第1章 アレクサンダーの旅立ち

 

『エレックとエニード』を執筆し、オウィディウスの『恋愛術』を翻訳し、『肩の噛み傷』(『Bite of the Shoulder』、管理人がググっても分からなかったです…)を作り、マーク王と金髪のイゾルテの歌を作り、ヤツガシラやツバメ、ナイチンゲールの変身物語を書いた私は、これからアーサー王の親類に当たるギリシアの若者の話を始めることにしようと思う。
だが、その若者について語る前に、若者の父親の生涯――彼の出自と血統についてから語ることにしよう…。

と、以上がクリジェの序文ですね。
この「若者」というのが主人公のクリジェ君です。
先に申し上げておくと、『クリジェ』という作品はまず、主人公のクリジェ君、父親というのがアレキサンダーです。
例によって、クレティアンの作品は登場人物の名前が出るタイミングが遅いのですが、ややこしいので先に出してしまいます。

さて、そのアレキサンダーは勇敢で、誇り高く、ギリシアからイングランドなどでも名が通っていた。
――ここから歴史的な話が語られてくるのですが、本筋にあまり関係ないので大幅に省略です。
管理人には、記述があっているかはよく分からないし。
かいつまんで言えば、書物によれば(権威付けのためで本当にあるかは管理人にはわからないです)、騎士道というのはギリシアが起源で、それがローマに伝わり、フランスに来たとか・・・。で、本場のギリシアとかローマで騎士道が廃れたとかなんとか・・・。どうも嘘っぽいんだよね。

そんな話は置いていおいて、まずはアレキサンダーの家族の話をしましょう。
アレキサンダーは、ギリシアとコンスタンティノープルを支配する皇帝の長男でした。つまり、アレキサンダーの息子のクジェ君もギリシアの皇族なわけですね。
で、アレキサンダーには弟がいまして、その名はアリ。地味に重要人物なので覚えておいてください。
で、父王アレキサンダーの父親もアレキサンダーなのですが、基本的に「皇帝」と表記するんで別に覚えなくていいです。母親のタンタリー(Tantalis、発音は適当)あたりは覚えておくといいでしょう。

さて、アレキサンダーは高潔で誇り高かったがゆえに、自分の王国内で騎士の礼を取ろうとはしませんでした。
そんなアレキサンダーは、そのころ王位についていたアーサー王と、世界中で恐れられ、また高名なアーサー王の家来たちの話を耳にした。
そういうわけで、アレキサンダーはブリテンに行こうと考えた。
さっそく、アレキサンダーは皇帝に対し、旅に出る許可をもらうことにしました。

――アーサー王に絡ませるためとはいえ、管理人としては、志望動機が曖昧で、アレキサンダーはエントリーシートとかどう書くつもりなのか、ちょっと疑問ですね。
もっと言えば、将来の皇帝に内定貰っておきながら、アーサー王の宮廷にも就活するのですか…・・・。
今現在、就活中の管理人にはうらやましくてたまらんです。

そんなことは置いといて、アレクサンダーは皇帝に対してこう言った。

「父上、冒険に出かける許可をください。
そこで名誉、価値ある勝利、名声などを得たいのです」

もちろん、皇帝だって息子がこの上ない名誉を得ることを望んでいる。
二つ返事で、息子の願いを聞き入れた。

「うむ、わかった。そちの好きにするが良いぞ」

「…父上、あなたは自分がいまどういうことを言ったか、お分かりですか?
私は、父上の持つ王位や、大量の金銀や家来などより、ブリテンで王に仕え、騎士となると申したのです。
誓って、アーサー王が騎士にしてくれるまで、私は兜をかぶることはいたしません」

皇帝は、苦もなくこう答えた。
「せがれよ、神にかけてそうはなるまい。
すでにコンスタンティノープルはすべてお前のものだ。
すぐにお前を戴冠させよう、明日にでも騎士にしてやろう。
ギリシアはすべてお前の物になる。
この申し出を拒否するのは、賢明とはいえないぞ」

こんないい話を聞かされても、若者は自分の国よりも、外国で自分の勇気と英雄性を証明したいと考えていた。

――ちょっと、ここでアレクサンダーは結構いいことを言うので、名台詞を少し訳してみよう。

「父上、私の願いを聞き入れてくださるのならば、軍馬と絹の衣装をください。
我が武勇のほどを証明するまでは、鎧を身にまとうことはしないつもりです。
いかなる嘆願も、話術も、外国に行ってアーサー王とその優れた家臣たちと会いに行くことをやめさせることはできません。
多くの貴族は、怠惰ゆえに、外の世界に出て行くことで得られる名誉を失ってしまうのです。
安息と賞賛は誰しもが求めるものであるようです。しかし、安楽の中に入るものは賢明ではなく、名声も得られません。
父上、名誉を勝ち取ることを許可して下さい」

――さっき内定がどうのと考えた管理人の言葉は忘れてください。チャレンジ精神を失ったら、人間はお仕舞いだよね…。

さて、息子の言葉を聴いた皇帝は、息子の勇敢さに喜ぶと同時に、息子が自分から離れていくことに不安も感じた。
だが、皇帝は息子に対し、願いを聞き入れると言ってしまっている。皇帝たるもの、嘘を吐くわけにはいかないのだ。

「ならばせがれよ。お前の好きにするのだ。そして、名誉を得るがいい。
蔵の中に大量の金銀があるから、出発の前に持っていきなさい。
気前良く、礼儀正しく、育ちが良いように振舞うのだぞ」

父親の許可と、充分な財産を得ることができて、アレクサンダーは歓喜した。
さらに、皇帝はこうも言った。
わりと面白いことを言っているので、長いけど真面目に訳す。

「気前の良さは全ての美点を輝かせる女王的なものだからね。
力強く、高貴な男なら、ケチであることを理由に非難されたりはしない。
だが逆に、あまり良い男でなくとも、気前が良ければ、どうして評価されないことがあるだろう?
つまりだね、気前が良い男はそれだけで名誉を得られるのだ。だが、生まれが良いだとか、礼儀正しいだとか、博識だとか、金持ちだとか、勇敢だとか、美形だとか、こう言った美点にはそれほどの効果がないんだよ」

――どうでしょうか? 
実際は、まだまだ気前の良さについて皇帝が語るのですが、長くなるので省略。
管理人は、「金の切れ目が縁の切れ目」が頭をよぎるのですが、こういうやり方も一つのやり方でしょう。
管理人は、資金援助すごすぎないかとか、親父は甘すぎじゃないの、など思ってしまいます。
よくよくアレクサンダーの台詞を読み直しても、「冒険がしたい」「外の世界に出たい」と行っているだけで、「困難にぶち当たりたい」とか「許可がなければ、無一文で行くぜ」とかは言ってませんよね…・・・。

そんなこんなで、アレクサンダーは父親に望むものを全て準備してもらうことができた。

一方で、息子が旅立つと聞かされた皇后はこの上もないほど悲しみにくれた。
だが、誰の説得を受けてもアレクサンダーの心は変らない。
もはや母国にいる必要はなくなったとばかりに、アレクサンダーは大急ぎで船出の支度をさせると、さっさと船を出させてしまったのだった。
ちなみに、日本語では表現できていないけど、「船」は複数形になってて、わりと金の掛かった感じです。
ついでに、「船をだせた」で表現したつもりですが、彼自身は指揮してるのであって、船を漕いだりは当然にしてない様子
うらやましいですね。

この続きは、次回で。


2011/02/06

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