11章 リナルドがプラシルドを救出すること

 

 

だが、著者はこの物語についてはここまでにして、リナルドについて語らなければならない。

彼はフロリマールの恋人、フロリドリの残した指示に従って北を目指して進み、やがて泉にたどり着く。彼は、その泉で地面に伏して泣いている騎士に出会った。

黙ったまま悲しんでいる騎士をしばし観察した後、リナルドは馬を下りて、「そんなに悲しむとは何があったのか」、と尋ねた。

 

見知らぬ騎士は、「死を回避する方法がないことを悲しんでいるのだ。

だが、死の圧迫感を恐れているわけではない。私の死が引き起こす別の現象を恐れているのだ」と答えた。

 

リナルドは、それは一体どういうことなのか教えて欲しいと頼み込んだ。

これに対し、騎士は自分の過去を語り始めた。

 

異邦人は、かくのごとく語る。

「バビロンの有名な都市から、この場所に来るまで20日かかりました。

そのバビロンの都市には、すばらしきティスビナが住んでいます。彼女は美しさと、内面の両面の素晴らしさで有名な淑女です。

私は、そんな彼女を妻としたこともあります。ですが、過酷な義務に基づいて、彼女は他人の妻となってしまったのです。

彼女が他人の妻となってから2年の間、私はバビロンに残る理由もなくなったので放浪生活を送りました。

時の経過が悲しみを癒してくれました。時間経過という悲しみを癒す一般的な方法が、最も有徳で礼儀をわきまえた男に嫁いだティスビナを諦めることにつながったのです。

ですが、私の愛は犠牲となっています。このような犠牲を後悔しないでいることはできません。

 

「私は放浪しましたが、不運は私をオルガンガに導きました。

オルガンガの正当な王はポリパーヌス(Poliphernus、発音は適当)でしたが、彼はアグリカン軍とともに不在でした。

さて、正当な王が不在の間に、オルガンガ王国は邪悪な女に支配されてしまい、全土が彼女の餌食とされてしまったのです。

この女は魔女でして、その名はファレリーナといいます。

彼女は美しい庭園を所有しているのですが、その庭は東側からだけ入れるという話しです。その門には大蛇が飼われていて、ファレリーナは不運な囚人を餌に与えているといいます。

餌となる囚人は、到着した順に騎士と淑女の2人1組とされ、毎日怪物に男女の1組が提供されるのです。

 

「私は、ファレリーナの囚人の中にいました。そして、なんとも不幸なことに、私が虜囚となったという知らせが、高貴な紳士にして私の元妻・ティスビナの夫であるプラシルドのもとに届いてしまったのです。

私が知らぬうちに、プラシルドはただちに宝を積み上げるほど持参してファレリーナの庭園にやってくると、私を解放しようとしたのです。

ですが、彼の努力は報いられません。それでもプラシルドは必死で財産の提供以外の方法、すなわち自分が私の身代わりになるという提案をしました。

この提案が魔女に受け入れられ、私は地下牢を出ることができたのですが、代わりにプラシルドが虜囚とされてしまったのです。

そして、今日こそが彼が犠牲にされてしまう日なのです。今日が終えるまでには、私も生きてはいないでしょう。

プラシルドが牢から出されて蛇の餌にされる場所に連行されるとき、私は彼を護送する者に攻撃を仕掛け、護衛を殺すつもりです。

私が唯一悲しむ原因は、我が命を懸けたとしても彼を救い出すことができないであろう、ということなのです」

 

話を聞いたリナルドは、異邦人を慰めると、彼とともにプラシルドを護送する者との戦いに参加することを申し出た。

この異邦人はイロルドという名であったが、彼はリナルドが犠牲になるだけで無意味だと考えたため、嫌々ながらもこの申し出を受け入れた。

しかし、救出作戦はイロルドが予想していたのと大いに違う展開を見せた。

2人の囚人を処刑場に連行していた者は、騎士たちの襲撃、特にリナルドの活躍によって四方八方に逃げ出してしまった。

 

イロルドは、予想通り囚人の中にプラシルドがいることに気がついた。また、女の方の囚人は、フロリドリであることが発覚した。

リナルドは、魔法の庭園での大活躍を誇りたがっていたけれど、かつて彼の道案内を勤めた乙女はそうさせなかった。

彼女は庭園がたくさんの怪物や魔法で守られていることを説明してリナルドを怖がらせようとした後、彼に対してオルランドたちがいまだ虜にされていること(実はこの時点でアンジェリカがオルランドたちを解放しているけど、フロリドリたちはそのことを知らない)、ドラゴンティナの庭園を破壊するという冒険がいまだ達成されていないことを思い出させた。

リナルドにとって、やりかけの冒険は、ファレリーナを打ち破りたいという熱望よりも優先するものであった。

 

プラシルドとイロルドそして乙女は、リナルドの武勇を賞賛し、かつ自分たちを助けてくれたことに感謝するとキリスト教徒の洗礼を受けた。そのうえで、彼らはリナルドとともにドラゴンティナの庭園を目指す冒険に同行したのである。

 

だが、すでにドラゴンティナの庭園はアンジェリカの指輪の力によって破壊され、最後の痕跡さえ化し去られていたのである。

そうと知らない騎士たちは、かつてドラゴンティナの庭園があった場所へと向かい、その途中でアグリカン軍からの脱走兵に遭遇した。

この逃亡兵がアンジェリカ側について闘った戦士の武勇について語ったところ、リナルドはその戦士こそオルランドに違いない、と力説した。もっとも、オルランドたちがどうやって自由の身になったのかについては想像することはできなかった。

 

2010/07/10

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