第9章 ヨーロッパに帰還するリナルドたち

 

 

 

 

リナルドたちが北を目指して旅をすると、ヨーロッパに入った。ある朝、騎士たちは目の前の海岸に美しい城と庭園が広がっているのを目にした。

これはモルガナの姉妹にしてアタリベリ(※注  Atarberi、発音は適当)の女王、アルチーナの王国である。

この妖精は、魔法で誘い込みながら、海岸で魚取りを楽しんでいた。

 

彼女は通りがかったアストルフォの美しさに夢中になると、近くの島に好んでやってくるセイレンの歌を聴くためと言って、彼を近くにある島に招待した。

 

アストルフォは、馬に乗ったまま岸から遠くない島に向けて海を渡った。だが、彼が島に上陸するとすぐ、島が動いたので、この島が巨大なクジラであることに気がついた。このクジラは妖精の家来だったのである。

リナルドとドゥトンは彼を助けるために海に入ったけれど、ドゥトンを乗せたまま馬が沈んでいってしまったので、リナルドはデンマーク人を助けるためにバヤールを泳いで向かわせなければならなかった。そのため、デンマーク人のドゥトンは岸辺まで安全に運搬された。

一方でクジラは泳ぎ去って見えなくなり、恐ろしい嵐が海と空を覆い隠した。

 

もはや、アストルフォの救出は不可能である。連合国の戦士たちは、西に向かって旅を続けることになった。

 

(※注 アストルフォとアルチーナの件ついては、『狂えるオルランド』で語られる。)

 

旅を続ける彼らは、ハンガリーのブタ(現在のブダペストの西側部分)に到着した。ブダではハンガリー王がキリスト教国の救援のため、息子のオッタチエロ(※注 Ottachiero、発音はブルフィンチ版を参照)に大軍を率いさせて派遣しようとしていた。

リナルドの到着に大喜びしたハンガリー王は、リナルドを息子とともに軍隊の指揮官に任命した。それから長い進軍の間、ロンバルディアのデジレウス王軍と合流した上でジェノバのアルプス山を通過し、プロヴァンスに到着した。

 

それから幾つかの、にぎやかな地域を通って数日だけ進軍すると、同盟軍は丘の向こう側からトランペットとドラムの音を耳にした。ロドモン率いる異教徒軍と、キリスト教徒軍が戦っている最中だったのである。

 

リナルドは丘からロドモンの強さを眼にすると、軍の指揮を友人たちにゆだね、槍を構えるとロドモンテめがけて馬を駆けさせる。

リナルドの一撃に耐えることはできず、ロドモンは馬から突き落とされた。

リナルドは高潔な騎士道精神の持ち主であるので、有利に乗じることなく、一度丘まで戻り、そこで馬を降りた。バヤールを荷の間につないで確保しておくと、それからロドモンと徒歩での戦いをするため、戦場に戻る。

 

彼らの戦いが中断されているうち、戦局は拡大しており、ハンガリー軍はロドモンによって敗走していた。リナルドが戦場に戻ってくると、オッタチエロが負傷しており、ドゥトンが捕虜にされているという恥辱があった。

 

再びリナルドがロドモンと戦っていると、再びドラムとトランペットの音が響き、シャルルマーニュ軍が戦闘隊形をとり進軍してきた。

 

ドゥトンの馬に乗っていたロドモンは、徒歩のリナルドを置き去りにして馬を駆り、敵軍に攻撃を仕掛けた。

激しい戦いがはじめるも、夜になると戦闘は中断された。

このとき、ロドモンテはリナルドに対する作戦を考えこみ、ついに彼を騙してアーデンの森に行かせる計略を練った。

 

このころ、リナルドはバヤールを探し、これを見つけると馬に乗って戦場に戻ってきていた。このとき彼は、戦場から略奪品や囚人を船で運送しようとしているサラセン人に出会った。

リナルドがロドモンを探し回ったりしているうちに、すでにドゥトンがアフリカに送られるなど、残りの者たちは激しい敗北をしていたのである。

 

(※注 この後、ドゥトンはが物語に登場するのは『狂えるオルランド』の終盤、第39歌。それまで、ずっと捕虜のまま活躍しない)

 

偽の情報で敵がアーデンの森にいると知ったリナルドは、アーデンの森にあるマーリンの泉に向かった。ここにたどり着いたリナルドは、ロドモンを追いかけるために、サラセン人たちとの戦いをやめてしまったのである。

 

そのころ、ロドモンテは遠く離れた場所にいたが、そこで見知らぬ騎士と出会っていた。この騎士はフェッラウであり、アンジェリカを探すためにフランスに戻ってきていたのである。

2人の騎士は騎士道についてなどを話題にお喋りをしていたが、愛についてが話題になると、フェッラウはグラナダ王ストリディリアーノ(Stordilano)の娘、ドラリス(Doralice、発音は適当、ドラリーチェのがイタリア風かも)こそが、自分が見た中では淑女と言うに相応しい、と言った。

これに焚きつけられたロドモンテは、自分も彼女に憧れていて。恋敵には容赦をしないから、すぐさま彼女への愛情を捨てるか、自分に叩きのめされるかを選ぶがいい、と言った。

フエッラウの方も、自分は彼女を愛していて、彼女が自分をうとんじているために彼女の元を去ったといえども、なお彼女に恋をしている、と答えた。

こうして2人の間で決闘が始まったけれど、著者はこの騎士らの戦いをここまでとして、リナルドについて物語をしなければならない。

 

2010/08/25

 

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