10章 猟犬を巡る戦い
リベアウスとエレンは公爵、侯爵、男爵たちに別れを告げると、シナドウンを助けるための旅のために出発し、新たな国にたどり着いた。
ちょうどリベアウスたちが丘に登っているとき、彼らは下の方から角笛の音を耳にした。
その角笛の音は狩猟のときに鳴らすもので、谷の方には何匹もの猟犬が走り回っていた。
ドワーフは、
「この角笛の音はよく知ってまさぁ。
これはオーティス・ド・ライル卿の角笛ですよ。
このオーティス卿ってのは、かつておいらのレディ・シナドウンが領地を持ってたときは彼女に仕えていたくせに、レディに危機が迫るとウェールズに逃げ出した奴でさぁ!」
このような話をしていると、1匹の猟犬がリベアウスたちの下に走ってきた。
この猟犬は全身がサンザシの花のような真っ白な毛色をしており、その美しさと言ったら、リベアウスやエレンたちがこれまで見たことがないほどのものである。
乙女は、
「まぁ、この犬はどんな宝石よりも綺麗だわ。
こんな犬を飼ってみたいものだわ!」
これを聞いたリベアウスは、素早く猟犬を捕まえると、エレンにプレゼントした。
その後、3人はリベアウスが美しい乙女のために行った騎士らしい振る舞いについて語り合いながら馬に乗って行進した。
Ep
それから、彼らがほんの1マイルほど進んだところで緑の森にたどり着いた。その森で、リベアウス達の背後から飛ぶように2匹のグレイハウンド(灰色猟犬)が追いかけてきた。
リベアウスと乙女は馬から降りると、獣道を探すため菩提樹の下を探した。
やがて、彼らはインド製の絹織物を着た騎士が馬に乗ってやってくるのを目にした。
その騎士はラッパを鳴らし、家来を呼び寄せてた。それから、リベアウスに対し、丁寧な口調で話しかけた。
「騎士どの、その猟犬は、私が7年も飼っている犬です。
返してはいただけませんかね?」
しかし、リベアウスは答えた。
「お断りだよ。この犬は、ボクがこの手で捕まえて、もうこの乙女にあげちゃったんだからね。」
オーティス・ド・ライル卿は言った。
「それなら、力づくということになりますが、よろしいか?」
リベアウスは答えた。
「望むところさ、ドサンピン(※ 原文churl。ニュアンス的に、百姓め、とかの方が近いけど人権意識に照らし下級武士を表す「ドサンピン」に変更)。
お前なんか、全然怖くないんだからね。」
オーティス卿は、
「訂正してください。私はサンピンではありません。
我が父は伯爵、母はカーライルの伯爵夫人で、由緒ある家柄です。
私はすでに武装しているし、君も準備はできているようだ。
いま、ここで戦いを始めましょう。
ですが、もし猟犬を置いて立ち去るのならば、日が落ちる前に野蛮なゲームをする必要はありません。」
リベアウスは、すぐに答えた。
「なら、決闘をしよう。ボクは絶対に犬を返さないからね。」
2人は、ドワーフの案内に従って森を通り、西に向った。
その途中、オーティス卿は急いで自分の城に戻りながらも、集まってきた友人に対し、いかにアーサー王の騎士が自分から犬を奪い取ったこと、いかに恥ずべきことを喋ったかを説明した。
それを聞いた者達のほとんどは、
「仮に、その男が『湖のランスロット』のような勇敢な騎士であったとしても、
そんな乱暴者を生きて帰らせるわけにはいかないな。」
と、口にした。
そんな、オーティス側の騎士達も鎧を身につけ、剣・槍・ハルバード(斧と槍が合体したような武器。方天戟みたいなもん)などで武装しており、まるでこれから戦争でもするような格好をしていた。さらに、従者達も栄光ある主人達の馬の近くでひかえていた。
丘の頂上で、オーティスと騎士達は、リベアウスが優雅に乗馬しているのを目にした。そこで、彼らは叫んだ
「この乱暴者め。侵入の罪により、お前は死ななければならない。」
リベアウスは、競技場をいっぱいにするほど多くの人々が集まっているのを目にすると、乙女に対してこう言った。
「エレンさん、猟犬のためにどうやら大変なことになったみたいだよ。
ボクが戦っている間、森の中に隠れててくれません?
もしボクが殺されるようなことがあったとしても、ボクは喜んで死んでやるさ。」
敵の騎士達は森の中で馬に乗っていたが、リベアウスは誇り高き騎士として空き地に立っていた。
それから、敵の弓やクロスボウでの攻撃により、リベアウスは深手を負ってしまった。
だが、リベアウスは馬に乗って突進すると、情け容赦なく敵の1人を馬から着き落した。
これを見た敵たちは、言った。
「とても人間とは思えない、この男は化け物か?」
さらにリベアウスは次々と敵を殺していく。だが、網に掛かったように周りを包囲されてしまい、さらに重傷を負った。
包囲されたリベアウスは、森から12人の騎士が自分めがけて駆け寄ってくるのを見た。
この騎士達は一日中、騙しうちをすることを考えているような奴らであり、リベアウスを騎士として殺してしまおうと考えたのである。
この12人はみな武装しており、またその中にはオーティス卿もいた。
彼らはこの攻撃でリベアウスは落馬し、骨を折ってしまうだろうと思いながら攻撃を加えた。
12人の騎士達は、鎧と刃がぶつかる大きな音を耳にした。
その激しい攻撃のため、盾や兜に火花が飛び散った。
リベアウスは、敵を3人殺した。だが、4人目は臆病な男であり、戦わずして逃げ出した。
だが領主(管理人も初期は誤解してたけど、オーティス卿とは別人。ここで突然現れた)とその4人の息子達はその場に残り、命をかけて戦った。
強烈な打ち下ろしの一撃により、5人目は木のように切り倒されてしまい、傷口からは岩を染めるほどの血が飛び散った。
それでも騎士達はリベアウスを追い詰めたところ、柄の所でリベアウスの剣は折れてしまった。
剣を失い、狂ったように焦るリベアウスに対し、領主は兜と盾を通して強烈な打撃をリベアウスに打ち込んだ。
この攻撃により、リベアウスは今にも落馬して命を落しそうになってしまった。この光景を見た騎士達は、領主の攻撃は、リベアウスの鎧と鎖帷子を貫いて命を奪ってしまうに違いない、と考えた。
深刻なダメージを受けたリベアウスであったが、むしろこれまで以上に勇気が湧いてくるのを感じた。そして、このときになってリベアウスはレディが鞍のところに斧を吊るしておいてくれたことを思い出した。
リベアウスは騎士としての気合を入れると、リベアウスは3度力強く斧を振るい、その一撃ごとに敵の馬の首を1つづつ切り落とした。
この光景を見た領主は、素早く逃げ出した。
だが、リベアウスは馬を走らせて追いかけると、栗の木の下で領主を殺した。
オーティス卿はリベアウスに降伏し、リベアウスの意思に従うこと、宝物と領地、城をすべて差し出すことを約束した。
リベアウス卿は、もしオーティスがアーサー王の宮廷に行き、『栄光ある陛下、私は敗者にして貴方の虜囚でございます』と言うのなら許すことにした。
オーティス卿はこの条件を受け入れ、リベアウスを自分の城に連れて行った。
それからすぐに、15人の騎士達がエレンとドワーフを迎えに行き、城に連れてきた。
エレンとドワーフは、リベアウス・デスコヌス卿の勇敢な行為、すなわちどうやって敵たちを倒したか、どうやってこれまで勝ち取った4つの名誉と賞品をアーサー王にプレゼントしたのかを喋った。
これを聞いた領主(たぶん、さっき死んだのとは別人。lordを領主と訳すってのが失敗かな、いっぱいlordがいるようだ)は大喜びで、リベアウス卿の怪我が回復するまでの間、滞在を許したのであった。
2009/8/18
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