第7章 オルランドは初敗北し、フロリマールが友情を示すこと

 

 

橋のところに馬は残されていなかったため、リナルドたちは徒歩の旅である。談笑しながら歩いていく。

旅は6日目までさしたる出来事もなかったが、彼らは近くの城から角笛の鳴る音を耳にした。

川によって分断されているが、向こう岸には小型船がある。船尾には乙女が1人乗っていて、道案内をしようと申し出た。

 

向こう岸にたどり着くと、彼女はこれからやってくる門番に対し、彼らは説明をしなければならない、と言った。

その門番とは老人であるが巨大な馬に乗り、多くの護衛を連れていた。

彼は騎士たちに対し、ここはモノドンテ王の領土であり、一日だけ彼に奉仕しなければ、安全にここを立ち去ることはできない、と説明した。

その奉仕の内容とは、モノドンテ王彼と敵対している魔法使いにして巨人のバリサルド(※注 人名。ファレリーナの作ったバリサルダの剣と似てるが無関係)という男に対する報復である。バリサルドはさっき彼らが横断してきた川の近くにある、塔に接する橋を護衛していて、モノドンテ王と彼の王国を通過する者を軽蔑しているのだ。

 

戦士たちにとって、これ以上ないような好ましい提案だったので、彼らは魔術師を探すために乙女の船に乗り込んだ。

しかしながら、戦いは彼らの想定外の結末を迎えた。

巨人が一人っきりでいるところに対峙したが、彼らは全員が魔術の餌食となってしまい、牢獄に投げ込まれてしまった。牢の中には高名な騎士らが収監されていたが、その中にはイングランドのアストルフォがいた。

 

かつて言及したように、この貴公子は2人の乙女とともに世を旅していた。バヤールとラビカンを連れて、アリダノが守る魔法の泉でリナルドを失ったことを悲しみながら彼らは進んでいく(21章参照)。

しばしの間さ迷ったあげく、アストルフォたちはリナルドとその仲間たちが後にたどり着いたのと同じ場所にやってきた。そこで乙女の小船にのって川を渡ったアストルフォは、バリサルドの元にやって来ると、リナルドたちと同じように少女の姿に騙されて罠にはめられ、魔法使いによって捕虜にされてしまったのだ(※注 後で判明するが、バリサルドとモノドンテ王はグルで旅人を罠に嵌めてた)

 

そのころ、リナルドやその他の騎士と分かれたオルランドは、フロリマールと一緒にアルブラッカを目指していた。

その道中、彼はブルネロを追いかけているマルフィーザの姿を目にし、これに驚いた。そして2人について考えているうちに、バリサルダの剣と角笛が盗まれてしまっていることに気がついた。

 

オルランドはフロリマールと一緒に、徒歩で盗人を追いかけるが、これは無駄なことだった。2人は追いつけなかったが、マルフィーザはまだ追跡を続けており、2人の戦死も彼らの進んだ方に向けて歩いた。

追い続けていくと、彼らはリナルドが乗ったのと同じ船のある場所に到着した。そこには船に乗った乙女と、馬に乗った乙女が互いに口げんかをしている。

オルランドはすぐに馬に乗った方の乙女が、オルガーニャの庭園の冒険に出かける前、彼からブリリアドロとドゥリンダナを盗んでいったオリジッレであることに気がついた。

彼は怒っていたものの、彼女を目にするとそれも忘れてしまった。それからオルランドは再び彼女を旅の仲間として受け入れ、リナルドたちが挑戦したバリサルドとの戦いに向かう船に乗り込んだ。

このとき、幸運は彼の元にやってこなかった。オルランドは魔法使を使う巨人に打ち負かされると、少し離れた場所にある牢獄に運ぶため、哀れにも捕虜を運搬する船に乗せられたのである。

 

だが、フロリマール(※)が巨人を殺すという大活躍をしたため、オルランドは投獄の憂き目から救われた。

 

(※著者注 ある読者はこのフロリマールの活躍に、多かれ少なかれこの物語全体を貫く明らかな寓話を見出すことができる。この見解は、おそらくオルランドの敗北と、それに続くフロリマールの勝利を説明することができると思われる。オルランドはオリジッレという悪徳に向けた愛情によって、彼自身の性質を損なってしまい、恩寵という名の保護を失った。一方でフロリマールは純粋さと恒久性を象徴しており、地獄の力に対抗することができるのである)

 

2人の戦士は、捕虜を運ぶ船の船長を尋問した。船長が言うには、魔法を使う巨人は、モノドンテ王の家来であるという。このモノドンテは海に浮かぶダモギール(Damogir、発音は適当)という島の王である。そして、この島には、モノドンテによって想像を絶するほどの財産を蓄えているというのだ。

人間の欲望を満足させることはできず、常に何かが不足しているものだ。この王の場合、2人の息子がそれだ。1人目の息子は幼いころ、バルディノという名の奴隷に誘拐されてしまった。2人目もモルガナという名の妖精に連れ去られさられて幽閉されているのだが、彼女はこの若者のことをかなり気に入っているそうだ。

 

さらに船長は以上の話に続いて、妖精は父親に対してとある騎士、オルランドと引き換えに息子を返すと申し出た、ということを話した。というのも、彼女はオルランドが彼女の魔法を破壊したことで彼に敵意を抱いているからである。

フロリマールによって打ち負かされた魔術師は、モノドンテの命令によってやってきた者であり、牢獄を戦士で満たしたものの、結局はオルランドの捕獲には失敗してしまった。なお、彼が捕虜にした戦士の中には、リナルド、アストルフォ、ドゥトン、グリフォン、アクィラント、その他にも多すぎて書ききれないほどの人数がいた。

 

黙って話を聞いたオルランドは、しばし船長と秘密の相談をしたあと、ダモギールに向かって出航するように命じた。船長とフロリマールは船の支配権を握り、オルランドをモノドンテの所まで運ばせるつもりなのである。

船長はオルランドの命令に従い、船は海を渡って問題の島に到着した。

 

ダモギールでは、再び騎士らによる提案がなされ、これはモノドンテに受け入れられた。彼らによって約束が達成されることを待ち望みつつ、モノドンテは彼らを近くにあっ素晴らしい宮殿に宿泊させた。

その宿泊所には悪名高いオリジッレがいた。この女はひそかにオルランドの計画に感づいた。

彼女は(覚えておいででしょうか?)、モノドンテの囚人となっているグリフォンに恋している。そこで彼女はグリフォンを救い出すための方法を考えた上で、秘密裏に王の前までやってくると、彼の王国の中にオルランドがいることを知らせた。

 

彼女の働きに対する報酬として、モノドンテはグリフォンを解放して彼女に引き渡すように命じた。だが、彼は、兄弟のアクィラントも一緒でなければ、自由の身になることを拒否した。そこで2人とも解放され、オリギラとともに出発していった。

 

オルランドを捕虜にすることは、さほど難しいことでなかった。こっそりリキュールに混ぜた薬によって朦朧とし、彼とフロリマールが眠りについたのを見計らい、モノドンテの牢獄に叩き込んでしまったからである。

寂しい牢獄の中で、オルランドはフロリマールにキリスト教徒の洗礼をほどこした。この騎士は友好的で高潔な愛情を持っており、王の看守がオルランドを探しにやってくると、自分こそがオルランドであると嘘の説明をした。そのため、フロリマールの方がモノドンテの方に連行されていった。

 

王は、フロリマールのことをオルランドであると誤認したまま、彼に対して息子のジリアンテの解放を望んでいることを説明した。そして妖精から息子を得るための方法として、気は進まないながらもオルランドの身柄を提供し、王子を交換するという強制された方法以外はないことをも説明した。

フロリマールは言った。

 

「無作法なくもてなしを終わらせたいのならば、私の仲間を牢獄から出して、モルガナのもとに送って欲しい。彼はモルガナの庭園に行ったことがあるから、力ずくで息子さんを取り戻すでしょう。

その一方で、私は人質としてこの場に残りましょう。解放された仲間が1月以内にジリアンテを連れて帰ってこなければ、最悪の場合であっても王は私(王はオルランドを誤信している)をモルガナの復讐のために差し出すことによって、息子さんを取り戻すことができます」

 

モノドンテはこの提案を受け入れ、本物のオルランドは牢から解放された。

 

その代わり、フロリマールはオルランドと偽名を使い、しばらくの間は一般の囚人たちと一緒にすごすことになった。だが、アストルフォの軽率さによって秘密が露見してしまった。モノドンテ王は激怒し、詐欺の罪によって死刑にする前段階として、フロリマールを牢獄に投獄した。

 

2010/08/13

 

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