14章 魔術師マボン
それから、リベアウスらはランバートと一緒に夕食を取った。
その席は楽しみに満ちたもので、ランバート卿とリベアウス卿は、仲間としてお互いの冒険について語り合った。
リベアウスは、
「警備隊長どの、教えてくださいよ。
いったい、どんな騎士が美しく優雅なレディ・シナドウンを閉じ込めているんですか?」
「いいえ、騎士ではありませんな。」とランバード卿は答えた。「我がレディを監禁している奴等は事務官でした(clerk 現代英語だと、事務官、書記など、古語だと牧師、学者などを意味する。)。
奴らの肉と骨によってなされた行いは、なんとも不誠実なものです。
そして、奴等は魔法にも精通しているのです。
その魔法使いのマボンとその弟のジェイン(兄弟順は不明だけど、ジェインの方が立場が下っぽいので便宜上弟として訳す。)に対し、我らは恐怖を抱いてます。
マボンとジェインは街にある宮殿に対し邪悪な魔術をかけ、獅子のように勇敢な騎士や男爵は、もう街にいません。
そして、高貴なるレディ・シナドウンも魔法の力によって閉じ込められてしまいました。
しばしば彼女の叫び声が聞こえてくるのですが、我々は彼女の姿を見ることもできません。そのため、我らは昼も夜も彼女に対する悪辣な行いに心を悩ませています。
2人の魔術師は、彼女がマボンの意に従って結婚すること、やがて彼女が相続するであろう公爵領を含めた全ての権利を渡さなければ、彼女を殺すと言っております。
彼女は華やかな方ですが、おとなしい女性です。彼女の身に、邪悪なことが起こりはしないかと、我らは絶望のふちに立たされているのです。」
リベアウスは答えた。
「神の慈悲があるのなら、ボクはマボンとジェインからレディを助けだし、魔術師に恥をかかせることができるでしょう。」
ep
その夜、リベアウスたちはランバードの城で眠った。
翌朝、目を覚ましたリベアウスは戦いのため、最高の鎧を準備した。
それから、ランバード卿はリベアウスを宮殿の門まで案内し、門を開けた。
しかし、ともについて来た伯爵、男爵、騎士らはそれ以上進むことはなく、ただリベアウスの隣で馬に乗ってきたギフレット卿だけがお供についた。
だが、リベアウスはグリフレットに対し、城にたどり着いて敵に出会い次第引き返すように命令し、誓わせた。
城にたどり着いた2人は、神にかけて囚われの身になっているレディを助けに来たのだということを叫んだ。
そして、礼儀正しいリベアウスは宮殿の大広間まで騎乗して進み、広間で馬を降りた(2章でも書いたけど、当時は屋内だけど広間まで馬に乗って行ってもいい)。
広間では、奥の高座の前には吟遊詩人たちがトランペットやショーム(木管楽器の一種)を構えて立っている。
そして、広間の真ん中には炎が燃え盛っていた。
リベアウスは、戦いに備えて馬を引きながら先に進んだ。
宮殿の部屋の中を探し始めたリベアウスであったが、絹の服を着て陽気な感じでハープやバイオリン、プルテサリー(箱琴の一種)などを演奏する吟遊詩人の他、まったく人間の姿を見ることができなかった。
それでも、音楽は壁を越えることはなく、吟遊詩人たちは炎の前でひたすら演奏している。
戦うべき相手を求め、さらにリベアウスは宮殿の中を進んだ。
ある曲がり角で、リベアウスは何本か奇妙な柱を発見した。
その柱は碧玉や水晶などでできており、また柱や壁は見たこともないほど豪華に作られている。
ただ、扉は真鍮でできており、窓は美しいガラスで作られている。広間には彩色がなされ、これもまたリベアウスの見たことがないようなものである。
リベアウスが広間の奥の高座に腰掛けて見ると、なんと不思議なことであろうか、ぴたりと音楽がやみ、また灯りが消えるとともに吟遊詩人達が消え去ってしまった。
そして扉や窓は雷でも落ちたかのように音をたて、リベアウスの腰掛けた高座や床は地震でも起きたかのように振動した。
あわてて座りこんだリベアウスは、何頭かの馬がいななく声を耳にすると、喜びながらつぶやいた。
「ようし、ボクの求めていた戦いがやってきたぞ!」
2009/9/4