15章 「黄金のリンゴの乙女」の物語

 

 

話を聞いたオルランドと慈悲深い乙女は、フロリマールの悲しみに同情する。

だが、乙女は、少なくとも彼だけが不幸であったわけではないことを証明するため、自分自身に起きた冒険について語り始めた。

 

彼女は遠く離れた島の王の娘であり、島にはこの地上のすべての宝物が蓄えられていた。

生まれ持っての美しさと、大金持ちの家に生まれた運命に恵まれた彼女の元に、オードロ(Ordauro、発音は適当)とフォルデリコ(Folderico、発音は適当)という2人が求婚しにやってきた。

求婚者のうち、1人はハンサムで、もう1人は70歳過ぎの老人だった。

まず、男たちの能力が審査され、次に財力が審査された。

乙女の父親はフォルデリコを気に入ったが、乙女の方はオードロの方と結婚するために策略をめぐらせた。

彼女は君主の娘であったので、誰であれ徒競走で彼女に勝ったものでなければ、彼女を妻にすることはできないという決まりを作らせた。

これによって、彼女はうまくいった、と思い込んだ。だが、フォルデリコは彼女の策略の裏を突いたのだ。

彼女と一緒にコースに入ったとき、フォルデリコは3つの黄金のリンゴを落とすことで乗り切ろうとした。つまり、乙女はアタランテと同じ方法によって敗北してしまったのだ(モトネタはギリシア神話。アタランテの話を参照。女の方が足が速いのだけど、男の落としたリンゴを拾っているうちに、男の方が先にゴールするという話)。

こうして、老人の方が彼女を妻にすることができた。だが、妻の方は権力を使って復讐をたくらんだ。

 

ここまで自分の生涯を話したところで、乙女はフロリマールがろくに話を聞いていないことに気がついた。

もうろうとしたフロリマールは目も耳も働いておらず、フロリドリのこと以外を考えてはいない。

彼が正気を取り戻すためには、再びフロリドリを目の前に連れてこなければならないような状況である。

バヤールに乗ったオルランドは、自分の馬であるブリリアドロをフロリマールに渡そうとしたが、結局諦めた。

そこでオルランドと乙女は、フロリドリの捜索に協力することを申し出す。こうしてやる気を出したフロリマールらは、すぐに捜索に出発した。

 

そのころ、フロリドリは隠者によって洞窟に運び込まれていた。

洞窟内で彼女が目覚めた瞬間、洞窟を住処としていたライオン(※注 ライオンって、草原の動物で洞窟に住むのだろうか……。どうも竜かなんかと勘違いしてるきがするが)が、侵入者をやっつけようと飛び出してきた。

隠者はすぐさま乙女を取り落とし、攻撃をかわした。

だが、獣は差し出された餌を見逃すようなことはせず、乙女を投げ出した隠者を追いかけ、引き裂いて細切れにしてしまった。

 

そして、フロリドリはこの隙に逃げ出してしまった。

といっても、これは迫り来る不運を少し先延ばしにするだけに過ぎない。

行き当たりばったりに逃げ回る彼女は、森の中で毛深い野蛮人に捕まってしまい、小枝を使って木に縛り付けられてしまった。

無遠慮に彼女を眺める野蛮人であったが、少しの距離を置いて寝転がった。

 

一方、彼女を探すフロリマールは、オルランドと「黄金のリンゴの乙女」とともに、森の中にやってきた。

このとき、乙女はフロリマールの馬に乗り、フロリマールはブリリアドロ、オルランドはバヤールに乗っていた。

オルランドが、乙女に対して物語の続きをしてくれるように頼み込んだので、彼女は話を続けた。

 

乙女を妻としたフォルデリコは、彼女を自分の所有する海岸の塔に連れ込んだ。

この海岸はアルタムーラ(※注 Altamura、イタリアのプッシャ州パーリ県の町)と呼ばれる地域にあり、彼女はここに宝物と一緒に鍵をかけて人目から隔離されてしまった。

 

※注 著者は、この物語のはじめにギリシアの寓話を取り入れているが、冒険以降の部分はノルマンの古いファブリオ、風刺詩を取り込んでいる。東方起源であるとも見られる

 

だが、愛はどうするのか?

オードロもフォルデリコほどではないが資産家であり、アルタムーラのそばに高価な宮殿を購入していたので、莫大な金を使って囚われの乙女の所に続く地下道を作らせた。

こうして、オードロは危険なしで乙女の元を訪ねたり、情を交わしたりしたのである。

だが、このように制限つきの交際にうんざりした恋人たちは、成功に気分を良くし、脱出のために必死の努力をすることにした。

 

計画に基づき、オードロはフォルデリコに対し、自分がモンテファルコーネに住むある女性と結婚する予定であることを知らせた。

つまり、ディスタント・アイルズの王と呼ばれている者として、義理の兄弟として結婚式に招待したのである。

フォルデリコはしっかりと塔の門を閉めきって、式場にやってきた。彼は自分の妻が花嫁姿でいるのを見ると、恐ろしい目つきで彼女につかみかかって服を剥ぎ取ろうとした。

オードロは困難なことであったが、自分の妻となる人物が黄金のリンゴの乙女の双子の姉妹であるため、彼女にそっくりであるということを、説明し、納得させた。

そして、フォルデリコに対し、塔に戻って事実を確認するように言ったのである。

これは証明の方法としてうまいやり方であると思われ、フォルデリコはこれを受け入れる。

彼は鍵の掛かったままの塔に帰ると、憂鬱そうな妻が1人きりでいることを確認した。もっとも、彼女は彼より先に秘密の地下道を通って帰還したうえ、着替えをしていたのである。

彼はいくぶん回り道をしたものの、再びオードロの城に行き、輝くような花嫁姿としている彼女がいることも確認した。

もはや彼は、自分が確認した2人の女性は別人であることを疑おうとはしなかった。

疑念を失ったフォルデリコは、花婿と花嫁が向かおうとしていたオードロの故郷に送迎しようとすら言い出したのである。

 

この計画には、以下のような利点があった。フォルデリコがすぐに戸締りのされた塔に向かわなかったなら、時間を稼ぐことができ、結果的に恋人同士がこっそりと駆け落ちしても、彼は妻が消えたことにすぐ気がつかないことになるだろう。

一行は、一緒に出発をした。そして、1日の移動のあと、フォルデリコはようやく馬を駆って自分の塔に到着させた。

ようやく、自分の不名誉に気がついた彼は激怒し、恋敵の追跡を開始した。

もっとも、オードロをその支援者を分断させるまでの間、彼は妻を取り戻すための試みをしようとはしなかった。

 

戦略に基づいて、フォルデリコはオードロの家臣たちを攻撃し、妻を取り戻す。

オードロはほんの短い時間しか彼女を得ることができなかった。帰り道、巨人たちに襲われてしまい、彼女と所持していたすべての財産を奪われた。この財産は、新しい夫のための持参金として夫人が持ち出したものであった。

そして、オードロ自身も逃げ去った。

 

オルランドは好奇心からこの物語を聞いていたが、フロリマールはフロリドリのことしか考えておらず、彼女の捜索をするために仲間たちと別れ別れになってしまった。

 

2010/07/11

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