4章 ダゴネットとトリストラム

(訳者注 この章ではダゴネットがひたすらトリストラムを罵倒しつづけてますが、翻訳が極めて困難。たとえ話とか修辞表現がされた瞬間アウトに近くなるし、訳者自身、大意はともかく細かく意味が取れない部分などカットしまくってます。)

 

翌日の朝、黄色に染まった秋の葉っぱが舞い散る中でリトル・ダゴネットは踊っていた。その踊りっぷりもまた宮廷にかう枯葉のようだ。

トリストラムはこの様子を見ると、
「おや道化師殿。どうしてそんな風に踊っているんだい?」

両足のかかとを軸に回転しながらダゴネットは答えた。
「きっとおいらより賢い仲間がいないからさ。
じゃなきゃ道化なんかしないよ。
見たところ、賢すぎれば世界を腐らせてしまうみたいだよ。
踊っていると、俺こそが最も賢い騎士だと言うことがはっきり分かったんだよ。」

「だが、道化師。」とトリストラムは言った。
「演奏もなしで踊るのは味気ないだろう。
おれが輪舞(ラウンドリー)を演奏してやろう。」

トリストラムは竪琴を弾き始めた。だが、トリストラムが演奏している間、ダゴネットは黙って立ち尽くしたままだった。
そんな様子は、まるでさらさらと音をたてて流れる小川の中、流れることなく止まったままの丸太のようだった。
だが、微動だにしなかったダゴネットは、トリストラムが演奏をやめると再び踊り始めた。

「なぁ、道化師殿。どうしておれの竪琴で踊らなかったんだ?」

ダゴネットは答えた。
「おいらは20年以上生きてきた。
無茶苦茶な音楽もいくらか聞いたこともあるが、頭を割るほどにひどいのはあんたの演奏が初めてだったからだよ。」

トリストラムは冗談で言っているのだと思いながら、
「へぇ、おれの音楽はそんなにひどいのかい、道化師よ?」

リトル・ダゴネットは踊りながら、
「あんたがイゾルデ王女を裏切って、イゾルデ王女と同名のブルターニュの女と結婚したせいであんたの音楽は台無しになった。
そして、あんたはアーサー王の音楽までも台無しにしてしまった。」

「そうは言っても、道化師殿の頭を割るほどではないさ。」
とトリストラムは言った。
「それとも本当に頭をかち割ってやろうか?
おれは遅れて参加したが、そのときには異教徒の戦争は終わってた。
人命は飛ぶように失わてしまう、俺たちの誓いなんて上辺だけさ。
おれは説明するのが上手ではないが…。うん、お前はひねくれ者で気に入らない奴だ。
だが、ダゴネット卿。お前はたいした奴だ。
ロバの耳のお伽話もあるかな。俺の音楽が本当に台無しになっているか教えて欲しい。」

と言うと、トリストラムは歌い始めた。
「自由は愛、自由な野原。一緒にいられる時だけでも、俺たちは愛し合おう。
森は静まり、音楽だってもう聞こえない。
葉っぱは枯果てしまい、あこがれだってもう過去のもの。
新しい緑の葉っぱ、新しい命。氷の季節は過ぎ去った。
これからの新しい日々にふさわしい新しい命、新しい愛。
新しい愛は昔の愛と同じほどに素晴らしい。
自由な愛、自由な野原。一緒にいられる時だけでも、俺たちは愛し合おう。」

歌い終えたトリストラムは、
「お前は突っ立ってないで、俺の曲に合わせてゆっくりと踊ればいいんだ。
森の中で演奏すれば、黄金のように美しい旋律が響くのだから。」

だが、ダゴネットは手で片足を支えながら、
「友よ。昨日、噴水にワインが流されているのを見たかい?
だがね、噴水にワインを流すなんて行為それ自体が生命を終わらせることにつながるんだ。
こうやって、黄金のカップを手に、誰もが回りに座りこむ…。純白の衣装を着た12人の幼い乙女の純粋さ、そして哀れにも宝石を残して亡くなった幼児の純粋さ、その子の残した宝石を王に渡した王妃の純粋さ、そしてその宝石をトーナメントの賞品とした王の純粋さ・・・。
そしてある者はその白い手を滑らせてカップを差し出し、
『道化師さん、さぁ飲んで飲んで。』と言ったんだ。それだから黄金のカップからワイン雫を滴らせながら飲んで見たが、泥みたいだった。」

トリストラムは言った。
「それはお前の冗談よりも酷かったのか? お前の冗談も泥みたいにひどいからな。
笑い声は死に絶えてしまったのだろうかね?
騎士らしさを馬鹿にするのではないが、『神を恐れよ、王を敬え。それができる者こそ真実の騎士であり、それが唯一誓うべきこと』とよく言われるけれどな。
おれが来る前からここにいる人間はお前のことを豚だと考えているし、脱穀するかのようにお前を叩きのめしている。
だが、王がお前を道化師にしたとき、お前の虚栄心は打ちぬかれた。お前の心から道化の自由さにたじろいたのだ。
実際、お前は道化にも豚にも劣る存在だ。
まる裸の豚がお似合だ。だから豚野郎には真珠を投げてやるよ。(ことわざ、「豚に真珠」は外来のもの。豚に真珠を投げてやっても、豚はそれを踏みつけて襲いかかってくるだろう、が元々の文章で日本語では「投げる」が省略されているそうです)」

リトル・ダゴネットは気取ったように足を伸ばすと、
「騎士よ、おいらは真珠には興味がないよ。
だけど、もしあんたがそのルビーを彼女の替わりにおいらの首にかけてくれるなら、おんたの音楽で踊ってやってもいいさ。
おいらが豚っだて?
おいらは転げ回って洗い清められている。世界は新鮮でありながら明るさを失っている。おいらはそんな人生を過ごした。
『経験』というものは『汚れた乳母』とでも言うかのようなものだ。
『経験』によっておいらは汚れてしまったがうえに、転げ回って洗い清めるのさ。
そうすることで、おいらは人生と哲学を学んだよ。
それからおいらはアーサー王の道化になれたことを神に感謝をした。
あんたは豚と言ったよね?
昔のことだが、豚、山羊、騾馬、羊、ガチョウなどの家畜は異教徒の竪琴引きの回りに集まったそうだ(おそらくはギリシア神話のオルフェウスのことを言っているんじゃないかと思う)。
その異教徒の竪琴引きはあんたみたいに中々たいした演奏をしたそうだけれど、決して王の道化師ではなかったよ。」

トリストラムは言った。
「その竪琴引きの周りには豚も、山羊も、騾馬も、ガチョウも、そして賢い道化もいただろうね。
異教徒の竪琴引きの腕前はまさに達人であり、彼の竪琴は黄泉の国から死んでしまった妻を行き帰らせる事だってできたというから。」

ダゴネットはくるくると回転しながら言った。
「そして、あんたもその竪琴引きと同じ人生を歩むつもりかい?
馬鹿な、愚か極まりないことだ!
頼りになる竪琴引きは、その竪琴ゆえに命をおとしたのだ。
あんたは、我らの名づけた『アーサーの琴』という星について知っているかね?」

トリストラムは答えた。
「いや道化師よ。
しかし王はほぼ毎日勝利しており、騎士達もそれぞれ新たに栄光を獲得している。
王の名前は山のよう、また天に届くほど高いものだ。」

ダゴネットは答えた。
「いや、国土が解放されたとき、王妃は過ちを犯した。
そしてあんたは全知をかけて彼と争うことを選んだ。
彼は礼儀正しい王でるなら、または正当な王であるならば…。
あんたは竪琴を引きながら国を出て、遥か遠くに向ったのだ。
あんたには見えるかい? 空に輝く星々が?」

「道化師よ」とトリストラム。
「まだ明るいのに星なんて見えるはずがないだろう。」

ダゴネットは答えた。
「いいや、それはあんたが見ようとしないからだ。
俺は星を見て、星の奏でる音楽を聞くことだってできる。
星々は天上で静かな音楽を奏でているんだよ。あれとアーサー王と、天使はその音楽を聴いて踊りを踊るんだ。」

「おい、道化師よ」とトリストラムは言った。
「あんたは不敬なことを言っているぜ。
あんたはともかく、アーサー王までそんな馬鹿なことをするというのか?」

リトル・ダゴネットは手を叩きながら金きり声をあげた。
「あぁそうさ、アーサー王はあれと同類、愚者の王なのさ!
アーサー王は神にも等しいんだ。アザミからイチジクを作り、毛皮から絹を作り、焚き木から牛乳を作り、蜂の巣からは蜂蜜を作り出すことができるんだからな。
そしてなによりも、アーサー王は野獣を人間に変えることができる。
アーサー王が、愚者達の王が永久に栄えますように!」

そう言うと、踊りながらダゴネットはどこかへ行ってしまった。

2009/9/18


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