42章第2話 ディートリッヒ伝説が終わりを告げること

 

ディートリッヒ軍は、ハドゥブラントらに勝利した。
敵軍は散り散りになり、生き残ったものは自分の家に逃げ帰った。
だが、ヒルデブラントが死んでしまったため、ベルンに帰還したディートリッヒの心は悲しみに包まれていた。
市民たちは大喜びで彼を歓迎する。
城の戻ったディートリッヒは貴族たちからも歓迎と忠誠を捧げられ、足元には黄金や宝石が山のように積み上げられた。
こうして、ディートリッヒは正当な王と認められたのである。

ジフカはディートリッヒ軍の勝利を妨害しようとしたものの、成功はしなかった。
大軍を率いて遠征してきたジフカは、自身が優れた騎士であったことからディートリッヒに一騎打ちを挑戦した。
激しく、長い戦いの末、ジフカはディートリッヒによって一刀両断に斬られてしまったのである。
この一騎打ちの後、ジフカ軍は大敗し、ディートリッヒの猛攻撃に生き残ったものは武器を捨ててディートリッヒに忠誠を誓った。

こうして、ディートルマルの偉大なる息子は、かつてエルマナリクが収めていた領地全てを得ると言う、多大な名誉を得たのである。
さらに、エッツエルが死んだ時、彼はフン族の王にもなった。
長い間国を追放された亡命者に過ぎなかったディートリッヒは、偉大なる帝王になったのである。

ディートリッヒ王の統治は長期間に及び、その間彼の統治する領域には平和が続いた。
ディートリッヒは武勇に優れていたのだけれど、それと同じくらい知恵にも優れていたのである。
国から国へ、英雄たちの物語をしながら旅する吟遊詩人は、ディートリッヒは不死なのだと歌ったと言う。

そんなある日、ディートリッヒは森の奥まで狩猟に出かけることになった。
年齢による衰えがあるものの、それでもディートリッヒに匹敵する腕前を持つ猟師はいなかった。

狩りの後、ディートリッヒは小さな泉で水浴びをした。
そうしているとドワーフがやってきて叫んだ。

「王様、誰も見たことがないような牡鹿がこっちに向かってきまよ。
これを捕らえられる猟師はいません」

ディートリッヒは泉から出ると、布を体に巻きつけてから馬を呼んだ。
しかし、ディートリッヒが呼びかけても馬はやってこない。
そうしていると、森に馬のいななきが響き、高貴な黒馬が疾走してきた。
その黒馬には誰も乗っていなかったので、ディートリッヒはこの黒馬にまたがる。

ディートリッヒが走らせると、黒馬は風よりも早く走り始めた。
ドワーフは彼の後ろで馬を走らせながら、
「王さまの乗ってる馬は速いでございますね。
ですが、どこまで走るつもりですか?」

ディートリッヒは答えた。
「この邪悪な馬は、私の力で停めることはできないし、降りることもできない。
神と聖マリアの加護がなければ、私は二度とベルンに戻れないだろう」

そう言うと、ディートリッヒはドワーフの視界から消えてしまった。
これ以降、彼の姿を見た人間はいない。

だが、風の強い日や嵐の日、どこからか蹄の音が聞こえてくるだろう。
これは黒馬に乗ったディートリッヒが、牡鹿を追いかけて天を走り回っているからなのだ。

2010/03/08
 

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