第8章 フロリマールの過去が明らかにされること

 

 

 

フロリマールが投獄されたとき、オルランドは冒険の途中であった。アリダノが守護していた泉にたどり着いた彼は、泉のそばで泣いている美しい乙女を目にした。また、彼女の近くには竜の死体が転がっている。

 

異常な光景に驚くオルランドであったが、淑女は竜の体の下に腕を入れて抱え上げ、近くに停めてあった小型船に乗り込んだ。

岸から離れて帆を調整し、彼女は泉の中心にたどり着いた。すると魔法の船は泉の底まで沈んでいってしまった。

 

オルランドは目にした出来事に驚嘆して呆然としていると、もう1人の乙女が岸にやってきた。彼女は婦人用の小馬に乗り、お供に兵士を連れていた。彼女は伯爵の名前を呼ぶと、オルランドの前で大喜びして見せた。

この乙女はフロリマールの恋人、フロリドリに他ならない。そして、先刻の船に乗った乙女はモルガナである。

 

この妖精はオルランドが魔法の庭園を出発するのと同時に、ある魔術の力によってジリアンテを竜の姿に変化させていた。これはアリダノの代役を務め、彼女の領域を警護させるためである。

だが、彼女の魔術が失敗したのか、それとも他の原因があったのか、変身が終わるとすぐに、若者は悲鳴を上げて息絶えてしまったのだ。

失敗に錯乱した妖精は、地下の世界ならば彼を生き返らせることができるかもしれない、という希望を胸に、彼とともに船に乗り込んで泉の底に降りていったのである。

 

この後すぐ伯爵と顔を合わせたフロリドリは、彼の目を見つめ、協力を依頼した。彼はだいたい彼女の求める事項を察すると、彼女に対してこれまでの出来事の説明を頼んだ。

フロリドリは、以下のように語った。

 

「私は、フロリマールを探してあちこち放浪しているとき、貴方も目にしている兵士と出会いました。奇妙な偶然によって、彼もまたブランティマルを探しているというのです。

彼が物語ってくれたことは、私たちの身に降りかかった出来事よりずっと驚くべきもので、これが私の苦悩の原因になっているのです。

彼が言うには、自分はかつてモノドンテ王の奴隷であったバルディノという名の男だそうです。王の過ちに対する復讐のため、王の長男を誘拐し、この子をシルヴァン・タワーの領主に売り払ったというのです。領主は子供に愛情を抱き、この子を自分の子として育て、子供に財産を残して亡くなりました。

 

「子供は、武術を愛するゆえに、バルディノを城主にしたあと、シルヴァン・タワーを出て行きました。ですが、彼の不在を狙い、近隣に住むルパルド(Rupardo、発音は適当)がとても防御できないほどの軍勢を率いて襲撃してきたのです。

このような状況下でバルダノは、フロリマールの行き先を調べるために多額の費用を使いましたが、ついに彼がモルガナの捕虜になっていることを突き止めたのです」

 

さらに、乙女はこう続けた。

「そういうわけだから、彼を魔女から解放するため、是非とも貴方の協力が欲しいのです」

 

(※注 以上の説明から、モノドンテ王の誘拐された息子とフロリマールが同一人物であることが分かる。114を参照)

 

オルランドの方も、フロリマールの身に何が起きたのかを説明した。すなわち、最終的に彼がモノドンテ王の元に置き去りにしてきたこと、彼を自由にするためには、モルガナの捕虜になっているジリアンテを連れてこなければならないこと、などである。

 

乙女は感謝の心でオルランドの言葉を聴くと、足元にひざまずいて、彼の仕事がうまくいくように熱心にお祈りを始めた。

すぐさま、オルランドは冒険を開始した。

彼は、入口から、かつて地上に出るために昇った階段を下っていく。イバラや棘の場所を覚えていた彼は、再び宝物の平野を通過した。ここには黄金の椅子が転がっているが、これは以前、リナルドが捨てざるを得なかった物である。

 

かつて通った道を進む彼は、泉のふちでモルガナを発見した。ここは、かつてモルガナが楽しんで踊っていた場所と同じである。

ただ、彼女は以前とは異なり、再び人間の姿を取り戻したジリアンテを愛撫している。もっとも、彼の顔色は蒼白で、変化の魔法の影響によって恐怖に震えていた。

伯爵はかつてのように機会を逃すようなことはせず、妖精の前髪を掴み、囚人を解放するように命令した。

オルランドはジリアンテを連れて古い階段を昇って地上に戻った。まだ、地上でお祈りを続けていたフロリドリを目にすると、全員で近くの岸をたどり、海を渡って安全にダモギールに帰還した。

 

ジリアンテを取り戻すことでさえ諦めていたモノドンテ王は、まさか息子を2人とも(ジリアンテとフロリマールのこと)取り戻すことができたため、大喜びした。王と人民はキリスト教に改宗し、リナルド、アストルフォ、ドゥトン、その他の囚人たちも解放された。

祝宴が催され、バルダノの罪については、誘拐後にフロリマールに愛情を示したことにより不問に付された。

また、姿を現した黄金のリンゴの乙女がモノドンテ王の娘であることが発覚すると、喜びは完全なものとなった。

 

だが、人生というのは明るさと暗さによって色取られているものだ。

長く続いた祝宴は、デンマーク人のドゥトンが貴公子たちに対して、すぐにキリスト教国の防衛をいう義務を果たさねばならないことを思い出させたことによって終了した。

リナルドとその他のフランク人はみな、この召還命令に従うことにした。ただ、オルランドだけは別である。彼は親友のフロリマールと一緒にアルブラッカに戻っていったのだ。

一方で、リナルド、イロルド、プラシルド、黄金の槍を持つアストルフォを含む者らはフランスに帰還するために旅をした。

 

2010/08/13

 

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