18章 風向きの変わるとき

 

モーニング・スターは騎乗すると、橋の上で叫んだ。
「おう、台所下働き、そして俺を侮辱した男よ!
俺はお前なんかとまともに戦う気はない、侮辱には侮辱で返してやろう。
馬と武具を奪われ、徒歩で仕える王の下に帰らなければならないこと以上の屈辱はないだろう?
来い、ろくでなしめ。しばし乙女はそこに置いておけ。
そこをどけ、貴様のようなろくでなしが、乙女とともに馬に乗る資格はない」

「犬め、貴方の言うことはでたらめだ。
ボクは貴方よりずっと高貴な血筋を引いているのだから!」

ガレスは答えると、2人は電光石火の速度で馬を走らせ、橋の真ん中で激突した。
2人の槍はひん曲がったが、折れることはなかった。

ふたたび、2人は投石器から放たれた石のように突進した。
2人とも、衝撃で馬の尻から、あるいは橋を越えた場所で、常人なら死んでしまう勢いで付き落された。

しかし、ガレスは素早く立ち上がると剣を抜き、同じく橋で倒れていた敵に対し激しく攻撃を加えた。
乙女はガレスの盾が引き裂かれるまで、「やっちゃえ、台所下働!」と叫び続けた。
だが、盾を壊されつつも、ガレスの攻撃はモーニング・スターを屈服させてしまうのだった。

敗者は叫んだ、「殺さないでくれ、降伏するから!」

ガレスは、「こちらの乙女が、ボクにそれを頼むなら助けてやろう。
そうすれば慈悲をあたえてやろう」

乙女は顔を赤らめて、「皿洗いのクセに、何を言うのよ。
私がアンタに頼むですって?
アンタが喜びそうな頼み事なんかするもんですか」

「なばら、この男は死ななければならない」
ガレスはモーニング・スターの兜を外し、トドメを刺そうとした。

これには乙女も悲鳴を上げ、「ちょっと、やめてよ!
皿洗いのクセに、自分より高貴な人間を殺すなんて!」

「乙女よ、貴女の要求はボクにとって大いなる喜びです。
騎士よ、乙女の命令によりそなたの命を助けよう。
立て、それからアーサー王の宮廷に行き、陛下の台所下働きに遣わされたと説明するのだ。
それから、陛下の王国と法を蹂躙したことをお詫びしなければならない。
ボクが宮廷に帰ったら、一緒にそなたの弁護をしてやろう。
それから、そなたの盾をもらうよ。
ようし、乙女よ。ボクを導いて下さい、貴女に付いて行きましょう」

それを聞いて、再び乙女は逃げ出した。
ガレスが乙女に追いつくと、乙女は言った。
「ろくでなし、アンタが橋で戦っているとき、少しだけど厨房の匂いが弱くなったような気がするわ。
でも、風向きが変わったら分かんないんだからね!
もっと匂いがきつくなるかもしれないんだから」

言い終わると、乙女は歌いはじめた。
「あぁ、明けの明星よ。
(と、言っても、アンタが魔法か、不運か、さもなくば策略で打ち倒してしまった犯罪者とは違うのよ)
あぁ、青い空に輝く明けの明星。
星よ、私の朝見た夢は本当になった。
甘く微笑んでね。
愛は、私に対して微笑んでくれた」

歌い終わると、
「ねぇ、立ち去るつもりがあるんなら、事前に言って頂戴ね。
この浅瀬には守護者がいるのよ。
馬鹿な寓話っぽい名前を名乗る、2人目の兄弟がいるの。
きっと、アンタは大変な苦労をするでしょうね。
でも、恥じることはないのよ。
アンタは騎士でなくて、ろくでなしなんだから」

ガレスは笑いながら答えた。
「寓話ですって?
では、ろくでなしの寓話も聞いてくれますか?
ボクがまだ台所下働きだったころ、荒々しかったものと言えば炉の火でした。
また、ボクの同僚が猛犬を飼っていて、自分の上着を投げて、犬にその上着を守れ、って命令するんです。
そうすると、誰もそのコートには近寄れなくなるのです。
貴女はそのコート、そして陛下は貴方を守るため、ボクを派遣されました。
ボクはその猛犬、ってわけです。
騎士であっても、ろくでなしであっても、
それにろくでなしでも騎士のように貴女に仕えるなら、それで充分じゃないでしょうか?
貴女のお姉さんを自由にするため、他の騎士達と同じ働きができると思いますよ。」

「じゃ、ろくでなし卿ってことかしら!
ろくでなし、アンタが騎士みたいに戦ったとしても、アンタはしょせんろくでなしよ。
私はアンタなんて大嫌いなんだから!」

「乙女よ、もっとボクを認めてくれてもいいんじゃないですか?
ろくでなしだとしても、ボクは貴女の敵を打ち負かしたんだから。」

「ふん、ふん」と乙女は言った。「とにかく、アンタは戦いに備えてよね」
 

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