12章 リナルドは女武者と邂逅し、オルランドがタタール王と決着をつけること
それからリナルドたちが少し先に進むと、彼らは木の下で1人の戦士にであった。この戦士は乙女であり、馬に乗っている。
フロリドリは、その戦士がマルフィーザであることに気がついた。マルフィーザは、特にフロリドリに対して、この場から逃げるように助言した。
だが、リナルドはこの警告を嘲笑すると、女武者のマルフィーザに対して大胆な口調で返答した。
すでに騎乗していたマルフィーザは、自分に反抗的な態度の男たちと戦うため、馬を駆ろうとした。
ちょうどそのとき、泣きながら老人が彼女の元にやってくると、ガラフロン王軍の先陣が崩壊したため、彼女の助けが必要であることを報告した。
マルフィーザは、眼前の異邦人たちを馬から突き落とし、捕虜にしてからすぐに援護に向かうことを約束する。
さて、リナルドたちの方に馬首を向けた彼女は、まずイロルドとプラシルドを連続して落馬させてしまった。
それから、彼らはマルフィーザが侍女たちと待っている間に、彼女の侍従たちによって捕虜にされてしまう。
次に彼女はリナルドに立ち向かうと、リナルドの巨大な槍を砕きはしたが、落馬はさせられなかった。
一方で、リナルドも乙女の槍を砕いてしまった。
2人は砕けた槍を捨てると、互いに剣を抜いた。
剣術において、リナルドの熟練の技は防御において勝り、フスベルタの性能は彼女の剣よりも優れていたため、彼は一時的に優勢であった。
彼女の攻撃を受け流しつつ、リナルドは彼女の手にしていたファルシオンを弾き飛ばすことに成功する。
これに激昂した女武者は、籠手(ガントレット)をつけたままの手でリナルドの顔面を殴る。
これには、鞍上のリナルドも意識が遠くなった。たちまちにラビカンが馬首を変え距離をとり、朦朧とした乗り手を一時離脱させる。
この間にマルフィーザは地面に飛び降りると剣を拾い上げ、リナルドは意識を回復させると再び馬を女武者の方に向ける。
このころ、アンジェリカの命令を受けたオルランドはガラフロン王に加勢すべく馬を駆っていた。
オルランドは、仲間たちの中で最も武勇に優れていたし、再び戦局が変わりタタール側が不利になっていた。
混戦の中、再びオルランドとアグリカンは顔を合わせると、以前より激しく戦いを再開した。
この時点でアグリカンは、もはやいかなる努力をしてもアルブラッカを陥落させることはできないと確信してはいたけれど、オルランドを討ち取ることで絶望的な戦いを終結させるつもりであった。
中断されることなく戦いができるところまでオルランドをおびき寄せるため、アグリカンは逃げるふりをした。
アグリカンを追いかけたオルランドは、森の中の広場にたどりついた。その広場の中央には泉がわいている。
その場でお互いに罵りあった後、2人は剣を抜いて馬を突撃させて戦うも、なかなか決着は付きそうもない。
そうやっていると夜になってしまった。2人の戦士はこの一日をほとんど攻撃の応酬に費やしたのである。
しかたなく決闘を中断した戦士たちは、日の出まで休戦することにした。
2人はごろりと横になると、親しげにおしゃべりなどをした。
この会話中、アグリカンはオルランドのことを不倶戴天の敵であると述べる。
これに対し、オルランドは話題を変えるようと申し出た。
だが、アグリカンが嘲笑を持って提案を受け入れると、女性への愛と戦いのみが騎士の話題にふさわしいと主張した。
必然的に、話題はアンジェリカのことになった。
ともにアンジェリカを愛する恋敵であるオルランドとアグリカンは、会話の中でお互いに胸に火をともすと、互いに憎しみを抱くようになり、暗闇の中にもかかわらず再び馬に乗って戦いを始めた。
こうして始まった戦いはなんどか決着がつきかけたが、ついに捨て身でこれまで聞いたこともないような決戦は朝を迎えた。
だが、ついに幸運はオルランドに味方し、勝利を得ることができた。
魔法の皮膚のため切り傷を負わないものの、ひどい打撲傷を負いながら、アグリカンに対し致命傷を与えることができたのだ。
瀕死のアグリカンは、持ち前の高邁な精神から、オルランドに対してキリスト教の洗礼をしてくれるように依頼した。
――涙が彼の猛々しい顔を流れると、
――伯爵(オルランドのこと)は彼を介護するために馬を下りた。
――傷ついた騎士を抱きしめて抱擁し、
――泉のふちの草地に横たえさせた。
――死に逝く彼の唇にキスをすると、アグリカンにお祈りを求め、
――これまで犯した過ちへの許しを乞わせた。
――もはや会話もままならぬタタール王の頭を横たえさせると、
――オルランドは彼の額に十字を切って、聖別をした。
――悲しむべきことであるが、オルランドは
――彼の呼吸が止まり、命の温かさが失われたこと気がついた。
――オルランドは勇敢な戦士の魂が解放されたことを知ると、
――彼の死体を水晶の泉に残して立ち去った。
――アグリカンは鎧をまとったまま、
――手に剣を握り締め、冠を頭にかぶったままである。
――馬に向けて進むオルランドは、
――アグリカンの馬がバヤールであることに気がついた。
オルランドは優美な馬を詳細に調べた結果、まちがいなくこの馬がバヤールであると確信をした。
ならば、バヤールはいななき声によって主人であるリナルドやその友人、親類を呼び寄せるだろう。
バヤールに騎乗したオルランドは、これまで自分が乗ってきたブリリアドロを牽引し、その場を離れた。
それから遠くまで行かないうちに、オルランドは武器がぶつかり合う音を耳にした。
すぐさま、ブリリアドロを繋いでしまうと、音のするほうに向けて馬を駆る。
音を頼りに進むと、1人の乙女と、彼女に従う3人の巨人を目にすることになる。乙女たちは1頭のラクダと多くの財宝を持っていて、これを力づくで運び去ろうとしている。
巨人のうちの1人は乙女を受け持ち、残りの2人が1人の騎兵と戦っている。
だが、この物語はここで中断して、著者はアグリカンが死んだことによる影響について語らねばならない。
2010/07/10