11章 さよなら、愛しい人

 

 

 

 〜これまでのあらすじ〜

長々とマーリンはブリタニアの将来を予言した。これから、もう1つ予言を追加する。

 

 

それから、マーリンはこう付け加えた。

「妹よ、家に帰るならばラゼルフがちょうど死の淵にあるだろう。それから、タリエシンと語り合いたいから、連れてきてくれないか。最近、ブルターニュで『ギルダスの知恵』を学んで来ているんだ」

 

 

 ガニエダが帰ってみると、確かにタリエシンが帰郷しており、またラゼルフは死去しまっていた。家来達は悲しんでいた。

ガニエダは悲しみのあまり友人達の前で倒れると、髪をかきむしって叫んだ。

 

「ラゼルフが死んでしまった。

大地はこれまで私に対して男性のことについてこれほどの悲しみを与えることはなかった。平和を愛し、他の誰の力によっても従えることのできない蛮族を統制した人だったのに。聖職者には節度を持って対応し、身分の高低に関わらず法で適用した。皆から好意を持たれ、すべきことは何でもする人だった。騎士の花にして、栄光ある王、王国の柱。

なんということだ!思いもしなかった、貴方の体が虫の餌に成り下がり、墓の中で腐って行くなんて。この寝台は貴方のため、上質のシルクで作られたものかしら?貴方の白い肉体と王の手足が冷た石で覆われて、骨と塵になってしまうなんて、本当のことかしら?

その通りだ、哀れな人類は決して過去の状態に戻る事ができないまま年月を過ごすのだ。それゆえに、つかの間の勇気によって時の力を回避したり、巻き戻したり、騙したり、傷つけたりすることはできないのだ。

ミツバチは突き刺すモノに対し、あらかじめ蜂蜜を塗りつける。そして、世界中の栄光を得る者だって、その後には陥れられ、不快な針の打撃を受けて死んでしまうのだ。優れたものは短命で長生きできない。あたかも流水が有益なものを流し去ってしまうように。

真紅の薔薇、満開な雪色の百合、人・馬、その他全ての美しいもの。これらは世界ではなく、神に委ねられる。それゆえに、幸福は堅固な信仰を持つもの、神に仕える者、世界を捨てるものに与えられる。だから、私は貴方を、貴方たち貴族を、家庭を、愛しき息子達を、そのた世界の全てを捨て去ろう。以後はお兄様と一緒に森に住むことにしよう、そして黒い服を着て、喜びとともに神にお仕えするのだ。」

 

こう言うと、ガニエダは亡き夫に対しての義務を果たし、そして墓石にはこのように刻みつけた。

「寛大なラゼルフ。世界の誰よりも寛大であった偉大な男、この場に眠る」

 

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