12章 アンジェリカとフランスへ

 

 

 

アルブラッカの手前までやってきたオルランドは、街がひどい包囲攻撃を受けている様子を目にした。

それでも要塞までたどり着いたオルランドは、アンジェリカに対してアルブラッカを旅立ってから、シャルルマーニュの援軍に向かうリナルドやアストルフォ、その他の者と分かれたところまでの出来事を説明した。

これに対し、アンジェリカの方は守備兵が苦戦していることと、包囲軍の兵力について説明をした。説明を終えると、彼女はこの危険な場所から脱出させ、フランスまで案内をしてくれないか、とオルランドに頼み込んだ。

先にフランスに帰ったリナルドに対して彼女が恋をしているという動機の点には思いもよらないオルランドは、喜んで申し出を受け入れ、彼女を求めての遠征が解決したのだと思い込んだ。

 

明りを灯したままに要塞を後にすると、彼らは夕暮れの中を出発することで安全に敵軍の野営地を通り抜けた。

その翌日になると敵軍は騙されたことに気がつき、要塞の中を荒らしたり略奪したりし、それから逃亡者を追跡した。

 

逃亡の一行は、オルランドを先頭にしてアンジェリカとフロリドリを先導し、最後尾をフロリマールが守る形で進むことになった。

ある夜のこと、この取り決めの結果としてフロリマールが仲間たちをはぐれてしまい、オルランドと2人の乙女たちだけが先に進んでしまった。

 

やがて飢えに苦しむようになったオルランドたちは、日の沈む谷に入り込んだ。谷の反対側にはライストリュゴン人(※注  ギリシア神話に登場する人食い民族)の集団が夕食の席についているのを目にした一行は、すぐさま馬を駆ってライストリュゴン人の方に向かった。

オルランドが先頭で、次に乙女たちが彼に続く。人食い人種たちの居場所にたどり着くと、オルランドは礼儀正しく行動し、対価を払うかわりに、食べ物をくれるように懇願した。

人食いたちが見せ掛けだけの親切な態度をすると、オルランドらは食べ物や飲み物を受け取るために馬から降りてしまった。すると、部族の長はオルランドの背後に回りこむと、棍棒での一撃を加えてオルランドを失神させてしまった。

ちょうど遅れてやってきた乙女たちはこの恐ろしい光景に驚愕し、ライシュトリュゴン人に追いかけられながらもそれぞれ別の方角に逃げ出した。

 

この間、場に残ったライストリュゴン人は、オルランドが太っているかを確認するために鎧を剥ぎ取っていた。

鎧を脱がされる感触で意識を取り戻したオルランドはドゥリンダナを手に取ると、すぐさま辺りにいた人食い人種を片付けてしまい、谷の外に乙女たちを探しに出ると、人食いに追いかけられているアンジェリカを発見した。

彼女を救い、かつ彼女のために復讐をするという仕事は、ほんの短時間で終わった。

 

逃げ出す途中で2人の乙女は別々の方向に進んで分かれてしまったけれど、偶然にも乙女はもともとの保護者の場所に向かっていた。アンジェリカが西に向かうところを、東に向かったフロリドリであったが、彼女は森の中に馬を進めた。その森では長い時間仲間たちを探し回っていたフロリマールが眠っていたのである。

こうして、オルランドがアンジェリカを救い出したのと同様に、フロリマールがフロリドリを助け出していたのである。

フロリマールの戦いぶりについて、いちいち記述することはしないけれど、これもほんの短時間で決着がついた。

それから、オルランドが殺されたと信じ込んでしまったフロリドリの口から、事情を説明されたフロリマールは、とても悲しい気持ちになった。

 

彼女はフロリマールを連れて、伯爵を置き去りにした場所に戻ろうとするが、また別の冒険が間に入ったことによってその場にたどり着くにはかなりの時間が掛かることになったのである。

馬に乗って少しだけ進むと、フロリマールとフロリドリは徒歩で鎧は身につけないが、剣だけを携帯する騎士に出会った。この騎士はフロリマールに戦いを挑んだところ、彼は寛大な精神でこの挑戦を拒んだ。すると、騎士は婦人用の小馬にのったフロリドリを無理に強奪し、彼女という重荷を持ちながらも険しい崖を昇り、もしフロリマールが彼女を取り返したいのなら、馬と鎧を寄越せ、と脅迫した。

 

フロリマールが鎧を渡さなければ、先に進むことはできなくなるため、彼は代償を支払うことに同意した。すると、この異邦人は略奪品を受け取った。

この異邦人こそマルフィーザである。彼女はブルネロを追いかけるために鎧を投げ捨てていたのだが、もはやブルネロを見つけることはできないと判断すると、新たな武具を調達しようとしていたのである。

 

荷物を減らし、馬も奪われたフロリマールは、フロリドリの乗っていた婦人用の小馬に2人乗りして旅を続けることになった。

 

だが、彼らはさらなる困難と妨害にあう運命なのであった。

旅を続けていくと、彼らは盗賊の集団に出くわしてしまった。フロリマールは、なにか身を守る手段はないものかと考えながら逃げ出した。

彼の思いはうまく行った。森の中を通ったフロリマールは、泉のそばに全身を鎧で覆った死体を発見したのだ。

剣を取ってうなり声のするほうに振り向いたフロリマールはすぐさま追っ手に対してその厚かましさを後悔させたのである。

敵が殺されるか、さもなくば逃げ出してしまうと、フロリマールは気が進まないながらも、王の死体から冠と紋章を除いて鎧を剥ぎ取った。

この王というのは、奇跡によって遺体が保存されていたアグリカンに他ならない。

 

盗賊の隊長との戦いのあと、騎士は馬に乗って再び武装をし、フロリドリとともにオルランドを探しに出かけた。

 

 

 

2010/09/02

 

back/next

top

inserted by FC2 system