第1章 乙女が誘拐されるのを、ガウェインが傍観すること

 

『L'Âtre périlleux』(墓場の冒険)は、13世紀にフランスで作られた物語である。主人公は、我らのガウェイン卿。
ガウェイン人気が最悪のフランスでガウェインを主人公にした物語って言うのはめずらしい。ただ、知名度はかなり低いみたい。仏語ウィキでは記述があったけど、英版とかでは見なかったし・・・。

管理人としては、この物語は宮廷風恋愛みたく人妻との恋愛とかないため、中世では受けなかったのだろうか、など考えている。
さて、以下はその『L'Âtre périlleux』を、適当にwebで探した情報を元に管理人が再構成したものです。基本は原作を尊重し、勝手に話を付け足したり、削ったりはしないものの、唐突に解説を入れたり、話の順序を判りやすく変えたりはします。

――さて、ペンテコステの夜から物語は『L'Âtre périlleux』(危険な墓場)の物語は始まる。
『イヴァン』の話でも書いた気がするが、アーサー王物語にとってペンテコステの日が物語の始まりであるのは一種の定型である。毎年毎年、不思議なことが起こるのだ。

この年のペンテコステの夜、赤い服の乙女が馬に乗って宮廷にやってきた。
その乙女は、アーサー王に対して自分を酌婦として雇ってくれるように願い出た。さらに、自分がひどい扱いを受けないよう、誰か騎士を守護につけて欲しいとも願い出る。

(気乗りはしないな・・・)
アーサー王は思った。
このあたり、管理人としてはよくわからないけど、酌婦って地位が低かったのかもしれない。なんでも、酌婦の守護騎士などを命じられるのは、かなりの苦痛だったらしいから。

しばし悩んでから、
「ガウェイン、君に決めた!」
と、アーサー王。身内だからか、どうも厄介ごとを甥に押し付けた。
叔父だとは言え、相手は王サマ。
ガウェインは慎んでこの命令を受け入れた。

(・・・計画どおり)
どこか怪しく微笑む乙女であったが、これに気づくものは誰もいなかった。
これが、ガウェインの奇妙な冒険のきっかけになろうとは誰も予想だに・・・、いやペンテコステの晩に冒険が始まるという定型パターンだから、誰かが気づいていてもよかったかもしれない。

さて、意外にもその晩は何事もなく、翌日のこと。
昨日やってきた乙女が、アーサー王に酌などしえちたところ、唐突に、1人の騎士が宮廷にやってきた。この騎士は、大柄で、ひどく無礼。

乙女を見つけた騎士は、
「やい、こんなところにいやがったか!
こいつは俺の恋人だ。連れて行くが、文句はないよな?
あるというなら、腕づくで連れて行くがな!」

これにはアーサー王たちは内心面白くない。
だが、誰も乱入してきた騎士と戦おうとはしなかった。

一方、我らが主人公・ガウェインである。
昨日、この乙女の守護騎士に任命されている、あのガウェインはというと・・・、黙って座っていた。
が、ただ座っていたのではない。

(なんて無礼な奴。こらしめてやりたいな。
でも、いまは晩御飯の途中だし。中断させちゃうのは礼法に反する・・・。
よし、晩餐がすんだらあの騎士と戦うことにしようか!)

など、礼儀正しいのか、それとも頭が悪いのか、現代日本人にはよくわからないジレンマに陥っていたのである。
が、そんなことにはおかまいなく、乱入した騎士は、乙女を連行して宮廷を出て行ってしまった。

――宮廷に、ある種の気まずさが漂った。
アーサー王は、甥が戦おうとしなかったことを不快に思っていた。
そこで、アーサー王がガウェインを叱りつけようとすると、

「この臆病者めが!」と、執事のケイ卿が叫んだ。
「あの乙女を守るのはお前の仕事だろうが、この敗北主義者がッ!」
とかなんとか、ケイ卿は言葉の限りガウェインを罵倒すると、自室に引っ込んでいった。
そして、完全武装で広間に戻ってくると、

「こんな臆病者には頼らない。
私が、騎士としての見本を見せてやる」
「なん・・・、だと! 待て!」
と、アーサー王が引き止めるのも聞かず、ケイ卿は広間を出て行ってしまった。

(こ、これはまずい)
アーサー王は顔面蒼白だ。下手をしたら、ケイ卿が死ぬことになる!

アーサー王物語に詳しい方ならいう必要もないが、ケイ卿は弱いのだ、ものすごく。
嫌みったらしくって、弱いなんて、そんなのが何で円卓の騎士に・・・、という感じのキャラであるが、アーサー王の義理の兄にあたる人物。
『水滸伝』でたとえるなら、宋江の弟である宋清あたりであろうか?
や、ケイは一応、執事としては有能だったらしいから宋清と一緒にするのは失礼かも。

「ガウェイン、もとはお前が守護しなければならないはずだろう?
なぜ、黙って座っていた?」

「はい、晩餐を中断させるといけないかな、と思いまして」

「・・・ええい、言い訳はもういい。
早くケイを追いかけろ!」

アーサー王の命令なら仕方ない。
ガウェインはすぐに自室に向かうと、鎧を身につけ、剣と槍を装備し、愛馬・グリンガレットにまたがって出発したのである。

2010/4/24

nect
top

inserted by FC2 system