解説

== 謝辞 ==
長々とおつきあいくださった方、
またとりあえず解説から目を通される方、
お越しくださったことに感謝をば。

== フェア・アンノウン ==
作中、主人公は『リベアウス・デスコヌス』とか名乗ってますが、英語だと『フェア・アンノウン』(Fair Unkown)。
「未知なる美男子」とかいう意味だそうです。
ボーマンことガレス卿、ラ・コート・マル・タイユことブルーノ卿とか、こういう素性を隠して旅をする騎士、っていうジャンルはそれなりに流行ったようです。
ただ、こういう作品をひっくるめて『フェア・アンノウンの作品群』というそうで、オリジナルとなる原典がなにかは不明だけれど、この物語はわりと深いというか古いところにいるみたい。
正確に言えば、『リベアウス・デスコヌス』はルノー・ド・ボージュというフランス人が作成した『ル・ベル・アンコニュ』を元にしているそうなのですけれど。

== ガウェインの息子 ==
さて、内容ですがガウェインの息子、ガングラン卿を主人公にした物語は『リベアウス・デスコヌス』の他、さっき名前を出したけれど『ル・ベル・アンコニュ』がございます。
どっちもだいたい同じ話で、ガウェインの息子が、自分の名前すら知らないまま騎士になり、貴婦人の愛を求めて戦う、という話です。
タイトルである『未知の美男子』をどこの国の言葉で表現するかは別として内容的に大差はないようです。

ただ、個人的にはあらすじしかしらないけれど、『ル・ベル・アンコニュ』の方が面白い感じ。
これだと、途中で『黄金の島』で助けた乙女と恋仲になるのですが、エンディングが結構ひどい感じ。
蛇に変えられているお姫さまを助けた後も物語は続き、主人公が『黄金の島』で暮らすのです。
で、どっちと結婚しようかなぁ、と考えた主人公はまぁ財産のある方をとるという…。
結局、『黄金の島』の方の乙女は捨てられてしまうのですが、作者、ルノー・ド・ボージュによれば「結婚とは情緒的な目的より社会的なものを満たすもの」ということ。
私の場合、『ル・ベル・アンコニュ』のあらすじだけ知っていたため、『リベアウス・デスコヌス』を読んだ時、あまりにあっけない『愛の乙女』の退場にびっくりしました。
そんな『ル・ベル・アンコニュ』について詳しいのはウィキペディアの『ガングラン』を読んでください。

== 突っ込みどころ ==
正直言って、突っ込みどころは非常に多い。
『リベアウス・デスコヌス』はかなり不条理と言うか、理屈に合わないところが多い。
冒頭、リベアウスの少年時代なのですが、母親はどうしたのかと、それに冒険の動機と言うものがほとんどよくわからない。なんか冒険したいから冒険してるという感じである。
また、8章とか、わざわざ美女コンテストをやっておいてエレンが負けてしまった展開は、読み間違えでもしたのではないかと思った。
それにですよ、先を急ぐ旅だというのにグリフロンを倒してから40日間街に滞在したり、あげく『愛の乙女』と12ヶ月もすごしたり…。
ちょっとこの展開には驚いた。
あげく、魔術師のはずのマボンとの戦いは、ごく普通に馬上槍試合…。お前、魔法使えばいいじゃない? ていうか、生き残ったジェインの方は伏線の回収してないけど大丈夫なのか?
きっと、こういう不条理な部分がそぎ落とされてガレスの冒険になったりしたのかもしれない。さもなくば、中間の冒険は後世の物語作家が付けたしたせいで整合性がなくなったのかも。

== 翻訳上のこと ==
わりと疲れました。
最初、主人公の「Libeaus Desconus」を「Li」+「b」+「eau」+「s」で区切って「リボー」だと思ってました。フランス語の発音的には、たぶんそうなる。
で、途中にいろいろ文献見てて「Li」+「be」+「a」+「us」で区切るのが正しいということに気づく。
ローマとかラテン語とかの発音だろうか、その辺は良くわからない。
それしても、しょっぱなの対戦相手が「ウィリアム」という明らかな英語圏の名前だと思ったら、『愛の乙女』(La Dame d'Amour)という明らかにフランス語の名前が出てきたりして混乱します。
ため、私の翻訳だと明らかな英語圏の名前は英語で、それ以外はフランス語風にするかカタカナ読みという感じになってます。当然、発音は適当なので変に信じないほうがいいと思います。

また、いまに失敗だと思ったのがリベアウスの喋り方。
ガレスとかみたいに育ちのいい感じに「ボク」を一人称にしてみたのですが、戦いがあると喜ぶと言う好戦的な性格だということが発覚。
一度、自分で読んだときには戦闘シーンは軽く流し読んでいたため、あまり意識しなかったのですね。
あぁ、もうどうしようもないなぁ、と思いながら「ボク」で通しました。「おれ」とかそんな感じの一人称で粗野な喋り方にすべきだったかもしれない。

あとは、ドワーフですね。
なぜか、主語にドワーフが省略されることが異常に多かったです。
楽器が得意、という設定がありながら作中でまったく特技を見せることがなかった空気キャラなのですが、文脈から明らかに「エレンとドワーフは〜した」とならなきゃいけない文でも容赦なくドワーフについて省略。
また文脈から主語はリベアウス・エレン・ドワーフの「3人は」でなきゃらなない文とかだと「2人は〜」となってたり。
従者は、というかもともとドワーフだから人間あつかいされないのか、と思いながら翻訳では少々いじくってあります。

最後に謝罪です。
ずっと『愛の乙女』(La Dame d'Amour)を『鎧の乙女』(La Dame d'Armour)と誤解しながら訳してました。
言い訳すると、『ル・ベル・アンコニュ』の方で彼女にあたる人物が、悲しみにくれながら主人公のために鎧を準備してくれたシーンが印象に強かったのでしょう。
ていうか、そんなこと言っても間違いは間違いなので、初版を読まれた方には大変ご迷惑をかけました。もうしわけありません。
以後はもう少し、責任感のある和訳を心がける次第です。

2009/9/6


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