37章第2話 巨人の復讐にディートリッヒが危機に陥ること

 

ある山の西、ズィゲノートという名の偉大な巨人が住んでいた。
この巨人はディートリッヒに殺されたグリムの甥であり、ヒルテの甥にあたる人物であったので、ディートリッヒに復讐することを決意した。
また、ズィゲノートはおじたちの持っていた財宝、特にヒルデグラムの兜を是非にでも手に入れると誓いを立てた。
そんなある日のこと、ディートリッヒは1人だけで狩りをするため、森の奥を馬に乗って進んでいた。
その森の中で、ディートリッヒはズィゲノートがぐっすりと眠り込んでいるところを発見した。
自分の強さに自身を持っており、しかもやや自信過剰な若者は、この巨人と戦いたいと考えた。
ディートリッヒは馬を降りると、恐れ知らずにも巨人の体を足で蹴りつけた。
ズィゲノートは激怒して飛び起きて言う。

「あぁ、ついにやって来たか!
ベルンの王子よ、俺は長い間お前に会いたいと思っていた。
お前を殺して、今こそ親類のグリムの仇を討ってやるぞ!」

大きな槍をつかむ巨人に対し、ディートリッヒもすかさずナーゲリングを抜いた。
しかし、互いの戦力に差がありすぎた。
ズィゲノートは槍の柄の部分でただの一撃しただけでディートリッヒは倒されてしまい、縄で拘束されてしまった。
勝利したズィゲノートはディートリッヒを連行し、龍が住んでいる暗い地下洞窟に放り込んだ。
そこには何匹ものヘビが這い回って降り、闇の中でシーッと声を立てている。
そのため、ディートリッヒは洞穴の中でヘビと戦うことを余儀なくされた。

そのころ、ヒルデブラントは森の中で王子を探し回っていた。
王子は狩りに出たはずなのに、まったく角笛の音が聞こえないことからヒルデブラントは不審に思っていた。
そして、ディートリッヒの馬が木につながれているのを発見したとき、ヒルデブラントはディートリッヒがすでに殺されてしまったのではないかと思い恐怖に震えた。

突然、彼は木々の間から重々しい足音が近づいてくるのに気がついた。
その足音の主はズィゲノートであり、ほどなくヒルデブラントと対面することになった。

「お前は誰だ? 何をしに来た?」
と、巨人は怒鳴り声を上げた。

「わしはヒルデブラント」と勇敢なる戦士は答えた。「ベルンの王子、ディートリッヒを探しにやってきた」

すると、巨人は槍を繰り出してきたので、ヒルデブラントも剣を抜いて応戦した。
だが、ヒルデブラントの武勇にも関わらず、ほどなくヒルデブラントは巨人に負け、武装を解除されてしまった。
ズィゲノートはヒルデブラントのあごひげをつかんで森の中を引っ張りまわした。

「ついて来い、長ヒゲめ。おれについて来い。
これでグリムとヒルトの復讐は成功だ。
すぐにでも、ベルンの王子に会わせてやるぜ」

ヒルデブラントは巨人がひげから手を話そうとしない間、巨人を恐れると言うよりも怒りの気持ちでいっぱいであった。
このようにして戦士は酷いやり方で引っ張られて、ディートリッヒが拘束されている洞穴にたどり着いた。
さらに、ヒルデブラントは地面にナーゲリングがころがっているのを発見した。
ヒルデブラントは素早くナーゲリングを拾い上げ、巨人が反応するより早くナーゲリングで巨人を切り裂いた。
この攻撃で怪我をした巨人は、戦士の拘束を思わず緩めてしまう。

こうして、巨人は自由の身になったヒルデブラントの一撃で命を落としたのだった。
グリムの縁者が傲慢にも企てた復讐は、このようにして失敗に終わったのだ。

さて、巨人は死んだが、ディートリッヒはまだ地下の深いところに閉じ込められている。
王子はヒルデブラントが自分を呼ぶ声を聞くと、早くここから出してくれるように懇願した。

「私自身の力でかなりの毒蛇を殺してやったんだが」と、ディートリッヒは言った。「まだ毒蛇がたくさん残っているんだ」

ヒルデブラントは服を脱ぐと、脱いだ服を引き裂いて寄り合わせ、縄を作り上げた。
この縄をヘビのはびこる洞穴におろし、絶え間なく襲いかかるヘビとの戦いに苦しむディートリッヒを救い出そうと言うのである。

しかし、ディートリッヒが縄をつかむことはできたものの、ヒルデブラントが縄を引っ張ると、縄は裂けてしまった。

しかし、ここで救い主がやってきた。
この付近に、ドワーフのエグリッヒという者が住んでいたのであるが、このドワーフはズィゲノートが殺されたことで喜びながらやって来た。
そして彼はすぐに縄梯子を持ってくると、龍と大量の蛇が住む洞穴からディートリッヒを救い出した。

救い出された王子はヒルデブラントを抱擁したのであるが、老戦士はさっそくディートリッヒを叱責した。
さすがに、1人きりで森へ冒険にでかけるのはあまりに無用心だからである。

それから、ドワーフのエグリッヒを別れた彼らは、いっしょにベルンに帰還した。
ズィゲノートが殺されたことを知ると、市民たちは大喜びし、またヒルデブランドと恐れを知らないディートルマルの息子のことを褒めたたえた。


2010/02/04

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