41章第5話 恐ろしき陰謀でディートリッヒが多くの部下を失うこと

 



※訳者注 この章の物語は、ほとんど『ニーベルンゲンの歌』と同一の内容を、フン族側の視点から描いています。 作中では、クリエムヒルトがブルグントとフン族を戦わせようとしてますが、これはシグルトを殺したハゲネたちにフン族の力をつかって復讐するためです。
 興味があれば、岩波文庫から出ている『ニーベルンゲンの歌』を読むと楽しいです。



王子の死から2度目の夏がやってくると、王妃は死去した。
王妃は死ぬ前に、エッツエルに対してニーベルングの女とは再婚をしないように警告をした。

「もしニーベルングの女を妻にすれば、その女は、あなたと、あなたの息子に対して想像を絶するようなやり方で苦しみを与えます」

だが、この王妃の遺言は忘れられてしまい、エッツエルはブルグント王のグンターに使者を送り、彼の妹のクリエムヒルトと結婚してしまった。

ディートリッヒとヒルデブラントはブルグント王のグンター、ハゲネ(※訳者注 グンターの弟)は友人であったのであるが、クリエムヒルトの邪悪な陰謀によってエッツエルの宮廷でブルグント族との戦闘が始まってしまう。
彼らは、ウォルフハルトが激情に身を任せて戦ったことをきっかけに、ディートリッヒとグンターたちは敵味方に分かれてしまった。
このブルグント族とフン族の間の戦いでヒルデブラントは負傷し、ディートリッヒの騎士はヒルデブラント以外、みな命を落とした。

この戦いで、ディートリッヒは敵方の首魁であるハゲネとグンターとそれぞれ一騎打ちで戦い、そして2人ともに勝利したという大活躍をした、と言われている。
だが、グンターとハゲネを処刑するさいのこと、ヒルデブラントは争いを引き起こしたうえ2人を虐待したクリエムヒルトを「悪魔」と罵った上で、彼女を斬り殺している。

エッツエルは言った。
「たしかに、クリエムヒルトは悪魔だった。
この女さえいなければ、多くの高貴な騎士たちが死ぬこともなかったものを…」

エッツエルの言うとおり、多くの男が生命を落としていた。

この後、ハゲネの息子であるアルドリアンは、父の復讐を誓い、エッツエルの宮廷を訪れた。
彼はエッツエルに対して、ニーベルングの財宝について話を交わす。

「もし、陛下が1人だけで私と一緒に来るのなら、黄金の隠し場所まで案内いたしますよ」

これを聞いたエッツエルはアルドラインについて出かけて行った。
ハゲネの息子はエッツエルをライン川の下にある秘密の洞窟まで案内した。
そこには確かに莫大な財宝があったため、エッツエルは大喜びした。
だが、アルドラインは突如後ずさりをすると、

「いま、貴様はたくさんの黄金を目にして幸せの絶頂だ。
父の復讐のために貴様を殺すのは、今以上にふさわしい時はない」

こう言うと、アルドラインは洞窟の扉を塞ぎ、エッツエルに飢餓の苦しみを与え、彼が望んだ莫大な財宝とともに監禁したのである。

それからずいぶん時がたち、ディートリッヒの元に知らせが届いた。
その知らせによれば、エルマナリクはスヴァンヒルト(※訳者注 王子にとって母親、エルマナリクにとって後妻)を殺したことに対する復讐として2人の王子によって殺され、かねてから王位を狙っていたジフカが玉座に座ったと言う。
ディートリッヒは軍を率いて、自分の統治していた王国を目指して進む。
もちろん、ヒルデブラントもこれに付き従う。

「追放の身分のままフン族の国で死ぬよりも、私が死ぬとしたらベルンだろうな」
と、ディートリッヒは言うのであった。

2010/03/07

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