37章第1話 ディートリッヒがナーゲリングとヒルデグラムを手にいれること

 

ディートリヒはベルンの王・ディートマルの息子である。また、父方の伯父にはエムルリッヒ(※ 訳者注 たぶん、エルマナリクのこと。)という恐ろしい王がいた。
ディートリッヒはわずか7歳のとき、父親の宮廷に数々の名誉ある行いによって英雄として知られるヒルデブラントがやってきた。
偉大なる戦士ヒルデブラントは幼い王子の養育を任され、彼によってディートリッヒは多くの知識と武器を操る技術を習得した。
やがて、ディートリッヒとヒルデブラントは親しい友人どうしにもなり、死が2人を分かつまで、長きにわたって友情を結ぶことになったのである。

成長するに従い、ディートリッヒは強さを身につけた。
すると、ディートリッヒは男巨人と女巨人を退治しに行きたいと望むようになった。
その巨人とは、男のほうがグリム、女の方がヒルテと言う名前であり、各地を炎で焼き払い、人民を虐殺するなどの行いをしていたのである。
ディートマル王は軍隊をもって巨人退治をしようとしたが、神出鬼没の巨人夫婦の隠れ家をどうしても見付け出すことができないでいた。
そこで、ディートリッヒはこの男女の巨人と戦って勇気と武勇を示すとともに、戦士としての名誉を得ようと考えた。

ヒルデブラントとともに、ディートリッヒは朝から巨人を求めて森を捜索した。
2人が空き地にたどり着いたとき、突然ドワーフが飛び上がり、ディートリッヒたちから逃げようと走り始めた。
若者は素早くドワーフを追いかけ、たちまちに小さな男を捕まえた。
この小人の名前はアルベリヒといい、ずる賢い盗賊でありながら凄腕の鍛冶屋として名声を得ている男だった。
ディートリッヒが小人を殺そうとすると、ドワーフは叫んだ。

「ベルンの王子さま、おれを殺さないでくれ!
そうすれば、あんたはおれがグラムとヒルデのために作った名剣を手にいれることができるんだからさ。
その剣はナーゲリングといってだな、この世に2つとない名剣だぜ?
殺さないでくれたら、巨人の住む洞穴まで案内しよう。剣の他にもお宝が隠されているんだぜ」

ディートリッヒは、アルベリヒが約束を守るのなら、命を助けてやると約束した。
「あんたがお宝を得ようとするならば、グラムと戦わなきゃいけない。
こいつときたら、成年男子の12倍の怪力をもっている。
それにヒルデの方もグラム以上に恐ろしい奴だから気を付けるんだぜ」

それから、アルベリヒは夕方にはナーゲリングの剣を持って戻ってくると約束したので、ディートリッヒは誓いを立てさせてからアルベリヒを解放した。
このドワーフが立てた誓いは果たさた。
アルベリヒは光り輝く剣・ナーゲリングを持参して、山の断崖でディートリッヒとヒルデブラントに再会した。
ディートリッヒはこのように素晴らしい剣を得たことに誇らしげである。のち、この出来事はディートリッヒの名誉となった。

剣を渡すとドワーフはどこかに消え失せてしまい、ディートリッヒとヒルデブランドは断崖を目指して進んだ。
やがて、ディートリッヒたちは断崖に隠し扉があることを発見し、その扉を開けてみた。
室内に太陽の光が入り込むと、ディートリッヒたちは室内に燃える炎とやせこけた容貌のグラムとグリムを発見した。
侵入者に気づいた2人の巨人は跳ね起きると、怒り狂いながら戦いを望んだ。
ちょうど、ずる賢い盗人・アルベリヒがナーゲリングを盗み出したため、巨人たちは剣を探していたのである。
巨人は燃え盛るたいまつをつかみ、ディートリッヒに襲いかかる。
もし、ディートリッヒが剣を持って反応できなかったなら、この一撃でディートリッヒは殺されていただろう。

一方、女巨人のヒルテの方もヒルデブラントに襲いかかり、2人は取っ組み合いを始めた。
それは長く激しい戦いになった。
結局、ヒルデブラントは強い戦士であったのだが、女巨人はヒルデブラントの首をきつくしめあげたためヒルデブラントは呼吸が困難となり、やがて地面に倒れ込んでしまった。
完全に敗北したヒルデブラントの命は、まさに終わってしまいそうになった。

そこで、無駄ではあるが、老戦士は巨人と奮闘するディートリッヒに対して助けを求めた。
そのころ、ディートリッヒの方はグラムを打ち負かしていた。
素早く巨人の攻撃を脇によけ、ナーゲリングで巨人の頭をかち割ったのである。
こうして、ディートマル王の国を荒廃させた恐るべき巨人の片割れは退治された。

一方、ヒルデブラントは苦しみにあえいでいた。
ヒルデがヒルデブラントを締め付ける力は恐ろしいもので、ヒルデブラントはまさに死ぬ寸前である。
そこに駆けつけたディートリッヒは剣で一撃、女巨人の体を真っ二つに切り裂いた。
だが、女巨人は平然とした様子でヒルデブラントを抱きしめる腕の力をいささかもゆるめようとしない。
さらに、女巨人はディートリッヒの目の前で、切断された体をくっつけて、再び完全な体に戻ってみせたのである。
ディートリッヒは、今度は真正面から女巨人を縦に切り裂いたものの、また女巨人は斬られた体をくっつけてしまう。

ヒルデブラントはかすれるような声で言った。
「次にババァを切り裂いたら、その体と体の間に入り込むのです」

戦士の助言に従い、ディートリッヒはそのとおりにした。
ディートリッヒはヒルデを真っ二つに切り裂くと、即座に切り裂いた体の間に自分の体を割り込ませたのである。
これがヒルデの最期となった。もはや、ヒルデの邪悪な意志は長らえることはない。
ヒルテはこう叫んだ。

「私がヒルデブラントと戦ったのと同じくらい、グリムがディートリッヒを戦ってくれれば私たちが負けることはなかったのに…」

こうしてヒルデの命が絶えてから、ようやくヒルデブラントは自由を取り戻した。
老英雄は目には勝利の栄光が輝いてているディートリッヒを賞賛し、抱擁した。

洞窟に隠されていた財宝はかなりのものであった。
ディートリッヒはその財宝の中から不思議な輝きを放つ兜を手に入れた。
その兜は男巨人と女巨人の名前をとってヒルデグラムと名付けられることになる。
また、ヒルデグラムを装備した英雄は人間以上の強さを発揮することができるのだ。

王子はその兜を自分の頭に被ってみた。
ディートリッヒはこの兜を実力で獲得したのだ。
それから、ディートリッヒはヒルデブラントとともに父であるディートマル王のモトに帰還した。
ディートマル王は息子の勇敢な行いに歓喜し、人民の前でディートリッヒを正式に騎士に叙任したのである。

2010/02/04
 

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