5章 三重の死、続き

 

 

その一方、マーリンは森に帰ろうと計画し、住居を後にすると城門を開けてくれるようにお願いした。

だがガニエダは森には帰らせまいと涙を流し、一緒に暮らして欲しい、そして正気に戻って欲しいと懇願した。

だが、無情にもマーリンは森に帰ろうとして聞かず、城門を開けようとした。懸命に森に向かおうとするマーリンは、家来に対して怒鳴り散らして門を開けさせようとした。

マーリンが立ち去ろうとする限り、その場には誰も止められるものはいなかったので、ガニエダはマーリンの妻、グエンドロエナを呼ばせ、引きとめようとした。

やってきたグエンドロエナはひざまづいてマーリンに行かないで欲しいと懇願したが、マーリンは願いを聞き入れず、立ち去ろうとする。

だが、マーリンはグエンドロエナの泣き顔を見るのに忍びなかった。グエンドロエナは悲しみにくれ、涙を流すと、爪で髪と頬をかきむしり、死にそうな様子で地面を転がった。

 

これをみたガニエダは、言った。

「このままではグエンドロエナはお兄様のせいで死んでしまうわ。それでいいの?お義姉様を再婚させたいの?未亡人にさせたいの?それともお義姉様も一緒に連れて行くの?一緒に連れて行くのなら、お兄様と愛のある木立で、緑の森で、草原での生活を喜ぶでしょう。」

 

これにマーリンはこう答えた。

「妹よ、夏に泉から壷で水を汲んでくれる雌牛はいらないんだ。俺はエウリディケがステュクス川を越える前、かごを少年達に与えてしまったときにオルフェウスがしたように、注意を向けるつもりはない(モトネタ、ギリシア神話)。君からも解放されて、俺は愛の痕跡を残さずに立ち去ろう。それだから、グエンドロエナには然るべき相手、彼女が選んだ男性と再婚する許可を与えよう。だけどその再婚相手の男は俺の邪魔をしたり、俺の近くに来ないように注意させるんだぞ。もし俺と出会おうものなら、剣をお見舞いすることになるからな。だけども正式な結婚する日とか、ご馳走がお客さんに振舞われる日には俺も客として参加しよう。グエンドロエナが嫁入りすると言うのなら、俺はふさわし贈り物を持参して、たっぷりと贈与するんだから。」

 

皆にさよならを言い終わると、マーリンは出発した。誰もマーリンが熱望していた森へ帰るのを止めることはできなかったのである。

 

 

グエンドロエナとガニエダは悲しにくれながらマーリンを見送り、友人に動かされるまで城門から離れなかった。

一方で、彼女達は秘密にしていたこと、また妹の不倫を知っていたことに驚いてもいた。それでも、マーリンが1人の少年に対し、3種類の異なる死を予言した時から、マーリンの言葉はデタラメだと考えられるようになっていた。だからこそ、この少年が青年に達するまで、マーリンの言葉は嘘だと考えられていた。

この青年が猟犬とともに狩りに行った時のこと、林で雄鹿を発見した。

すぐに猟犬を放し、犬のうなり声とともに人里離れた地へ向かった。青年は馬と猟犬係りを駆り立てて獲物を追いかけると、角笛と声によってもっと早く移動するように指示を出した。周囲は岩で囲まれ、平野に川が流れる高山に獲物が逃げ込んだ。青年は川の近くで追いつくと、鹿が隠れそうな場所に検討を付けた。

青年は山に進むと、岩が転がっているあたりで鹿を探すことにした。あまりに急いだものだから、青年の乗っている馬は高い岩の上で足を滑らせ、絶壁を川に向かって落下して行った。

しかし、彼の足が木に引っかかり、体を残して頭だけ川の中に突っ込んだ。こうして1人の青年に対し、マーリンの予言どおり「墜落」「溺死」「木から吊り下げ」られるという3重の死因が発生したのである。

 

そのころ、マーリンは氷の霧の中、雪の中、雨の中、激しい風にも関わらず、森で獣のように生活していた。

だが、マーリンにとって一種の自然災害は、法治社会だとか、蛮族の支配する人間社会よりも快適なものだった。

その一方、マーリンが年中森で生活するものだから、別居中のグエンドロエナはマーリンが出した許可に従って再婚していた。

 

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