37章第4話 デーン人ヴィテゲがディートリッヒを追い詰めること


それから何日も過ぎた頃。またディートルマル王の息子に挑戦しようと若き戦士が冒険を求めてやって来た。
この戦士はヴィテゲといい、デンマークの出身であった。
挑戦されたディートリッヒは憤激した。なぜならば、自分と戦って勇気と武芸を知らしめようとやってくる大胆な外国人たちにうんざりし始めていたからである。
しかも、その好戦的なデンマーク人はこれまでディートリッヒがであってきた騎士以上のものであった。

(やや話は前後するが、ここでヴィテゲについて紹介と過去話が始まる。原文がそうなんで了承ください)

ヴィテゲは優れた技を持つことで有名な、鍛冶屋・ヴィーラントの息子である。
そして、ヴィテゲはおじであるエギルに匹敵するほど弓矢がうまかった。

そんな彼は鉄工所で働くことを嫌がり、戦士としての名誉を得るために冒険を求めるようになった。
ある日ディートリッヒの名声を聞くと、ヴィテゲは彼に一騎打ちを挑むことを決意した。
ヴィーラントは冒険をやめて家にのこるように説得したが、ヴィテゲは耳を貸さなかった。
そこで、ヴィーラントは冒険に出る息子のため、自らが制作した光り輝く鎧と、龍をあしらった立派な兜、頑丈な槍、金槌とやっとこを描いた白い盾を与えた。
さらに、ヴィーラントはひどく鋭利なミームングという剣をも与えることにした。この剣は、以前、ヴィーラントが独裁的な王の命令で制作した名剣である。

こうして、ヴィテゲはアメルングの地にあるベルンを目指して旅をすることになった。
旅の途中、ヴィテゲはヒルデブラントとハイメ、それから外国の騎士に出会った。彼らはディートマル王の宮廷から出かけている途中だったのである。
だが、ヒルデブラントたちが一休みし始めると、ヴィテゲは彼らを待たず1人で先に進んだ。

少し進むと、ヴィテゲは12人の盗賊たちが住処にしている城に近づいた。
盗賊たちは、若い騎士が1人きりで向かってくるのを見るとこう話しあった。

「ようし、あいつの綺麗な鎧を強奪使用ではないか?
そして右手と切り落として、家に帰らせてやろう」

そううそぶくと、盗賊たちはヴィーラントの強き息子を襲うために城から出てきた。
まず、そのうちの2人が前に出てくると、降伏を勧告した。
だが、ヴィテゲはミームングの剣を抜くと、直ちにこの2人を斬り殺した。
すると、残りの盗賊たちもヴィテゲに向かって突進して来た。こうして、多対一の不公平な戦いが始まった。

ちょうどそのとき、ヒルデブラントとハイメ、またもう1人外国の騎士がそばにやってきた。
ヒルデブラントはヴィテゲを助けよう、と仲間に提案する。
だが、ハイメは、

「その必要ないさ。あいつのプライドはかなり高い。
あいつ自身の力を拝見するとしようや」

しかし、老戦士はこのままでは盗賊たちがヴィテゲを殺してしまうと考え、とても我慢ができなかった。
そこで、ヒルデブラントは盗賊たちに向けて馬をすすめる。そして、ハイメ以外の者、すなわちヒルデブラントと外国の騎士は盗賊たちに激しい攻撃を加えた。
やがて、盗賊たちのうち7人の死体が大地に転がり、残り者たちは早々に退散した。

ヴィテゲはヒルデブラントとに例を述べ、2人はともに騎士としての友情を誓っていたが、さらに義兄弟の誓いを結ぶことになった。

「武勇優れた若者よ、どこへむかっているのかね?」
と、老戦士が尋ねた。

「ベルンに向かっている」 と、ヴィーラントの息子は答えた。
「おれはベルンでディートリッヒに会い、一騎打ちをしたいんだ」

ヒルデブラントはこの若者き英雄の武功を思い知ったため、これ以上、この話題をしたくはないと考えた。
実際のところ、彼はディートリッヒの身の安全に不安を覚えたのである。
そこで、夜になりデーン人が眠りにつくと、彼は若者のミームングの剣を抜き、こっそりと自分の剣とすり替えておいた。

(ここで原文は場面転換。冒頭のディートリッヒがヴィテゲに出会うところになんの説明もなく飛びます)

――すでに説明したように、デーン人が高貴な生まれでなく、鍛冶屋の息子であると知ればディートルマル王の息子は腹をたてた。

ヒルデブラントは若者がいかに勇敢であり、武器の扱いに熟練しているかと言うことを警告したものの、ディートリッヒは聞き入れなかった。

「そんなに時間はかからないさ」 と、ディートリッヒは言う。
「広く、王国に秩序がもたらされてからね。
私は無作法なやつらが挑戦してくることに我慢が出来ない。
身の程を知らない奴には、きつい一撃をお見舞いしてやるさ」

「ですが」 とヒルデブラントが意見した。
「王子の力をもってしても、あの若者に勝てないかもしれませんよ」

「いや、今日が終わるまでの間に、あいつをベルンの城門に吊るしてやるよ」
と、王子は答えた。

「いずれにしろ、あなたがあの若者を吊るす前に」 と、ヒルデブラントは答える。
「王子はあの若者と激闘を繰り広げなければなりますまい。
賭けてもよろしいが、苦戦なくして勝利はありえません」

これまで、ディートリッヒは本当に強い相手と出会ったことがなかった。
しかし、ヴィテゲの攻撃は力強く、また迅速なものであった。
ヴィテゲの打撃はディートリッヒの頭に命中する。しかし、ヒルデブラントの剣ではヒルデグリムの兜を破壊するに至らない。
ヒルデブラントが剣をすり替えたとは知らないデーン人は、剣が威力を発揮しなかったため、父であるヴィーランドを激しくののしった。

「おれにふさわしい剣があれば、さっきのでおれの勝ちだったのに!」

ディートリッヒも、両手でナーゲリングを握り締め、激しい攻撃を繰り出した。
この激しい攻撃は、自分が狙われたのと同様、ヴィーラントの息子の頭を狙ったものだった。
だが、突如としてヒルデブラントは2人の若武者の間に割り込み、休戦を提案した。

「この若者を殺してしまうのは惜しいことです」 と、ヒルデブラントはディートリッヒに向けて言う。
「そして、彼をあなたの勇敢なる騎士団に加入させるべきと考えます」

「いや、この犬めは今日のうちに殺してしまう」 と、王子は怒りながらも反論した。
「そこをどけ、でなきゃそいつを殺せない」

これを聞いた老戦士は激怒した。
ヒルデブラントは鞘からヴぃーラントが作った剣を抜くと、これをヴィテゲに手渡して言う。

「そなたの剣、ミームングだ。これをそなたに返却しよう。
この剣を使い、そなたの武勇にふさわしい戦いをするがいい」

ヴィテゲの心は歓喜でいっぱいになった。

「あぁ!」 と彼は叫ぶ。「父を罵るなんて、何てことをしたんだろう!
見るがいい、ディートリッヒ。これがミームングの剣だ。
渇きに苦しむ者が水を求めるように、飢えた犬が食い物を求めるかのように、今のおれはお前と戦いを欲しているんだ!」

そして、再び2本の剣は音楽を奏で始めた。
ミームングは、ディートリッヒの鎧や盾を、布を裁つように切り裂いてゆく。
ヴィイーラントの息子の激しい攻撃に、ディートリッヒは次第に負傷していった。
実は、ヴィテゲは、王子の体に5箇所の傷が付けられたところで戦いをやめるよう、ヒルデブラントから指示を受けていた。
しかし、王子の態度に気分を害していたヒルデブラントは戦いをやめさせようとはしなかった。

そこで、ディートマル王がヴィテゲに戦いをやめるように命令し、そのかわり彼に豪華な贈り物と高貴な花嫁を与えることを約束した。
しかし、興奮状態で戦うヴィテゲなにも欲しがらず、ただ傲慢な王子を殺すことだけを望んだ。
執拗に繰り返されるヴィテゲの攻撃で、ついにはヒルデグラムまでもが真っ二つになり、ディートリッヒの金髪があらわになってしまった。

さすがに、ヒルデブラントも王子の死を望んではいない。
王子が死の危機に瀕していることに気づいたヒルデブラントは王子に対する怒りを捨て、自分の体を乱闘に割り込ませて戦いを終わらせた。
そして、あれこれと交渉の末、ディートリッヒと親睦を誓い、彼の騎士になることを誓わせることでヴィテゲに戦いをやめるように嘆願した。

このように、老戦士がヴィテゲを騎士として欲したので、ヴィテゲもこれに応じることになった。
ヴィテゲが剣を鞘におさめて王子に使えることを誓った。のち、彼らは最も親しいともになるのである。そして、この日はともに城にもどると、一緒にワインを飲んだ。

だが、以前のように勝利を得ることが出来なかったディートリッヒは悔しい思いをしていた。
そこで、ディートリッヒはさらなる冒険を求めて出発することを決意した。
そして、彼の名誉はアメルングの地においてはいささかも傷つけられることは無かったのである。

2010/02/11

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