第11章 ナルキッソスの泉

 

 

ここで著者は再びルッジェーロをカレナ山にとどめ、オルランドとフロリマールについて語ることにしよう。

リナルドやアストルフォ、その他の騎士と別れたオルランドたちは、インドに向けて旅をしていた。彼らが泉のそばにある岩のある場所にやってくると、そこには地面を見つめる淑女がいた。一方、2本の道を分ける橋には、武装した騎士が守っている。

 

オルランドとフロリマールが親しく議論を交わしていると、1人の巡礼者がやってきた。この巡礼は、通せんぼされているのにもかかわらず、橋の方に向かって進む。騎士が巡礼を脅かそうと歩み寄ってくることに気がつくと、巡礼は上着を脱ぎ捨てて、全身を覆う鎧を見せた。

巡礼と橋の守護者との間で激しい戦いが始まった。観戦するオルランドとフロリマールは、巡礼をどこかで見たことがあるような気がしたけれど、奇妙な服装をしていたために誰だか見分けることはできなかった。

この戦いは、ついに巡礼が守護者を撤退させることに成功し、守護者はゆっくりと居場所をしりぞいた。

 

 ここで、泣いていた乙女がオルランドたちの方にやってくると、以下のように語った。

橋の向こう側では川の水が泉に流れ込んでおり、その泉の近くには石碑が建てられている。石碑には、ここはナルキッソス(※注 モトネタはギリシア神話。ナルシストの語源)の墓である旨が刻まれている。

 

そばの泉を見つめるナルキッソスはやつれ果てて死んでしまい、これが新たな災難を引き起こしたのである。

悲しき運命を持つ妖精・シルバネラ(※注  Silvanella、発音は適当)はナルキッソスの死体のそばを通りがかったとき、若者の死体を愛してしまい、彼をこの地に大理石の墓碑を立てて埋葬したのである。

また、見込みのないことに情熱を使い果たし、彼女自身も死んでしまうのだが、川に最後の呪いを残していったのである。川を覗き込んだものはそこに美しい幻影を目にしてしまい、もう川から離れることができなくなるのである。

 

川岸にたどり着いた者たちの多くは、彼女の呪いのために息絶えるまで川の流れを見つめ続けてしまうのであった。

その中には礼儀正しいラービホ王(※注 king Larbiho、発音は適当)もいた。彼は愛人のカリドラ(※注 Calidora、発音は適当)とともにここにやってきたけれど、この地で死んだ。カリドラは愛人の死という悲しみに沈み、彼の死んだ草地のすぐ近くに住み着いた。

さきほど、水辺の岩のところで座り込んで泣いていたのはこのカリドラである。そして、ここにやってくる者から橋を守っていた戦士は彼女の指示を受けて入る者だったのである。

 

彼女は以上のことをオルランドに説明し、慈悲の心からここを通る旅人を通せんぼする彼女の騎士に助太刀してくれないかと頼み込んだ。

 

乙女の懇願に心を動かされたオルランドは、交戦中の戦士の間に割り込んだ。オルランドが戦士を分かれさせてみると、1人がサクリパンで、もう1人がイロリエロ(※注 Isoliero、発音は適当)であることに気がついた。

イロリエロは乙女に仕える目的のため、スペインからインドまで同行してきた男である。

一方のサクリパンは(すでに説明したように)、アンジェリカによって援軍を求めるためにグラダッソ王の国に派遣されている途中であった。

 

オルランドはチェルケス王の旅の目的を聞き、アンジェリカの苦境を知ると、フロリマールとともに危険な川を避けて進んだ。ただし、この地で命を落とした人々の運命を心に刻み付けてることにした。

イソリエロはサクリパンによって重傷を負わされていたが、カリドラとともにこの地に留まった。

 

こうしてオルランドはアルブラッカに向かい、サクリパンは巡礼の衣装と杖を拾い上げると、グラダッソの王国を目指した。

 

 

2010/8/25

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