誉なんて欲しくはない。
おれの方こそ降参するよ。見てみろ、おれは君の攻撃を受けてボロボロだ。
だから、勝利は君にこそふさわしい!」

そう言って、ガウェインの方も馬から降りると、2人は互いに抱き合い、キスをした。
それから、どちらが試合の敗者であるかという問題に対して、激しく議論を始めた。
2人の議論は、様子がおかしいことに気づき、アーサー王たちが競技場の中に入ってきた時もまだ続けられていた。

アーサー王たちは、『獅子を連れた騎士』の正体がイヴァンだったことにたいそう驚いたことは言うまでもない。

2009/12/27

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