17章 オルランドが3度角笛を吹くこと
さて、オルランドがフロリマールを探していると、森の中から婦人用の小馬に乗った乙女がやってきた。彼女は、本と角笛を携えている。
伯爵(オルランドのこと)に挨拶をすると、彼女は「もし貴方がその顔に相応しい方ならば、騎士に相応しい素晴らしい冒険が貴方を待っています。
ですが、これまでにこの冒険を試みた者でこれをやり遂げたものはおらず、いずれも魔法の庭園の囚人になってしまいました」
乙女はこのように言って、冒険をするに相応しい勇気があるか試すような風にオルランドを勧誘した。
オルランドは喜んでこの提案を受け入れた。
すると、乙女は持参した本と角笛を彼に見せた。これらは冒険をするために欠くことができないものであり、これらの使い方を説明すると、乙女はオルランドから距離をとる。
オルランドはこの乙女に従い、最初に出会ったほうの乙女を自分の後ろに控えさせた上で、角笛を鳴らした。
すると岩が割れ、猛々しい雄牛が2匹飛び出してきた。この雄牛の角は鉄、体毛は自然に得られるものとかけ離れており、色が変化する。あるときは緑色に、黒、白、黄、赤、また輝きを放つこともあった。
本を読んだオルランドは、先に進むためにはこの獣たちを捕獲し、それができたなら空き地に行き、獣たちが勇んで駆け込んでくるので、土地を耕さなければならないこと、これが彼にとって最初の仕事であることを知った。
さて、雄牛たちはオルランドと長く激しい戦いを繰り広げ、たびたびオルランドを投げ飛ばしたけれど、角で突き刺すことはできなかった。
オルランドは幾度もドゥリンダナで斬りかかっているうちに、ついに雄牛たちは疲れ果ててしまった。もっとも、雄牛の皮膚はオルランドのそれと同様、傷つけることはできなかったのだが。
やがてオルランドは、それぞれの牛の角を握り締めて捕獲すると、別々にバヤールの鞍と結びつけた。
隣の柱は、ババルド王(king Bavardo、発音は適当)の記念碑があった。
オルランドはドゥリンダナの柄を持ち手にして鍬のように使い、牛をくくり付け、鞭を使って木から引き剥がすと、指示通り土地を耕し始めた。
仕事が終了すると、オルランドは牛たちを森に放す。牛たちはうなり声を上げて、山にある森の中に消えていった。
オルランドは、第一の仕事の成功を神に感謝した。
花輪を頭に載せていた「本と角笛の乙女」は、婦人用の小馬から降りて草地に立った。
長く休憩するつもりのなかったオルランドは、第二の挑戦をするために魔法の角笛を鳴らした。
角笛の音によって大地は震え、近くの丘から炎が吐き出された。その炎に続いて、火竜が姿を見せた。
『黄金のリンゴの乙女』は逃げようとしたが、『本と角笛の乙女』がこう言った。
「怖がることはないから、信じてここにいなさい。
冒険をするにふさわしいことを証明しなければならない彼以外は、何も危険はないから」
『黄金のリンゴの乙女』は、森やらを通る旅の途中でオルランドが冷淡であったことに憤慨していたため、彼だけが危険な状況にある様子を見て喜んだ。そのため、オルランドに何か危険が迫っていると知っても、特に心配することはなかった。
「より役に立たない人間は、ここにいてはいけないわ」
この非難の言葉は、本を使うことによってオルランドの耳まで届くことになった。
道案内の乙女は、竜が口から吐く炎と毒で殺される前に、竜の首を切り飛ばすことが唯一オルランドが助かるための方法であることを告げた。
そして竜の首をはねた後、イアソン(※注 ギリシア神話。竜の歯の戦士のエピソードを参照)がしたように竜の歯を地面に蒔かなければならないならないのだ。すると竜の歯がタネとなって、武装した兵士が地面から出てくる。もし、この戦士たちの剣からその身を守りきることができる者がいれば、その者は騎士道の華と呼ばれるに相応しいだろう。
充分な知識がないまま、竜と彼は戦いを始めた。
オルランドは立てを使って竜の攻撃を防ぐ。しかし、彼の鎧は竜の炎を浴びて溶かされてしまった。
煙と炎に包まれながら怪物と長時間の戦い続けたが、ついにオルランドは竜の首を刎ね飛ばした。
すぐに竜の歯をむしり取ったオルランドは、これを兜に詰め込んだあと、本に従ってこれを植える。すると、本で読んだとおりの出来事が起きた。
――まず、地面から羽飾りが生えてくると、
――少しずつ兜の頭頂部が出てくる。
――次に、男の胸部が現れてきて来るのだが、
――その広い胸からはたくましい四肢が伸びている。
――前方には歩兵たち、後方には騎兵らが現れ、
――戦士たちは叫び声をあげるが、槍は地面に置かれている。
――ドラムとトランペットが鬨の声をあげると、
――槍を構えて、盾を持ち上げた。
すでに盾も鎧も失ったオルランドは、ドゥリンダナだけでこの蒔かれた戦士たちを収穫しなければならなかった。結局、竜の歯から生まれた戦士たちは、その日のうちに全滅したのである。
(※注 オルランドは力づくで竜の歯の戦士を倒しましたが、原作のギリシア神話では、イアソン知恵を使って倒してます)
勝利したオルランドは、第三の、そして最後の冒険をしようと角笛を吹いた。
ここで、著者は少し前置きをしてみようと思う。
――魔法によって作られた竜たちや庭園、
――犬や魔法使いの書いた本、
――毛むくじゃらの蛮人や獰猛な巨人、
――恐怖にゆがむ人の表情などは、、
――無知な人たちのための食べ物である。
――これらを充分に解析すれば、
――より鋭い機知を得ることができるだろう。
――こう言った事柄は、珍しくかつ素晴らしいものだ。
――味や匂いが豊かであっても乏しくても、
――だらしなく管理していいものではないのだ。
――汚らしい豚に真珠を投げる人はいないだろうから。
――素晴らしい恋人である大自然は、
――柵に巻きついた花を愛する者たちに素晴らしいやり方を教えてくれる。
――また自然はこの世に果実を実らせて、
――種を実で、木を皮で包み込む。
――黄金は地中に隠されているために、
――鳥や獣、嵐から保護されている。
――地中の宝石はその色合いによって希少性が変わるが、
――これらを得るために人は並々ならぬ労力を使う。
――だが、これらを集めて富を見せ付けようとするなんて、
――無駄で愚かなことである。
――もしも充分な財産を持っているなら、
――ごろつき、泥棒、ペテン師を呼び寄せることになる。
――さらにこの上ない愚かさは、悪魔をも呼び寄せる。
――利益というものは、苦労と面倒ごとを
――と一緒になって来るもののように思われる。
――利益だけを得るのは信義に反し、
――道義的にも思索の上でもありえないことだ。
――見たところ、芸術と労働は
――その援助なくして味付けをするようだ。
――自然が生み出す単純な食材は、
――より甘く、より風味のよい物へと変化させるのだ。
――ホメロスの『オデュッセイア』は虚偽の伝説に基づいているとすれば、
――そんな偽りの物語は信用できるものではない。
――神々や女神たちが傷つくさまを読んで、
――愚かな者は好奇心を満たすようなこともしてはならない。
――賢者の秘密にしている事柄は、
――知ってのとおり、詩人が賢者のために執筆したものだ。
――偽りの事柄に覆いを掛けてあるけれど、
――これを明らかにするのだ。
――上っ面だけ見て満足するようなことではいけない。
――中身を見るようにする必要がある。
――もしそれ以上に糧となるものを得ることができないなら、
――原罪に対しほんの少しの進歩をすることしかできない。
――こういった不思議で悪しき予言を見ていると、
――よくない者は夢や寓話だと思い込む。
――もっと建設的なやり方として、隠された真実を求め、
――宝物となる確固とした真理を明らかにするのだ。
さて、物語に戻ることにしよう。オルランドは、三度目の角笛を鳴らす。
音の響きが消えていくと、白い雌の猟犬があわられたが、彼はこれにがっかりとした。
いまにも立ち去ろうとする伯爵に対し、本の乙女の方は彼をとどまらせようと、彼の労苦は冠を送られるに値すると請け負った。
彼女がオルランドに説明したところによれば、近所の島の湖に、ファタ・モルガナの住処があるという。彼女は神から富を与えられているという。
――その山の奥深くには、
――人々の長く苦しい労苦によって作られた、
――泉や川などが隠されています。
――まるで、インドで蟻が黄金の鉱脈を掘り進むみたいに。
――私の話すことはいかにも不思議に思えるでしょうが、
――2匹の美しい魚は穀物を餌にしており、
――よきモルガナはこの白い猟犬を遣わしましたが
――あなたに財宝と満足を与えるつもりなのです。
――素晴らしき妖精は誇るべき財宝を所有していて、
――婦人は海と大地のすべてを包み込む魔力で、
――魔法の雌鹿を飼っています。
――この雌鹿は白く、黄金の角を持っていますが、
――あちこち動き回って手がかりがないため、
――長いこと森で捕まったことはないのです。
――そのため、雌鹿を狙う狩人は失敗ばかりですが、
――あなたはこの猟犬を使って雌鹿を捕まえられるかもしれません。
――この猟犬はすぐに吠え声をたてて、
――雌鹿の隠れ家から彼女を追いたてるでしょう。
――あなたは雌鹿を、木立や砂漠などで徹底的に追いかけるでしょう
――猟犬と雄鹿は矢より速く走る。
――6日の間、1組を追いかけて、
――7日目には追跡を中止してください。
――そうしなければ、ミルク色の雌鹿が汚れてしまうから。
――鮮やかな毛色をしている6日、
――雌鹿は100の重さの黄金の角を捨てていきます。
――あなたはこの宝物を拾わなければなりません。
――人として相応しくない行動かもしれないけれど。
――三度目の試練をやり遂げれば、喜びとともに富がもたらされます。
――もしかすると、幸運な運命なのかもしれません。
――雌鹿を捕まえると上述のものを得られるのです。
――この貴重なものは、美しき妖精の愛なのです。
だが、オルランドはこの誘いに軽蔑の態度をしめした。
オルランドは、本と角笛の乙女を置き去りに、しぶしぶ「黄金のリンゴの乙女」を鞍の後ろに座らせて出発した。