11章 『黄金の島』での戦い
さて、それではオーティス・ド・ライル卿の話はここまでにして、リベアウス卿がアイルランドやウェールズでの旅と冒険の話をすることにしよう。
6月になると緑のういきょう(ハーブの一種)が宮廷に設置され、夏ともなれば昼は長くなる。小鳥は陽気に歌い出し、特にナイチンゲールの声は素晴らしいものだ。
リベアウスは川辺にやってくると、素晴らしい街を目にした。
この街には、立派な宮殿と高い城、そして多くの巨大な城門があった。
リベアウスは、この街について質問したところ、エレンはこう答えた。
「騎士さま、それでは説明いたしましょう。
ここは『黄金の島』(L'Ile d'Or)と呼ばれており、私達の国の中ではもっとも激しい戦いが行われています。
そんなにもこの土地が困ったことになっているのは、薔薇のように美しい貴婦人に原因があるのです。
モージ(Maugisをフランス語読み。英語読みだとマージ、かな。 シャルルマーニュ伝説に、同名の魔法使いが登場するけど関係ないみたい。イタリア語だとマラジジ。)という名の乱暴な巨人が貴婦人を包囲攻撃しているんです。この男の肌の色は真っ黒で、他にこんな肌の色の人はだれもいないでしょう(英語ウィキペディアだとはっきり黒人のイスラム教徒になってた。)。
そして、橋を渡ろうとする人は巨人の武器に対し土下座し、敬意を示さなければなりませんの。」
リベアウス卿は宣言した。
「乙女よ、ボクはその巨人を倒さない限り、先には進まない。
もし神がボクに慈悲をくださるなら、ボクが決闘でそいつを負かし、そんな日々はお終いにしてみせる。
突風が吹いた場合、小さな木は倒れなくても、大きなオークの木が倒れてしまったりするのはよくあることだ。
ボクは小さくて若いけれど、巨人にだって負けはしないよ。」
木でできた橋の上、イノシシのように凶暴な様子のモージがいるのが見えた。
巨人の盾や鎧はコールタールのように真っ黒で、さらに金色にかがやく3人の悪魔を従えていた。
巨人は盾と槍を手にしたまま、憎らしげにこう叫んだ。
「おい、白い女を連れている奴。お前は何者だ?
お前の名誉を保ちたいのなら、さっさと家に帰った方がいいぞ。」
リベアウスは答えた。
「ボクはアーサー王の騎士だ。
そして、戦いにおいて敵に背中は見せないと誓っている。
悪魔のように黒い男よ、さぁ戦おうじゃないか!」
リベアウスとモージはともに良馬にまたがると、相手目掛けてはまっすぐに馬を走らせた。
塔にいた領主たちや婦人たちは、窓に集まって2人の激戦を観戦し始めた。
そして、大きな声で、あるいは小さな声でお祈りをし、
「リベアウス卿を勝たせたまえ(なぜか名乗ってもいないのにリベアウスの名前を知っているが、中世の物語ではよくあること)。
そして、ターマガント(中世ヨーロッパ社会において、イスラム教徒が崇拝している、と信じられた架空の神。)を崇拝する異教徒の巨人には、今日を以って死を与えたまえ。」
2人の攻撃はまるで稲妻のようで、ついに2人の槍の柄は砕け散ってしまった。
それでも、この戦いを見ていた全ての者は、最初の激突でリベアウスの槍が曲がらなかったことを不思議に思っていたのであった。
そこで、リベアウスと巨人はそれぞれ剣を抜いて戦った。
リベアウスの激しい攻撃によって、モージの盾は手から跳ね飛ばされた。
しかし、モージは策略にかけては悪知恵のはたらく巨人である。彼はリベアウスの馬の首を切り落としてしまった。
このため馬は倒れてしまったが、リベアウスは無言で鞍に吊るしてあった斧を取ると、モージの馬の首を切り落とした。
馬が死んでしまったため、2人は徒歩で戦いを始めた。
彼らの間で繰り広げられた激しい攻撃の応酬は、とても表現できるようなものではない。
この戦いは正午から始まって、夕食の時刻まで休みなく続けられた。
ひどく喉の渇きを感じたリベアウスは、モージに向って言った。
「ちょっと、何か飲ませてくれないか?
代わりと言ってはなんだけど、お前が同じようなこと求めるんだったらボクもそれを許可するからさ。
それに、喉の渇きに苦しむ騎士を殺すのは大いなる恥だし、勝っても名誉は得られないぞ。」
モージは、邪魔することなくリベアウスが水を飲むことを許可した。
そこで、リベアウスが川辺に向い、兜をコップ代わりにして水を飲もうとした。
ところが、モージはリベアウスに攻撃をしたため、リベアウスは川に落ちてしまい、鎧はびしょ濡れになってしまった。
騎士はすぐに立ち上がると、
「聖ミカエルにかけて、こんな恥辱は始めてだ!
このキリスト教の洗礼も受けていない卑劣漢め。
ボクを水にぶち込んで洗礼した仕返しをしてやる。」
再び戦いが開始された。
2人は互いに走り寄ると、互いに重い一撃を繰り出した。
多くの騎士や貴婦人が手を握りリベアウスのために祈ったが、モージの攻撃によりリベアウスの盾が真っ二つに切り裂かれてしまった。
そこで、リベアウスは巨人の盾が落ちている場所へと走る。この盾は、戦いの始めの方にリベアウスが巨人の手から跳ね飛ばしたものだ。
この盾を拾いあげ、再びリベアウスは激しく戦い始めた。
川辺での激戦が続き、ついに辺りは夕暮れになり暗くなってきた。
だが、ついにリベアウスの攻撃は巨人の鎖帷子と鎧を貫き、さらに肩甲骨を切り裂くと、切断された巨人の右腕は地に落ちた。
腕を切り落とされた巨人は地面に倒れこんだ。リベアウスは執拗にこれを追いかけると、巨人の体に3回斬り付けてその背中をバラバラに切り刻んで殺してしまった。
さらに、リベアウスは巨人の首を切り離すと、心から勝利を喜びながら街に入った。そんなリベアウスを見ようと、市民達が行列を作って集まってきた。
2009/8/21