第2章 ガウェインの死亡が確認されること


さて、突如乱入してきた騎士に誘拐された乙女を追いかけて出発したケイ卿を追いかけて(我ながらややこしいな)、ガウェインは宮廷を出た。

(まいったな、みんなどこへ行ったんだろう?)

よくよく考えれば、ガウェインがケイ卿を追いかけて城を出るまで、鎧を身につけたりとか何とかしているのである。鎧を身につけるのに何分かかるかは知らないけれど、現代人が着替えにかかる時間よりはかかるのではなかろうか。

だが、心配は無用だった。
ちょっと進んだ水路のところ、なにやら人のうめき声がする。
行ってみれば、水路にケイ卿がはまっていた。

「大丈夫、ですか?」
「見りゃわかるだろ、早く助けろ」
と、ケイ。

お約束のパターンであるが、運よく・・・、いや運悪くか、乙女を誘拐した騎士に追いついたケイはそこで戦いを挑んだ。
だが、あっさり負けてしまい、落馬したケイは水路に落ち、衝撃で右腕を骨折してしまった、というわけ。

で、ようやくガウェインはケイを水路から引っ張りあげたものの、
「この臆病者め、来るのが遅いんだよ。
あ、もうあの誘拐犯は行っちまったぞ」
と、ケイ卿はお礼も言わずガウェインを罵り始めた。
・・・原文には書いてないけど、ガウェインは軽く殺意を覚えたのではないだろうか。ていうか、フランスでもケイ卿はこんな嫌味な奴なのね、と管理人は感心してみたり。

結局、右腕の折れているケイは城に帰し、ここからはガウェインが1人で乙女探しの旅をすることになった。

――夜明けて、翌日の昼ごろ。
ガウェインが旅を続けていると、女性たちの泣き声を耳にした。
とりあえずそっちの方向に向かってみると、3人の乙女と、1人の若者が嘆き悲しんでいた。
驚くべきことに、その若者は両目を抉られて盲目となっており、傷口からはいまだ生々しく血が流れている。

「これは一体、どうしたことですか?」
と、ガウェインは声をかけた。

「はい・・・、実は・・・。
実は・・・。うッ!」
と、1人目の乙女はろくな情報を与えないまま、悲しみのあまり気を失ってしまった。

気を取り直して、ガウェインは2人目の乙女に声をかける。
が、2人目の乙女も悲しみのあまり、ろくに喋らないうちに気を失ってしまった。

(なんだこりゃ、繰り返しギャグか?)
と、ガウェインが思ったかどうかは判らない。
中世ヨーロッパの人は、悲しみの限界に達すると気絶する習性があるのだ。ガウェインだって、可愛い弟たちが死んだ、と聞かされたら気絶するのである。

が、さすがに3人目の乙女は、気丈にも、
「はい、ガウェイン卿が殺されたのです。
私たちは、それを嘆いておりました」
「・・・な、なんだってー!」
ガウェインは驚愕した。少なくとも、自分はまだ生きているはずだ。

目を抉られた若者も、
「はい、さっきのことでした。
2人組の騎士がやってきて、ガウェイン卿を殺していったのです・・・。しかも、私の両目をえぐっていきました。
ガウェイン卿は武装していなかったのに・・・。
それだけじゃない、私は目をつぶされていたから見ていないが、2人組の騎士はガウェイン卿の死体から首や手足を切り離すなどの蛮行をしていきました・・・」

(またぞろ、厄介なことになったな・・・)
ガウェインは内心でため息をついた。
自分はちゃんと生きている。同名の別人が死んだのか、さもなくばこの若者や乙女が勘違いをしているのであろう。
が、この誤解を解くのは容易ではない。
この偽ガウェインが死んだのは、ついさっきなのである。
昨晩、ガウェインさんと晩餐を食べましたよー、などと昨晩にガウェインが生きていたことを教えてもあまり意味はないし、墓を掘り返して顔を見せろ、などともいえない。
しかも、ガウェインは誘拐された乙女を探すという任務の途中である。

「君たち、安心したまえ。ガウェインはちゃんと生きている。
ただ、私は冒険の途中だ。帰り道、必ずそれを証明しよう」

と、言い残すとガウェインは嘆き悲しむ乙女たちをその場において立ち去った。

――管理人などは、素直に自分の正体を明かせばいいのに、と思う。
が、ガウェインはそれをしなかった。ただ、生きて帰ってこれる保証はない。それで、名を名乗らなかったのだろうか?
とにもかくにも、「ガウェイン死亡」のデマが飛び交い、あとあとさらに自体はややこしくなる.それを考えれば、ガウェインの行動はちょっと短慮かな、と管理人は思うのである・・・。

2010/04/24

back/nect
top

inserted by FC2 system