31章 ふたたびルネットの話術


ガウェインとの決戦で負った怪我が癒えると、イヴァンは即座に宮廷を出発した。
旅の仲間はライオンだけ。いまや、ライオンなしでの生活は考えらなくなっていたのだ。

イヴァンとライオンは、ローディーヌの領地を目指して進む。
やがて、泉にたどり着くとイヴァンは泉の水をそばの岩にかける。
たちまちに大嵐がやってきた。

この大嵐で、ローディーヌの治める街は大混乱に陥った。
――ていうか、もっと穏健な方法でローディーヌの街に行けないのだろうかと思うけれど、なんでも異界らしいので仕方ない。

「まったく、なんということかしら!
街を荒らすものは誰であろうと、決して許せないのだわ。」

と、ローディーヌは言った。

「で、ございますねぇ。」とルネットが相槌を打つ。
「いつまでも、泉を守る騎士がいないのでは、領民も安心できません。
近いうちに、何とかしなければなりませんね。」

「ルネット、なにか考えがあるのなら言ってみなさい。
貴女はなかなか賢いですからね、きっと言い考えがあるのでしょう?」

「そうですねぇ…。」

と、考えこむフリをしながらも、ルネットの考えというのはすでに決まっている。

「レディ、心当たりといえばこんな騎士がいます。
その方は、巨人を退治し、1対3の決闘にも勝利した強い騎士です。
この方なら適任ではないでしょうか?
彼の居場所も、だいたいわかっております。
ただ、問題がありまして…。」

言わずと知れた『獅子を連れた騎士』のことだ。
ローディーヌの方も、以前ルネットの救出に現れた『獅子を連れた騎士』と面識がある。
一度あっただけであるが、ローディーヌの方は『獅子を連れた騎士』に対してそれなりに好感を持っていた。

「その方なら、いいでしょう。でも、その問題とは何かしら?」

「はい、その方はある貴婦人の怒りに触れてしまい、悲しみのあまり死んでしまいそうになっているそうです。」

「あぁ、その話ですね。
私の方でも、彼がその貴婦人に許されるようになにかできないかしら?」

「レディ、貴女が協力してくださるのなら、きっとうまく行くでしょう。
一つ、誓を立てていただけますか?
彼が貴婦人と和解できるようにする、と。」

ローディーヌにとって異存はない。
深く考えることもなく、膝をついて誓いを立てた。

「神にかけて、私は『獅子を連れた騎士』が貴婦人との愛を取り戻せるよう、全力をつくすことを誓ましょう。」

…このようにして、ルネットはイヴァンとの約束を守ることに成功した(23章参照)。
もう、誓いを立てた以上、ローディーヌはイヴァンを許さざるを得なくなった。
かように、言質とってしまうというやりかたは非常に有用だ。

じっさい、聡明なルネットにとって、この程度のことはそうそう難しいことではない。
ただ、ルネットにとって考えていたよりも達成感を得ることはできなかった。
――どうしてルネットは約束を果たしたのに、達成感を得られなかったのか。
その辺は原文にもないんで、各自が想像して欲しい。

さて、ルネットは馬に乗って城を出ると、イヴァンを探しに出発した。

2009/12/29

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