12章 イヴァンの裏切り


イヴァンが、ローディーヌのもとから旅立って1年。とうに約束の期限はすぎさってしまった。
理由はいくらでもあげられるだろう。まずは、ガウェインがイヴァンの帰還を許さなかった。
そのため、イヴァンはガウェインといっしょに各地のトーナメントに参加し続けた。
だが、なんと言ってもイヴァンは約束を忘れてしまったのだ…。

薄情と言えばそれまでだが、約束の期限を大幅にすぎて8月半ばのこと。
イヴァンとガウェインは、この日もトーナメントで勝利と名誉を勝ち取り、アーサー王の宮廷に帰りついた。
そうして、玉座に座っているアーサー王を見た瞬間、ふとイヴァンは約束の日がとうに過ぎ去っていることにきがついた。

(しまった! なんということだろう、もう取り返しが付かない…。)

そう思ったイヴァンは、涙をこらえることができくなった。
すると、突如として黒い馬に乗った乙女がやってきた。ただならぬ様子を感じたのだろうか、誰も乙女が馬から降りるのを手伝わない。
――ちなみに、この乙女がルネットなのかどうかは、訳者には分からなかった。ここの主語が全部「乙女」になってるから。たぶんルネットだろうとは思うけれど、違う可能性も捨てきれないので、原文にならって主語を「乙女」にして進めていきます。

「私は、レディの命令でここに来ました。」と乙女はおもむろに口を開く。「この嘘付きの、裏切り者の薄情者!」

さらに、乙女はこう言ってイヴァンを罵った。

「レディは、この男に裏切られ、欺かれました。
甘い言葉で女を騙す詐欺師め!
そのくせ、名誉だのなんだので身を飾るあなたは偽善者です!
なぜ、あなたはレディとの約束を破ったのです?
聖ヨハネの日までに帰ってくるといったでしょう? 
どれだけ、レディが悲しんだかもわからないなら、もうあなたは帰って来ないでください!」

と、乙女は一息にこう叫んだ。
――ある意味で、本質をついた罵倒だ。イヴァンの最大の欠点は功名心の強さであり、名誉を求めるあまり、他についてやや無頓着なのだから。

さらに、乙女は手を差し出して言う。
「さぁ、レディがあなたに渡した指輪を返してください。」

しかし、イヴァンは呆然として答える事はできない。
イヴァンが動かないのを見ると、乙女は勝手にイヴァンの指から指輪を抜き取ると、イヴァン以外の騎士と王に対し挨拶をすると、宮廷を出て行った。

激しい自己嫌悪に襲われたイヴァンは思った。

(もう、何もかも嫌だ。
そして、何よりも自分自身が嫌でたまらない。
…もう、死んでしまいたい。)

そう考えながらさまようイヴァンは徐々に精神の均衡を崩して行った。
このままでは、狂ってしまうという恐怖の中、イヴァンは1人で宮廷を後にした。
このとき、騎士たちは誰もイヴァンを止めようとはしなかった。

(こういうときは、1人にしてやる方がいい。
話しかけたりなんかしても、気を滅入らせるだけだ。)

1人になったイヴァンは、服を脱ぎ散らかし、爪で自分の体を引き裂いて草原や荒野をさまよった。
さすがに、イヴァンの様子が尋常ではないと気が付いたときにはもはや手遅れ。騎士たちが国中を探し回っても、イヴァンの姿を見つける事はできなかった。

さて、精神に異常を来たしたイヴァンの運命や如何に?
この続きは次回で。



2009/11/28

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