1章 王妃とひな

あるとき、アーサー王とランスロット卿が遠乗りに出かけた時のことである。
2人は、曲がりくねった岩壁の下で赤ん坊の泣き声を耳にした。
半ば朽ちかけ、とぐろを巻いた黒い蛇のような根っこをしたオークの木があった。その幹には岩にしっかり固定されるようにして宙に掛かっている鷲の巣がある。
木を通して湿った風が吹いてきており、風が赤ん坊の泣き声を運んで来ているのだった。

ランスロット卿は危険な鷲の巣を目指して木を登ってみた。
そこには、ルビーの首飾りを3重に巻き付けられた女の赤ちゃんがいた。その赤ちゃんにはクチバシや鉤爪などで付けられたような傷はまったくない。
赤ちゃんをかわいそうに思ったアーサー王は、赤ちゃんを連れ帰ると王妃に世話をさせることにした。

初め、白い手で赤ちゃんを受け取った王妃は乗り気でなかったものの、やがて愛情を持って世話をするようになり、赤ちゃんに「ネスティング」(雛鳥、幼児の意味。あえて訳すとヒナちゃんとかそんな感じ)という名前を付けた。
夢中になって世話をする王妃だったのだけれども、その後すぐ、王妃から風邪を移されてしまったネスティングの幼い命は天に召されてしまった。
王妃にとって、ネスティングの首飾りは、赤ちゃんとの悲しい思い出を呼び覚ますものになってしまった。

そこで、王妃は首飾りをアーサー王に渡すと、
「この死んでしまった無垢なる者の宝石を受け取って下さい。
そして、これはトーナメントの賞品にしてください」

アーサー王は言った。
「鷲がもたらしたヒナのことでそう気に病むのではない。
この名誉の死の後、いつかはお前も後を追うことになるのだから!
だが王妃よ、どうして私が山から持ち帰った宝石を腕なり、首なり、帯なりに付けたりしないのだ?
それに、トーナメントの賞品にしたところで、どうせ優勝したランスロットが君への贈り物にするだけじゃないか」

「貴方は宝石を落してしまうつもりなの!」
と、王妃は叫んだ。
「その宝石が悲しい運命に結び付けられているみたいなの。投げ捨ててしまいたいのよ。私には耐えられないわ!
きっと、貴方も驚いたと思うけれど、これが私に与えらてすぐ、無くなってしまったときのことを覚えていないかしら?
私が川の中に宝石を落してしまったときのことだわ。
不幸にも死んでしまった赤ちゃんは小船の中にいたわ。
薔薇のような幸運は豪華なルビーとともに消えてしまい、この宝石は骸骨の死に神を連れてきたのだわ。
偶然…、本当にそうかしら?
貴方の騎士のうち、最も純粋なる者が宝石を勝ち取らせ、最も純粋な乙女に遅らせましょう。」

グィネヴィアは喋り終えると、大会の開催を知らせるトランペットの音がキャメロットに鳴り響き、その音は塔の頂上でも耳にすることができた。
この音を聞きつけ、騎士達はその日のうちに武装して王の前までやってきた。
 

2009/8/11

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