19章 マーリンは王に推薦される

 

 

マリーン達がこうしている間のこと。

ケリドンの森に新しい泉が湧きだし、長い間精神に異常を来たし、森で人間の振る舞いを忘れ、獣のように生活していた男がその水を飲んだところ、正気をとりもどしたという噂が広まっていた。

 

すぐに貴族や族長達は泉の視察に訪れ、泉によって癒されたマーリンを見て喜んだ。

それから、彼らはマーリンに対し、ブリタニアの現在の状態について説明すると、マーリンが再び王笏を取り、人民に対し善政を敷いてくれる様に依頼した。

 

「若者よ、俺はすでに老人に近づきつつある。俺の四肢の力は弱ってしまい、充分な働きはできないだろう。他をあたってくれ。俺は充分長生きしたし、充分に幸せな日々が俺に微笑んでいてくれた。

森では古く、そして力強いオークの木が立っている子の。だが、実際はオークは消耗しきっているのだ。樹液は不足しており、内部は腐敗しつつある(ウェールズの詩、Iolo Manuscriptsに似た表現があるそうです。)。俺はこのオークが育ち始めるところを見ていたし、ドングリを落とすところ、キツツキが木に止まり、枝を見ているところを観察してさえいたのだ。

そのオークが調和を持ちながら生長して様子など、全てを見てきた。この大地で恐れることは、俺の立ち位置が衰えぬ精神とともにあることができるかどうかだ。

君達も、俺が高齢者であり、その老いが体を拘束しているが分かるだろう。だから、二度目になるが、君達の頼みは断らせて貰う。

インドで取れた宝石や、タグが岸辺で取ってきた黄金、シシリー産の穀物、メディス産のブドウ、そびえ立つ塔や城壁で囲まれた都市、芳香につつまれたティルスのローブなんかよりも、俺はケリドンの豊かな森の中、緑の葉の茂る木陰の下で過ごす時間の方が好きなんだ。

常に喜びを与えてくれるケリドンから、この俺を引き離すに足りる楽しみは存在しない。ここで俺はリンゴや草に楽しみを感じ、信仰による断食によって身を清める。この断食は未来永劫に俺の人生に付け加える価値があるものだろう。」

 

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