第2章 アーサー王との対面

 

悲しむ皇帝と皇后を残し、アレクサンダーは期待に胸を膨らませつつ、船出した。
悲しみから船が見えなくなるまで見送りをする人たちもいるけれど、船旅は順風満帆。
特にこれといった危難もないまま、4月がすぎ、5月を少しすぎたあたりにイギリスの南、サウサンプトンに上陸した。
だいたい、4月はまるごと船の上で、それから5月の一部が言うのだから、1ヶ月少々の船旅といったところですか。

これまでとくに苦労と言うものを経験したことのなかった若者たちであったが、長期の船旅はそれなりに大変なものだった。
そんなわけだから、一行は大喜びで陸に上がると、アーサー王の宮廷がどこなのかを尋ねたり、寝転がったりした。
情報収集によって、アーサー王の宮廷はウィンチェスターにあるということが分かった。ウィンチェスターといえば、サウサンプトンからすぐの距離である。

一行は、翌日の日が昇らないうちに準備を始めると、即座にウインチェスターを目指して出発した。
ギリシア人たちは、朝の礼拝が始まる前ころにウィンチェスターに到着すると、馬や侍従を外で待たせると、若者たちは王の元に向かった。
ギリシア人たちは、アーサー王に目通りする前に、田舎者と思われないよう、外套を脱いでおいた。

――どうでもいいですけど、フランス語で書かれている原文は田舎者(clowns)と外套(cloaks)で韻を踏ませているのかもしれません。
管理人は英語版を読んでいるからあくまで想像ですけれど。
それと、管理人も就活を初めてから知ったのですが、建物の中ではコートは脱がねばなりません。
中世からこういうマナーがあったようですね。普段なら本筋に関係ないのでカットするところなのですがね。

王の前には、家臣たちが静かに控えていたが、彼らはアレクサンダーの仲間たちに美しく、器量よしであることに心を喜ばせていた。
そんなアレクサンダーの同行者は12人いたが、それぞれ美しい衣装に身をまとった美丈夫である。それでも、やはりアレクサンダーより優れた若者はいなかった。
アレクサンダーは、王の前で礼儀正しく跪いた。

そして、アレクサンダーは知性をにじまえつつ、アーサー王に挨拶をした。
「陛下。私が聞くところによると、神がこれまで創ってきた王の中で、貴方ほど優れた王はいないそうでございます。
この噂を聞いて、私は貴方に仕え、名誉を得ようと思ってやってきました。
私は、他の誰でもなく、貴方の手によって騎士に叙任してくださるまで、貴方にお使えする所存です。
陛下が騎士に叙任してくださらないなら、私は未来永劫、騎士になるつもりはありません。
もし私の働きぶりに満足していただけたなら、私を騎士に叙任し、私と私の仲間たちをこの宮廷においてくださいませんか?」

以上、アレクサンダーの挨拶はほとんど全訳。
現代風に言えば、「御社を志望した動機は〜」と言ってるわけですね。
見てみると、自分がどう言う人間で、何ができるのかとか説明がないですね。
あと、アーサー王が優れているとお世辞を言うなら、具体的なエピソードがあるといいんじゃないかな、と就活中の管理人は思ったりします。

「我が友よ。余は君も、君の仲間たちも拒むつもりはない。
君たちの漂わせている雰囲気から見るに、君たちは高名な貴族の息子なのだろう。
もちろん歓迎しよう。」

と、アーサー王は二つ返事でアレクサンダーの申し出を受け入れた。
そんな簡単に採用ですか、と思いますが、貴族の息子という肩書きは大きいようです。
前振りとして、礼儀作法がしっかりしていたとか、着ている服が立派とか、そんな事情があったようですけれど…。

「ところで、君たちはどこから来たのかね?
と、アーサー王は尋ねた。
「私たちはギリシアから着ました」
「では、お父上はどなかな?」
「はい、ギリシア皇帝でございます」
「我が友よ、では君の名前は?」
「はい、洗礼を受ける際、アレクサンダーと言う名をいただきました」
と、アレクサンダーは答える。
なんだかややこしい表現を使っていますが、キリスト教徒には洗礼名とかいうのがあるらしくて、そういうことです。

「ふむ、我が友はアレクサンダーというのか。
君がわざわざ我が宮廷に来てくれただけで、私は充分な名誉を得ることができて幸せだ。
そして、君が高貴な戦士として、知者としてこの地で名誉を得ることは、私自身にとっても充分に有益でもある。
ああ、随分と長い間膝をつかせてしまったね。どうか立ち上がってくれたまえ。これからは、この宮廷では自由に振舞ってもらいたい。

こうして、アレクサンダーの申し出が受け入れられると、ギリシア人たちは喜びつつも立ち上がったのである。

アレクサンダーは愚かではないし、傲慢でもない。決して生まれのよさを自慢したりしない。
そんな彼は、ガウェイン卿たちにも自己紹介をした。
ガウェインはアレクサンダーのことを気に入り、彼を友人として歓迎した。

ギリシア人たちは町で見つけられる最高の宿舎を取った。
アレクサンダーはコンスタンティノープルから莫大な財産を持ってきていたので、父の助言に沿うように財産を遣った。
すなわち、家屋敷の他にも、高価な馬を買い集めるとか、鷹揚に気前良く金を使うことに専念したのである。
いくらかの厄介ごともあったけれど、アレクサンダーは王や貴族、王妃らから信頼を勝ち得たのであった。


2011/02/13

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