6章 グエンドロエナの再婚
三日月の輝く夜のことだった。
天の星々も輝いていた。大気は普段より済んでおり、ひどく寒い日だった。
ボレアス(4人いる風神の1人。ここでは北風のこと、モトネタはギリシア神話)の乾いた息吹は雲を追い払い、天空を晴れさせ、また霧を消えさせた。
マーリンは高い山の頂上で星の流れを読みながら一人つぶやいた。
「火星の光は何を意味しているんだろう?あの真紅の輝きは、どこかの王が崩御したこと、誰かが取って変わったことを意味しているのか?ああそうだ、コンスタンティヌが不幸にも甥のコナンに殺され、王冠を奪れたのだな(この部分は後々、アウレリアス・コナンの治世の伏線。コナンが『ブリタニア列王史』ではアーサーに置き換えられている。さらに、モンマスは時系列にも矛盾を生じており、マーリンが発狂する原因のアルスレッドの戦いは577年なのに、アーサーの即位が542年)。
それから、天の黄道に従って運行する金星は、太陽を伴っている。何が天で2倍の輝きを放っているのだ?まさか、この分裂は俺の愛が断ち切られることを示しているのではなかろうな?こういう輝きは、愛が分裂することを示しているのだ。おそらく、グエンドロエナは俺が別居している間に、新しい男に抱かれて喜んでいやがるな。
なんてことだ、俺以外がグエンドロエナとよろしくやってるとは。ぶらぶらしてる間に、俺の権利が奪われるとはなあ。えてして愛に怠けるものは、愛に勤勉なものに打ち負かされるし、別居と言うのは近所の男にかなわない。
だが、俺は嫉妬深いわけではない。彼女は結婚によって妥当な庇護を受けているのだし、俺の許可に従って新しい男と楽しく暮らしているのだからな。よし、明日の太陽が上がったら、立ち去るときに約束したように贈り物を持って出発しよう」
そうつぶやくと、マーリンは、雄鹿、雌鹿、雌山羊の群を一列に集め、雄鹿に乗って森を出発した。
マーリンは急いで鹿を走らせ、夜が明けたころにはグエンドロエナの結婚している場所にたどり着いた。
それから、鹿を門の外に根気よく立たせるとこう叫んだ。
「グエンドロエナ、出て来てくれよ!プレゼントを持って来たんだ!」
すぐにグエンドロエナは姿を見せると、鹿を従わせ、これに乗っているうえ、まるで羊飼いが牧草地で羊を従わせるかのように多くの動物達を従えているマーリンを見て驚きつつも微笑んだ。
これを高い窓から見ていた花婿は鹿に乗るマーリンに驚きつつも、笑い出した。
だが、マーリンはこの男を見ると、そいつが何であるかを理解した。
すぐさま、乗っていた鹿から2本の角を引きちぎると、それを振り回して投擲、角は男の頭に突き刺さった。
こうして、マーリンは男を殺害してしまい、男の魂は天に召されたのだった。
すぐにマーリンは乗っていた鹿の腹をかかとで蹴りつけ、森へと帰って行った。すぐさま使用人達が飛び出してくると、野原を駆けるマーリンを追跡し始めた。
もし、森のにある川がなかったのなら、マーリンは森に逃げ帰る事ができただろう。一緒にいた獣達は川の流れを素早く飛び越えたのだが、マーリンは鹿の背から滑り落ち、急流の中に落ちてしまった。使用人達は騎士に並ぶと、川を泳いでいたマーリンを捕まえて縛り付けると、ガニエダのもとに連行した。