9章 イヴァンの結婚


 

和解が成立し、イヴァンとローディーヌの結婚が決まると、イヴァンはローディーヌに連れられて広間にやってきた。
広間では、武装した騎士や郎党たちが控えていた。
彼らはイヴァンに対して敬礼し、丁寧にお辞儀をした。
郎党たちはこのようにささやきあった。

(この方がレディの選んだ騎士か…。なんとも美しく立派な方だろう!)
(この結婚に反対できるものは誰もいないだろう。まさに、この男はローマ帝国の王女とすら結婚するに相応しいだけの力がある。)
(結婚式は、今日か明日にでも行われるんだろうなぁ。)

広間の奥には、レディが座るべき椅子がある。
イヴァンはそこには座らず、レディの足元に座ろうとした。だが、レディはイヴァンに命じて立ち上がらせると、執事に対し口上を述べるように命令した。

「閣下」と執事は広間にいる者たちに聞こえるように大声で言った。この場合の閣下、とはもちろんイヴァンのことである。

「我らはまさに累卵の危機に直面しております。王は我らの領土に向け、騎士たちを派遣するべく準備をしています。
勇者が立ち向かわない限り、我が領土は荒廃することになるでしょう。
7年ほど前、レディは前の領主と結婚なさいましたが、もう彼は亡くなりました。
レディは女性ですから盾や槍を使うことはできません…。」

そこまで言って、執事は一旦口を止めた。本題に入る前、少し間を置くことで演出効果を狙ってのことである。
あと、ところでレディって今幾つなんだ、寿命の短い中世期の結婚適齢期は何歳くらいか知らないが…、まあ詮索はしない。

「もし、レディが優れた騎士を配偶者に迎えれば、この地は自治権を保つことができるでしょう。
この地が消滅してしまう前に、閣下にはレディと結婚していただきたい。」

執事がこのように宣言すると、家臣一同はレディに跪いてイヴァンとの結婚を願った。
実際、ローディーヌはイヴァンとの結婚をややためらってはいたのであるが、この光景を見て言った。

「わかりました。皆が望むのなら、私はこの方と結婚いたしましょう。
この方がこの地を守ってくださるのなら、私は喜んで彼に尽くしましょう。
――私は、ついさっきまでこの方が誰だか知りませんでした。この方こそ、ウリエン王の子イヴァン卿です。
偉大なる血を引き、また武勇に優れ礼儀作法にも詳しい方です。」

これを聞いた家臣達は、大喜びでこの結婚に賛成した。
そして、即座にイヴァンとローデント公爵の娘、ローディーヌ・ドランドックの結婚式が取り行われ、皆に祝福を受けた。
――ちなみに、何度か書いてきたが、この物語ではキャラクターの名前が表記されないことが多く、ローディーヌについてはこのシーンで初めて名前が出てきたことをお伝えしておく。

そして、人々は既に死んでしまったかつての領主のことを忘れ、その領主を殺してしまった男を主として尊敬することになったのである…。
――なんかこの辺、訳者としては釈然としないものがある。
さて、そんな幸せな日々も長くは続かない。ついに、アーサー王たちがレディの領土にやってくるのだ。
その話は次回で。

2009/11/25

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