1章 パーシヴァルの回想

 

アーサー王や騎士団から「純潔の騎士」と称されたパーシヴァル卿は、騒々しい武具の音、トーナメントや天幕で発揮される武勲を離れ、引退をした。
そして、パーシヴァルは神に仕え、祈り、断食と施しの日々を送るのであった。
キャメロットから遠くはなれ、兜の変わりに修道士の頭巾を被り過ごしたパーシヴァルは、長生きもできず、すぐに命を落してしまった。

仲間の修道士にアンブロシウスという修道士がおり、この修道士は他の誰よりもパーシヴァルに敬意と愛情を持って接したので、やがてパーシヴァルの方でもアンブロシウスの愛情に応えるように仲良くなって行った。
世界が始まったころから生きていそうなくらいに古いイチイの木の下で、2人は腰かけていたときのこと、4月の朝の風は回廊を薄暗くし、高く霧がかった場所にある枝を揺らした。
パーシヴァルが死去したのはこんな風に、夏が来る前の日のことであったが、アンブロシウスはパーシヴァルに質問をして見た。

「ねえ兄弟、私は春が来るたび、50年以上もの間、イチイの木が煙のように花粉を巻き挙げるのを何度も見てきたよ。
私は外の世界と言うのを全く知らないのだけれど、君が最初にやってきたときの礼儀作法、動作の仕方や喋り方から考えて、君はアーサー王の宮廷にいたのだろう?
君達のような宮廷の人間には、コインのように善い面も悪い面もある。ある者は本物で、またある者は贋物だが、なんにせよ王の姿のモノマネのようだね。
教えてくれないか、どうして円卓の騎士をやめんだい?
ねぇ兄弟、その理由とは、世俗への情熱が失われたからなのかい?」

「ちがいますよ」と騎士は答えた。
「もともと、おいらはそういうものに情熱を感じたことはないもの。
トーナメントの時、御婦人が勝者と敗者を観戦しているとき、虚しき栄光、競争、世俗の情熱が湧きあがってくるものだけれど、甘美なる聖杯を見た事で、おいらはそんな情熱からは遠ざけられたんだ。
そして、世俗のそういったモノは、僕たちを天国に近づけるような精神的な強さを奪ってしまうから。」

これに対し修道士は、
「聖杯だって!
我らは神の目から見れば、未熟な存在で、やがては朽ち果てるべき存在にすぎないのだけれども、確か君たち騎士が客としてやってきたときのことだ。
騎士達は、食堂で悲しげに、ほとんど聞こえないくらい低い声で喋っていました、あの現れたり消えたりする幻のコップのことを話していたけど、それのことだったかな?」

「幻のコップですって、違いますよ」とパーシヴァルは答えた。
「確かにコップではあるけれど、ただのコップじゃなくて、主が最後の晩餐のときに使ったコップだよ。
主が天に召された暗黒の日の後、祝福されし土地、アロマントから聖人・アリマタヤのヨセフがグラストンベリーに持ってきたコップです。
ちなみに、クリスマスのある冬になると、グラストンベリーでは主を偲ぶために刺の付いた花が咲くそうですよ。
で、聖杯に話を戻すけど、現れてしばらくとどまるのだけれど、このとき触れることができれば、信仰心のある者ならばあらゆる病が癒されるんだ。
でも、そのときに聖杯は、触れた人間の邪悪な心を取り除くと、天に昇り、消えうせてしまうんだ。」

アンブロシウスは言った。
「古い書物によれば、アリマタヤのヨセフはグラストンベリーにやってきたけれど、当時のグラストンベリーは異教徒の貴族であるアルビラグスがヨセフに湿地に島を作って与えたとか。
そこに編み枝で孤立した教会を建築したそうですけれど、これは筆舌に尽くしがたいほどの奇跡だと思いますねぇ。
ところで、最初にそういった聖なるものを見たのは誰だったんです?」

「女の人だよ。」と、パーシヴァルは答えた。

2009/7/8


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