4章 三重の死

 

 

王妃は城で王を探していた。

王は王妃に挨拶をし、手を取ってから座るように命じ、抱きしめてキスをした。

そうすると、ラゼルフ王は妻の顔を見ると、一枚の葉っぱが髪に引っかかっているのを発見した。

ラゼルフは指で葉っぱを摘み取ると、それを地面に捨て、妻に対し楽しげに冗談を言った。

これを目にしたマーリンはニコニコと微笑んだ。

もともと微笑む習慣をもっていなかったマーリンが微笑んだものだから、ラゼルフ王は吃驚した。不思議に思った王は、また色々贈り物をするから、どうして笑ったのか教えてくれ、と頼んだ。

だが、マーリンは沈黙したまま応えようとしない。それでも王はさらに贈り物をするからと嘆願しつづけると、いらいらしたマーリンは答えた。

 

「ケチな奴は贈り物が好きだ、欲ばりは頑張って富をえようとする。贈り物は簡単に人を腐らせるし、人の心は命じられた方向に曲げられる。奴らにとって今の財産は不十分だろうが、俺にとってはケリドンの森のドングリ、草原の匂いと、そこを流れる泉の輝きで十分満足なんだ。俺は贈り物で誘惑されることはないよ。ケチな奴にそういうのをあげてくれ、自由が与えられ、緑の森の谷に帰らせてくれないなら、どうして微笑んだのかは教えない」

 

そう言われ、ラゼルフ王は財産でマーリンを動かすことはできないことを悟り、また自力ではマーリンが微笑んだのかを知ることはできないと考えた。

ラゼルフ王は直ちにマーリンを拘束している鎖を外させると、待ち望んだ説明と引き換えに、マーリンが寂れた森を求めることを許可したのだった。森に帰れることを喜んだマーリンは、

 

「なあ、ラゼルフ、俺が笑った理由はだね。君の行為が感心するものだったけど、同時非難されるべき行為だったからだよ。君はガニエダの髪から、それを知らないで葉っぱを取ったんだ。ガニエダが茂みの中で愛人と密会し、寝たときに君に向けた信頼よりも、君がガニエダに向けた信頼の方が大きかったと言うわけだよ。で、ガニエダが仰向けで寝ているときに髪が広がり、偶然にも葉っぱがくっついた。君は知らずに取ったんだがね。」

 

突然の告発に対し、ラゼルフは悲しむと、妻の方を向きなおると自分達が結婚した日のことを罵り始めた。

だが、ガニエダは平常心を保ちつつ、恥じらいが顔に出るのを微笑みで隠蔽した。

 

「ねえ、あなた。どうして悲しむの?どうしてそんなに怒り出して、不当にも私を罵るのかしら?理性をなくしちゃって、事実と虚構をごちゃまぜにする狂人の言葉なんかを信じるの?気違いの言葉を信じる人は、気違いよりも愚かなものですよ。さぁ、私の考えが間違っていなければ、すぐに兄が狂っていて、真実を話していないことを証明できるわよ」

 

ある少年がホールに呼び出された。

聡明なガニエダは、ラゼルフに対し兄が虚偽を述べている様子を見せ付けることにした。そこでガニエダは少年を呼び付けると、マーリンに対しこの若者がどういう風に死ぬのかを予言させた。

 

「親愛なる妹よ、この少年は成年に達した時、高い岩の上から転落死するね」

 

ガニエダは微笑んでみせ、少年に対し退出してから、服を着替え、その長い髪を切ってから戻ってくるように命令した。こうすれば、少年は別人に見えるはずである。

はたして少年はこの命令に従い、着替えと散髪を済ませて戻ってきた。そして、ガニエダは再びマーリンに質問した。

 

「お兄様、この少年がどうやって死ぬのか教えて下さる?」

 

「この少年は大人になると、木が原因で非業の死を遂げるだろうね」

 

マーリンがこう答えると、ガニエダは夫に話しかけた。

「あなたはイカサマの予言で、私が不貞を働いたと誤解できるのかしら?少年について話すマーリンから、理性を感じられたり、マーリンが森に逃げるために私について話したことを信じられるかしら、そんなはずはないでしょう!私の寝台は汚れていないし、生ある限り私は常に潔白ですよ。私が少年の運命を尋ねたときにマーリンの虚偽は証明されたはずです。気を付けてして判断してください。」

 

こう言うと、ガニエダは少年に対し、今度は女装して来るように申し付けた。

すぐに少年は退出すると、命令どおり女性の服を身につけ、少女のような姿で再びマーリンの前にあわられた。ガニエダはからかうように尋ねる。

 

「お兄様、この少女がどうやって死ぬか教えてくださる?」

 

「少女かそうじゃないかはともかく、川で死ぬことになるよ。」

 

マーリンがこのように、1人の少年の死因に対し3つの死に方という予言すると、ラゼルフは自分の早合点に呵呵大笑した。

こういうわけだから、ラゼルフはマーリンがガニエダについてもデタラメを話していると考え、マーリンの言葉を信じなくなった。

そして、ラゼルフはマーリンを信じたがゆえに最愛の妻を非難したと言う行為を悔やみ、悲しんだ。

これを見た王妃はラゼルフを許し、ラゼルフを抱擁し、キスをしたのでこれにはラゼルフも喜ばせられた。

 

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