14章 リネットの罵倒
ガレスの馬が芝や小石を跳ね飛ばして乙女の後を追い掛けた。
乙女の馬の心臓はこの酷使に耐え切れず、必然的に乙女はガレスに追い越されてしまった。
「皿洗いのクセに、どうして私についてくるのよ?
アンタが何か卑怯な手段、あるいは不運によって自分のご主人様を倒しちゃったからと言って、
私がそのうちアンタを受け入れるだろうとか、好感を抱くようになるとか考えているんでしょ、そんなことあるはずないじゃない!
皿洗いの、給仕役の、ろくでなし!
アンタからは厨房の匂いがするわ!」
「乙女よ」とガレス卿は優しく答えた。
「貴女が何を言おうとも、ボクはこの冒険をやり遂げるか、さもなくば死ぬことがない限り、貴女から離れることはありません」
「えぇっ、冒険をやり遂げるですって?
まるで高貴な騎士のような口ぶりですこと!
ろくでなしのクセに、宮廷で過ごすうちに作法覚えたみたいね。
でもね、ろくでなし。アンタはすぐに厨房に戻されることになるのよ。
そうなればもう、ご主人様の顔を見る勇気なんてないでしょうね。」
「それでもボクはやり遂げましょう」
ガレスが微笑みながら答えた。
この対応に乙女は激怒し、ふたたびガレスから目をそらすと森の中を進んで行った。
そして、ガレスは罵られながらも乙女の後に付いて行く。
「台所下働きさん、どうやらアーサー王の家臣たちがその木立にいるのを見落としてしまったようです。
その木立には、森の葉っぱと同じくらいの盗賊がいるのです。
もしその家臣達をやっつけられたなら、もう付いて来ないで頂戴。
それとも下働きさん、戦う度胸があるかしら?
戦えるものなら、行ってきなさいよ」
こうして、夕暮れのお祈りの時間になるまで、2人は罵り、罵られつつ馬に乗って移動した。
長い上り坂を上がると、丸くてやや暗い色の太陽が、松の木の上にかかっていた。
西側、赤い目の鷹が沈みつつある夕日を浴びていた。
そのとき、暗い森から悲鳴とともに従卒が飛び出してきた。
「たいへんです、向こうの湖で私のご主人様が襲われています。」
ガレスは、「ならば、ボクは不正を正しにいかなければならない。でも、ボクは貴女から離れるわけにはいかない…」
乙女は軽蔑するように、「導いてちょうだい、着いて行くから!」
「はい、ボクに付いてきてください。貴を導きましょう!」
ガレスはこのように叫ぶと、松の木の中に飛び込んで行った。
その湖では、蝦蟇(ガマ)みたいな黒い男達がおり、彼らは6人がかりで1人の紳士に攻撃を加えていた。やがて、首への大石を投げつけられて紳士は倒れてしまった。
さらに3発の打撃により紳士は動かなくなったが、男達はさらに松の棍棒で3発殴りつけた。
ガレスは紳士の首の上から大石をどかすと、男達を湖の中に投げ込んだ。ぶくぶくと、湖に泡が立った。
最後に、ガレスは紳士の足の縄を外してやった。
この頑強な紳士は、アーサー王の友人であった。