第4章 オルランドがファレリーナの庭園を崩壊させること

 

 

やがて本を持っていたことを思い出すと、オルランドは本を開き、南のほうに出入り口があることを知った。だが、そこには1本は鉄の、もう1本は炎でできた角を持つ雄牛が門を守っているのだという。

 

さらにその門まで行くまでの間、また別の障害がある。危険がいっぱいの湖を通らねばならないのだ。だが、本にはこれに備える方法が記述されていた。

 

――彼は歩きながら花をあつめた。

――湖にたどり着くまでの間に、

――彼は薔薇を兜と耳に詰めていっぱいにした。

――オルランドは緑の森の小鳥の歌を聞こうとするが、

――くちばしが開き、のどが膨れる様子や

――羽が逆立つ様子は見えるけれど、何も聞こえなかった。

 

オルランドが湖にたどり着くとすぐ、水面がさざなみを立てて湖の中心からセイレーンが姿を現した。

彼女が甘い声で歌いだすと、鳥や獣が歌にひきつけられて水辺に集まってきた。

伯爵は何も聞こえなかったけれど、魔力にやられたふりをして、水辺に倒れこんだ。するとセイレーンはオルランドを殺そうとした。

だが、オルランドはセイレーンの髪を掴みかかる。彼女は唯一の身を守る手段として大声で歌い始めるが、オルランドは彼女の首を切ってしまった。

それから本の指示に従って、彼女の血液を全身に塗りたくる。こうすることで、雄牛の角から体を守ることができるのだ。

そして、兜と耳から薔薇を取り除き、南の門に向かって進んだ。

 

力に対する防御を備えてから、オルランドは湖に向かった。

湖は小さいが深く、水が澄んでいて穏やかだから肉眼で底まで見ることができた。

すると、その場で雄牛がやってきた。オルランドは一撃で牛の鉄の角を折ってしまう。

雄牛にはまだ炎の角が残っているけれど、オルランドにはセイレーンの血液の魔力がある。雄牛の炎の角は、オルランドに対し意味がなかった。

こうして彼は有利に戦いを進め、ついに雄牛を殺してしまった。

だが、雄牛を殺してしまうや否や、牛が守護していた門が消え去ってしまった。城壁に閉ざされてしまったオルランドは、ふたたび監禁されてしまい、逃げ出せない状況にあることに気がついた。

 

再び本を開いたオルランドは、また別に西に向かう川が流れており、その川に沿って進んでいけば馬鹿が魔法を掛けた宝石でできた門があることを知った。

 

さっそく川沿いの道を進んでいると、彼は驚くほど高い木のもとにたどり着いた。再び本を開いて調べてみれば、兜の跳ね飾りをはずし、盾を頭上にかかげて目を守るために使え、という。

盾で身を隠した後、オルランドは視線を地面に向けたまま魔法の木を目指して進んだ。

 

木に近づいていくと、顔は美しい女性で不思議な色の翼を持つハーピィーが、枝から飛び上がると、伯爵の頭の上を飛び回って糞を彼にかけようとした。

だが、幸運にも彼の体は盾によって守られている。が、糞を受けた盾の方はシューシューと油が沸騰するような音を立てて侵食されていた。

ハーピィーの叫び声に悩まされ、オルランドはたびたび視線を上に上げてしまった。それでも木にたどり着くまで目は地面に向け続けていたけれど、ふいに火酒にでも酔っ払ったように倒れこんでしまった。

魔鳥は地面めがけて襲い掛かり、オルランドの胸当てめがけ鉤爪で切りかかり、彼を木の幹まで引きずろうとした。

反撃の機会がやってきたことに気づいた伯爵は、逆手に剣を振るいハーピィーに切りかかった。

 

ハーピィーを殺してしまうと、オルランドは再びアンジェリカからもらった兜の羽飾りを整え、盾を構えなおすと、西門のある塔へ向かう。素材をとっても、細工などをとっても、これ以上に美しいものを見たことはないだろう。

また、いかなる動物でも、ここにいるロバ以上に驚異的なものはいないだろう。ロバは金の鱗で体を保護し、巨大な耳は手の届く範囲にいるものならば掴んで引きずることができるほどである。また、尻尾は鋭い剣のようであり、鳴き声は森を振動させるほど。

金の鱗はいかなる武器も受け付けるものではないが、オルランドの剣だけは例外である。ロバは一撃で首を刎ねられてしまった。

 

この後、驚くべきことが起こった。地面がロバの死体を飲み込んでしまい、門も消えてしまった。こうして、オルランドは再び壁の中に閉じ込められた。

そこで、彼は指示に従って北門を目指すことになった。彼は、強い忍耐力で、指示に従うことにした。

北門に向かう途中、彼は荒野の中にテーブルが広げられているのを見つけた。食べ物に誘惑されるオルランドだが、本によってそれは危険であると知らされていたので、これを我慢した。

 

本によればフォーン(※注 ギリシア神話に登場する半人半獣の怪物。上半身が人間の男で、下半身が鹿。原典では平和主義者らしい。本作ではわりと粗暴で、代名詞に「she」が使われているのでメスみたい)が近くの薔薇の花とイバラの中に鎖を手に隠れており、ご馳走を食べた人間は誰でも捕まえてしまうのだ。

だが、オルランドがフォーンを狩り出そうとやってくると、彼女は蛇でできた尻尾を引きずって逃げ出し、身を隠した。その尻尾は醜いものであったが、これと真逆なことに彼女の顔はとても愛らしい。

追いつかれたフォーンは、防御の暇もなく一撃で殺されてしまった。

 

それから北門にたどり着いた伯爵は、門を守る巨人がいることに気がついた。

オルランドはしばしば巨人を対戦相手としてきたけれど、戦闘に向かう前の時点で特に作戦など考えることはなかった。実際に彼の考えのとおりにことが運び、敵を殺してしまっていたからである。

だが、今回はそうではなくて大変な労働の始まりであった。殺したはずの巨人から飛び散った血は火のようであり、また最初の巨人の傷口から別により強い2人の巨人が出てきたからだ。

溢れる血からさらに敵が生み出されるのを目にしたオルランドは、戦い方を変更し、巨人の1人と組み打ちで戦おうとするが、もう片方の敵が彼を捻り殺そうと襲い掛かる。

彼は巨人を倒してしまう前に組み打ちを中断せざるを得ず、ついには巨人たちを分断させる必要があることに気がついた。

 

そこで彼は逃げる振りをして巨人を分断させようとしたけれど、巨人はオルランドを追いかけようとせず、魔法の門を守るために持ち場に戻ってしまった。

各個撃破が失敗したことにがっかりしたけれど、オルランドの作戦は新たな彼に有利をもたらした。門から離れた彼は、ファーンを殺したときに地面に転がったままの鎖を発見したのだ。

鎖を持って門に戻ると、彼は巨人に向けて罠を仕掛け、ふたたび今後の進路について知るために本を開いた。

 

本は、アンジェリカから課された冒険である庭園を完全に破壊する方法は、妖精が作り上げた運命を内包するあの太い木の枝を引き裂くことによってのみ達成できるということを彼に知らしめた。

教えられた法則にしたがって、彼は広々した谷を通って城のほうへ向かった。そしてブナの木に縛り付けられたままのファレリーナのところを通り過ぎる。

すぐに彼は弱点となる木が、果てしなく高いけれど、幹の底の部分でさえせいぜい手のひらで包めるほどしかなかいことに気がついた。

 

――枝や小枝に近いところはより細く、

――緑の葉と狭いところに茂っている。

――枯れてはまた新しく茂る葉っぱは、

――棘が見えないように包み隠す。

――枝に実る金のリンゴが枝に実っている。

――リンゴは金色に輝いているが、

――これが細枝についていることを良く考えなかった者は、

――その元に近寄ることで命を危うくしたのだった。

 

後に我々が聞くところでは、リンゴは人間の頭ほどの大きさがあったというが、安全にことを運ぶため、オルランドはそこらの木々の大枝を使って梯子のようなものを作り上げた。はしごを使って問題の木に上ると、小枝の中のリンゴは彼の足元の地面が振動することによってほぐれ、地面に落ちた。

リンゴを手に取り、彼が付け根の枝を取り除くと、突然にあたりが闇に包まれた。

 

雲はどこかに消え去ってしまい、太陽の光は荒れた庭にさす。もはや庭園の痕跡はなくなってしまい、冒険のあともたどれなくなってしまった。ただ妖精・ファレリーナが荒野の真ん中にあるブナの木に縛り付けられているだけである。

 

彼女はガラリと態度を変えると、オルランドに慈悲を乞い、その他多くのものの命が彼女の生死に関わっていることを説明した。

そして、彼女はアリアンテという名の騎士に復讐するために庭園を造り、また近くの激流の川に掛けられた橋に罠を仕掛けたことを説明した。さらにこれまで多くの者を罠にはめてきた悪名高きオリジッレという女が逃げてしまったことも説明した。

 

さらに妖精はこう言って続けた。

「多くの人たちが私の庭園で罠に掛けられましたが、橋ではさらに多くの人間を罠に掛けました。

ここである魔女を、ガラフロン王の娘を捕まえたのですけれど、彼女はなにか秘術を使って逃げてしまいました。ついでに、彼女は知り合いの囚人も逃がしてしまいました。

ですが、ほとんどの囚人は捕らえられたままです。私を殺してしまうなら、囚人たちも早晩、死ぬことになりますよ」

 

オルランドはすぐに彼女の命をとらないことを約束し、彼女に囚人たちを解放することを誓わせた。

 

こうして、彼らは一緒に橋の方に向かった。だが、著者はこの話をここまでとして、アルブラッカの物語をしなければならない。

 

2010/07/31

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