14章 フロリマールの慟哭
だが、ここに新たに思いもよらぬ危険が迫っていたのだ。
互いに抱擁する彼らは、不運にも隠者によって目撃されてしまったのだ。
この隠者は魔術を使うことができるのであるが、彼はフロリドリの美しさに興奮し、彼女を自分のものにしようと決意した。
誰にも知られていないことだが、隠者は対象とする人間を遠くに飛ばしてしまう能力を有していた。
もっとも、そのためには対象となる人間は深く眠っていなければならず、素肌の部分に隠者が手を触れる必要があった。
武装すると、隠者はフロリドリに近寄って、彼女の上着を持ち上げると彼女に魔法をかけようとした。
隠者は、自然の眠りについている彼女を見ると、あと1時間は目を覚ますことはないだろうと考えた。
隠者は魔術を使っている間にフロリマールが目を覚ましはしないかと怯えながら、彼を起こさないように魔術を使い、彼女を持ち上げ、さらってしまった。
フロリマールはぐっすりと眠り込んでいたが、轟音がしたので目を覚ました。
目覚めてすぐに、彼はフロリドリの姿が消えていることに気がついた。
筆舌に尽くしがたい悲しみに襲われて恋人が消えたことを泣き悲しんでいるうちに、轟音が鳴ってから15分ほどが過ぎてしまった。
フロリマールは、3人の巨人たちが列になって進むラクダを率いているのを発見した。
巨人のうち2人は列の後ろ、そして1人が縄を引いてラクダを動かす。
そんなラクダの背には乱れ髪で、辛そうに泣いている1人の乙女が乗っていた。
フロリマールは、この乙女こそフロリドリに違いないと思い込むと、激昂しつつ馬を駆る。
すぐに巨人たちも彼と戦う準備を済ませ、戦いが始まった。
フロリマールはかなり危ない目に合い、馬を失ってしまう。
このとき、アグリカンを倒したばかりのオルランドが救援に駆けつけた。
フロリマールは巨人を1人殺し、形勢は互角なったけれど、彼はまた別の巨人に殴られて倒れこんだ。
オルランドはフロリマールを倒した巨人に復讐し、さらに巨人すべてを倒しつくした。
ようやく怪我をした友人を見舞う余裕が出たオルランドは、フロリマールが瀕死の状態であることに気がついた。
そこで彼は助け出した乙女にフロリマールを引き渡し、薬剤を用いて適切な治療をしてもらった。
このころ、マルフィーザとリナルドは彼らの敵軍たるガラフロン王たちを掃討している最中であったが、ついにガラフロン王らはアルブラッカの砦に避難してしまった。
城門まで彼らを追い掛け回したマルフィーザは、仕返しとばかりにガラフロン王を脅かした。
実際のところ、これにはマルフィーザとリナルドに共通の原因がある。
マルフィーザはこのために自分の上官と争うことになり、憎しみの泉の水を飲んだリナルドはアンジェリカの敵となった。そして彼はラビカンを得るために、ある女性の庇護者としてチュッフラディノ王に復讐をする義務があったのである(9章参照)。
砦の前に座り込んだ彼らであったが、その2日目、リナルドは城門の前で角笛を吹き、バラダッカ王チュッフラディノを裏切り者の背信者の暴君だと罵った。
このとき、砦の中にはサクリパンやトリンド(Torindo、発音は適当)から守ることを誓った多くのの戦士たちが存在していた。この者らはすべての事柄に反抗したので、すでに投獄されていた。
チュッフラディノ王は戦士らに契約を果たすように求めたところ、幾人かの騎士が裏切りの王を中心に添えて、リナルドと戦うために砦から出てきた。
こうして出てきたのは、グリフォンとアキュラント(Aquliant、発音は適当)の兄弟であり、魔法の馬と魔法の鎧を身につけている。さらにウベルトとエイドリアン、クラリオンも砦から出てきた騎士である。
彼らは1人づつ、連続してリナルドに攻撃を仕掛けてきた。
リナルドは、最初にやってきた2人を打ち負かしたが、彼はグリフォンの持っていた武器が自分に相応しい一品であることに気がついた。
それから、リナルドは長くてなかなか決着のつかない戦いを続けたが、ガラフロン王と交渉し、話し合おうと試みた。
この話はここまでとして、著者はフロリマールについて語らなければならない。
フロリマールとオルランドの活躍によって巨人から救い出した乙女の治療によって生きながらえたフロリマールは、必死にフロリドリを探していたが、このとき助けた乙女はフロリドリではなかった。
死のふちから助かってから1時間の間、彼は自分が生まれてきたこやこれまでの人生を振り返り、以下のように罵った。
――「神は天から、私の幸運を奪い去った。
――すばやい一撃は、私に死ぬほどの苦痛を与えたのだ。
――こうして高貴な生まれの屋敷を奪われてしまい、
――地上で奴隷として売られてしまったのだ。
――もう、異国の地で長くさまよってきているが、
――彼女を思い出すと胸が切り裂かれるようだ。
――すでに父と故郷の名前すら忘れてしまい、
――母も私の記憶の中にしかない。
――「私が経験した以上に邪悪な運命はないだろう、
――幼いころからシウヴァン・タワーの領主に、
――私は奴隷として売り飛ばされた。
――苦しみを7倍にすることであるが、
――不誠実な力によって、つかの間の幸せがあった。
――そして、素晴らしきシルヴァン・タワーの領主は、
――私を自由の身にし、相続人がいなかったため、
――彼の持つ広大な領土と財産は私のものになった。
――「だが、運命は私を餌食に選び、
――杯を苦き悲痛でいっぱいにすると、
――美女の中の美女たる乙女を与えた。
――運命は、しぶしぶ彼女を選び出したのだ、
――単に貴重な楽しみを得るために。
――私は一撃を受けることを選択することができるだろうか?
――あぁ、私がなんとか息を吹き返したけれど、
――貴方のすべきことは私を再び殺すことなのだ」
2010/07/11