21章 旧友との再会

 

 

マーリンが説明を終えると、偶然だったのか運命に導かれたのか、一人の気違いがやって来た。その気違いは森中にすさまじい叫び声を響かせた。その様子はイノシシが激怒して襲いかかろうでもするかのようだった。気違いの関心を笑い話と冗談によって引きつけたところで、マーリン達は素早く狂人を取り押さえた。

 

狂人をまじまじと観察したマーリンは、その男が何者であるかを思い出すと、心からうめいた。

 

「俺達が若々しかったころ、こういう方法で捕まえたりはしなかっただろうな。あのころはフェアだったり、強き騎士だったり、貴族として卓越して気高かったりしたからな。

こいつと、それから昔のやつら。俺が金持ちだったころ、それから俺が幸せで、たくさんの仲間がいたころだ。

アルスティル(Arwystli、ウェールズの地名。カタカナは適当)で俺達は狩をしていた。そこでは大きな枝を持ち、天にそそり立つオークの木があった。草原地帯に泉があって、俺達が利用するのにちょうどよかった。俺達は喉が渇いていたから、近寄ってむさぼるように綺麗な水を飲んだ。

それから、俺達は泉の岸辺の草地に、良い匂いのするリンゴを見つけたんだ。

コイツは一番初めにリンゴを見つけると、予想外の収穫に笑いながらリンゴを取って来て俺に渡してくれたっけ。で、俺は手渡してもらったリンゴを皆に配分したんだ。でも、数が足らなかったから俺の分のリンゴはなくてね。リンゴを配られた奴らの中には、笑いながら俺のことを「気前のいいやつだ」って言ってくれて、先に食べちゃった奴らのことを非難してた。それと、リンゴの数が足らないことに不満も言っていたよ。

それから、悲劇がコイツと俺達を襲ったんだ。リンゴを食べた奴らは唐突に理性を失って、犬みたいに互いを引掻き合った。そして怒り狂うと、発狂した状態で地面を転がった。ついには狼みたいに咆哮をあげてどこかに行ってしまった。

あのリンゴは仲間達じゃなくて俺のためのものだったんじゃないだろうか。今になって、そうだったんじゃないかと思う。あのころ、その地区の有力者の女は俺に惚れていて、かなりの間、俺の愛(…loveを性行為と解した方が適切かも)は彼女を満足させていたんだ。

俺が彼女を拒み、同棲することを拒否した後のことだ。彼女は急に俺に危害を与えようと邪悪なたくらみを企てた。たくらんだ計画が全て成功しないと分かると、彼女は俺が帰ってきた時、泉の近くに毒を塗った贈り物を用意したんだ。もし、俺が偶然にも草地にあるリンゴを発見して食べた場合に、俺を中毒させるためにな。

だが、今話したように、ほんの幸運から俺は助かった。

お祈りをします。新しく湧きだした泉(17章参照)の水によって、この者が癒されますように。もし健康を取り戻したならば、自分が誰だかも思いだせるだろう。そして、生ある限り神に仕えることだろう。」

 

こうして、この男は癒しの泉に連れてこられるとむさぼるように水を飲み、ようやくにして理性を取り戻すとマーリンを友と認識した。

 

 

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