第5章 ガウェインが愛馬を失うこと

 

エスカノールを倒したガウェインは、墓地の近くの城でしばらく滞在した。傷を癒すためである。
体が回復したガウェインがアーサー王の宮廷に帰還しようとすると、青年と2人のレディも同行することになった。
結局、都合4人でアーサー王の宮廷に帰還する事になったわけである。

さて、帰り道。4人が7リーグほど進んだ森の中を進んでいた時のことである。
「キャーッ」と、女性の悲鳴が聞こえてきた。

我らのガウェインは、基本的に女性に優しい。
「私は、あの悲鳴がする方に行ってみる」と、ガウェインは言った。
「君は、2人のレディを連れて、先に陛下の宮廷に帰っていてくれたまえ」
と、叫び声の元に向かう前、青年に言って、先に宮廷に帰らせた。

ちなみに、このシーンの後、青年は登場しない。
危険な墓場の乙女の継母との争いやら、せっかく伏線をはったのに彼女もこれ以後は登場しない。
エスカノールの恋人は、一応、ガウェインが宮廷に連れて行くという約束があったけれど、彼ら3人はなにをしにガウェインについてきたのであろうか。

1人きりになったガウェインは、悲鳴のする方に向けて馬をすすめる。
はたして、ガウェインは1人の乙女が嘆いているのを発見した。ただ、別に暴漢に襲われているとかという事情はなさそうである。

「乙女よ、悲鳴を上げていたようですが、なにかあったのですか?」
と、ガウェインは丁寧に尋ねた。

「ああぁ、騎士様!」と、乙女は答える。
「私は恋人が大事にしているハイタカをの世話を任されていたのですが、逃げ出されてしまったのです」

「それは、大変なことですね…」

ちなみに、ハイタカ(sparrowhawk)というのは、日本とかヨーロッパに生息するタカの一種。
日本じゃ、鷹狩とかに使う。たぶん、ヨーロッパでも鷹狩とかに使うのでしょう。
結構、高価らしいよ。だからと言って、逃がしたからといって悲鳴をあげるのかどうか、管理人にはわからないけれど。

「はい、でも、まだハイタカは遠くに行っていません。
あの木にとまっているのですが、枝が高すぎで私では届かないのです」

「そういうことなら…」
と、ガウェインは乙女を手助けすることを約束し、馬を降りる。
さらに、木登りをするために鎧を脱ぎ、丸腰になった。

と、まるでタイミングを見計らったように、1人の騎士がやってきた。
この騎士こそ、乙女の恋人である。
この騎士は鎧を脱いでいるガウェインを睨みつけて、
「おい、俺と言うものがありながら、間男とはどういうことだ!」

と、ガウェインと自分の恋人が密会していると誤解してしまった。
いまいち管理人にはよくわからないのですが、鎧の下に下着とか着用しないのか、裸なのか。

とにかく、ガウェインと乙女は頑張って弁解するものの、信じてもらえない。
ついに男は、
「もう俺たちの仲もおしまいだ!」
と言うと、乙女の馬と、ガウェインの愛馬、グリンガレットと盗んで立ち去った。
マズイ、と思ったが、相手は馬でこちらは徒歩。
たちまちに男を見失ってしまった…。

ところで、このホームページを閲覧されているかには、管理人以上のアーサーリアンもいらっしゃるでしょうし、
(――あ、このシーンって、あのシーンのパクリじゃない?)
と、思った方もいるでしょう。

はい、『アーサー王の死』に収録されているランスロット卿の最初の冒険です。
手元に完訳版のを持ってないのですが、岩波文庫からでてるブルフィンチの『中世騎士物語』だと、第8章の最後の方。
こちらでは、「鷹が逃げちゃいまて…」という乙女を助けるために武装解除したランスロットがタイミングを見計らったように現れたサー・フェロットとかいう騎士に襲われる、という展開なのですよ。

武装解除した後に襲われるか、馬を盗まれるかという点で違いはあるものの、鷹を捕まえようと木登りせんと鎧を脱いでピンチ、という展開は似てる。
どっちがパクリ、とか言うわけではなく、中世騎士道物語的にはありがちな展開だったのかもしれない。

また、これ以降、ガウェインは馬を取り戻すまで自分の名前を明かさない、という誓いを立てた。
『イヴァンまたは獅子の騎士』でもやっていたが、中世騎士はなにか失敗をした場合、アイデンティティの喪失の回復がどうとかで、汚名返上するまで名前を名乗らないものらしい。

そんなこんなで、これ以後、ガウェインは本章の冒頭で別れた青年や墓場の乙女の代わりに、この乙女を旅の仲間として冒険をすることになるのである。

2010/05/18


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