第6章 ガウェインが赤い要塞の悪習を根絶すること

 

さて、前章で愛馬グリンガレットを奪い取られたガウェイン。
なりゆきで知り合った乙女とともに、彼女の恋人を探して旅をすることになった。
幸い、鎧兜のたぐいは奪われてはいないけれど、徒歩でそんな荷物を抱えて進むのはかなりの重労働だ。
しかも、途中には雨の日やら雪の日もあり、2人の旅は飢えやら寒さやらでかなり辛いものだった。

だが、旅の途中、幸運にもある親切な騎士に出会った。
この騎士はラギデル・ド・ランガルドという名前で、ご都合主義なことに予備の小馬を持っていたので、自分の軍馬をガウェインに、予備の小馬を乙女に譲り渡してくれたのである。

――ちなみに、騎士道物語を読んでいると女性が普通に馬に乗っていて、日本人である管理人はどうにも驚くことが多かった。あんま日本人女性は馬に乗らないから。
で、西洋には、女性が乗る専用の「palfrey」とかいう馬があるそうな。
ちなみにガウェインが乗っているのは「charger」で軍用馬。
これまではいちいち区別せず、「馬」と訳してきたけれど、このシーンは一応、区別が必要かな、と思い解説してみました。

さて、馬を手に入れたガウェインたちが旅をすすめると、「赤い要塞の国」にたどり着いた。
ガウェインは、その国の湖の中で、1人の乙女がガタガタと震えているところに遭遇した。

どうも事件の臭がする、と感じたガウェインは、
「こんなに寒いのに、どうして貴女は湖から上がらないのですか?」
と、尋ねた。

「…罰を受けているのです」と、震えながら乙女は答えた。
「私は、赤い要塞の国の王の命令で、1週間のうち4日、日の出から日没までの間、こうして冷たい湖の中で立ち続けていなければならないのです。
こんな生活が、もう3年もつづいているのです。」

「そんなに酷い罰を受けるとは、一体なにをなさったのです?」

「はい、ここの王と言うのは『無情な焼印』(Burn Without Pity)と言って、ひどく傲慢な方です。
常々、この世に自分より優れた騎士はいない、と豪語しておりました。
そこで私は、アーサー王の宮廷になら、彼よりも優れた騎士はいると思います、と意見をして、王の怒りに触れたのです」
と、乙女は言った。

「えぇっ、そんな理由で…?
安心なさい、私が証明してみせよう。
貴女の言うとおり、ここの王より優れた騎士がいることを」
と、ガウェインは言った。ことが暴力で解決すると言うのなら、ガウェインに勝てる騎士なぞそうそうはいない。

「それは、やめておいた方がいいでしょう。
この3年の間、私を助けようとした騎士は54人もおりました。
ですがその54人はみな、王との一騎打ちに負けて殺されました。
さらに負けた騎士は、首を杭で串ざしにしたうえ、これをコレクションするという、悪しき慣習を作ってしまいました…」

現代日本で同じことをやったら、確実に精神鑑定間違いなし、という慣習である。
性格は傲慢で、言論の自由もなく、生首コレクション…。絵に書いたような暴君だ。
もちろん、ガウェインがこんなことを許すはずがない。

ガウェインは、自分の名前を明らかにせず、『無情な焼印』と戦い、彼を屈服させた。
なぜこのときガウェインが名前を明かさなかったかといえば、自分の馬を取り戻すまで、自分の名前を明かさない、と誓っていたからだ。

そんなガウェインと『無情な焼印』の戦いは、ガウェインの勝利で終わった。
『無情な焼印』を打ち負かした後、ガウェインは「アーサー王の宮廷に行き、虜になること」を条件に降伏を受け入れたのである。
こうして、ガウェインとの対決の翌日、『無情な焼印』は、罰を受けていた乙女を伴い、アーサー王の宮廷に向けて出発した。

だが、ガウェインには馬と自分の名前を取り戻すための旅を続けなければならないのであった。

2010/05/18
 

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